表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蝶々姫シリーズ

【フィローリ逆誕生日2024】ケーキにご用心【蝶々姫シリーズ】

作者: 薄氷恋

世界暦─1481年─

まだシャロアンスがカテュリアに居た頃、フィローリが自分の誕生日に怪しいケーキを作り、シャロアンスに食べさせるお話。

名付けて「逆誕生日」。

「うん、こんなものかな」


 フィローリは出来上がったばかりの紫色のケーキを前に、満足そうに額の汗を拭った。


「あ、いたいた。……って何してんだ? フィー」


 丁度シャロアンスが厨房の扉を開けて、中に入ってくる。


「シャロ、君に食べてもらうケーキが今丁度、完成したんだ」

「え? お前が作ったのか? お前、今日誕生日だろー? なんで俺が食うんだよ」


 それに……と、シャロアンスが見下ろしたケーキはハート型で、クリームが紫色をしていて、更にカティの砂糖漬けまでふんだんに飾られていた。


 何だか気まずい。形が原因か?


「さ、食べてよ。僕からの逆誕生日プレゼントだよ」


 フィローリはフォークまで差し出してくる。シャロアンスは戸惑いながらも受け取って、ケーキに向き直った。


「逆誕生日プレゼントってなんだよ。……ま、いっか。フィーが作ってくれたなら……」


 食前の祈りを捧げて、シャロアンスがケーキにフォークを入れる。

 中のスポンジも紫色をしていた。

 間に挟まっている紫色のジャムは黒スグリだろうか。

 ひと口食べて、シャロアンスは感動した。

 物凄く美味しい。クリームは新鮮で、色はブルーベリーに似ているが……何だろう? よく解らないけどもとにかくまろやかで甘くて美味しいし、毒抜きされたカティの砂糖漬けも良いアクセントになっている。


「美味いぜ! これ、フィーも食えよ。勿体ないぜ、こんなに美味しいのに……ん?」


 ぱらり。シャロアンスの髪をうなじで束ねていた髪紐が髪を滑って厨房の床に落ちた。


「あれ? なんで?」


 シャロアンスは咄嗟に広がった髪に触れ、その手触りが変わっている事に気づいた。

 不摂生で、髪質はそんなに良い訳ではなかった。

 なのに、この髪はなんだ?

 とぅるとぅる、といいたくなるほど艶やかな髪になっているではないか。

 髪紐を拾って元通りに結ぼうとするが、とぅるとぅるすぎて手に負えない。


「おい、フィー。これ何が起きてるんだ?」


 と、フィローリを見るとどこから出したのか、彼は研究書に書き物をしているではないか。


「髪質の劇的な改善が見られた、と。ああ、シャロ、気にしないで」

「おい、ツヤツヤすぎて髪が結べないんだけど……」


 困りきった顔のシャロアンスはフィローリに助けを求める。


「僕が編んであげるよ」

「え? 編むのかよ。学生時代みたいに? またエビみたいに反らないか?」


 シャロアンスは学生時代に、まだそこまで長くなかった髪を編んでいたが、不思議と自分で編むと上向きに三つ編みが反り返ってしまっていた。


「反らないよ、こんな綺麗な髪になったんだもの。ほら、後ろ向いて。髪を編んでおかないとトイレに行く時に困るよ」

「え?」


 なんだか不穏な言葉を聞いたような気がした。


「ほらほら、後ろ向いて」


 シャロアンスは無理やり後ろを向かされた。フィローリが手櫛でシャロアンスの髪を編み始める。


「あれ、思ったより効き目が強いね。髪が全然編めないや」

「効き目?」


 フィローリは唇を開くと、細く息を吐いて風の元素の力を使い、髪を支えさせて編んだ。

 このままでは髪紐で結んでも解けるだろうから、フィローリは結い終わりの結び目にそっと気付かれないように口付けて風の元素で固定した。

風の元素はフィローリの目の色をした髪飾りに変化する。


「出来たよ」

「ありがとな。髪を解いていると鬱陶しいから助かったぜ」


 そうシャロアンスが呟いてフィローリの方を笑顔を向けた時、シャロアンスの腹が急に痛くなった。まずい、これは……便意だ!


「悪ぃ! トイレ行ってくる!」


 そこらの女にはとてもではないが、勝てないだろう美しい三つ編みお下げを揺らして、バタバタとシャロアンスは厨房を後にした。

 フィローリは研究書にペンを走らせる。


「食べて10分後にありとあらゆる老廃物が排泄される、と。お肌も綺麗になるだろうね」


 ──暫くして、永らく彼の顔に居座っていた目の下のクマも消え、お肌がツヤツヤしたシャロアンスが手をハンカチで拭きながら戻ってきた。

 本人はツヤツヤの肌にはまだ気付いていないらしい。


「なぁ、すんげー出たんだけど。なんなのこのケーキ。下剤でも仕込んだ? 確かに髪編んでもらって助かったけどよー」


 流石に不信感を抱いたシャロアンスが問うと。


「ん? これ? 僕の最高傑作の薬膳ケーキ」


 と、フィローリは悪びれもせずに言った。


「お前なぁ、人で実験するなよ……ん!? あれ……?

目が!」

「目!?」


 眼鏡を外し、目を押さえて俯いたシャロアンスにフィローリが慌てる。

 そこまではフィローリも想定していなかったらしい。


「シャロ!! 見せて!!」


 無理に顔を上げさせ、その手を掴んで退けさせたフィローリと、びっくりして目を丸くしたシャロアンスの緑と蒼の視線が絡まる。


「……見える」

「え?」

「眼鏡無しでもフィーの顔がハッキリ見えるぜ!! 視力まで回復しちまうなんて、すっげえケーキだな! なぁ、レシピ教えろよ!」


 喜色満面といったシャロアンスの顔は、髪型といい顔つきといい、まるで美女だ。いや、白衣の女医に間違われるのは請け合いだ。


 フィローリは急に面白くなくなった。


◆◆◆


 ───後日。研究室にて。


「なぁ、なんで眼鏡掛けろって、伊達眼鏡くれたんだ?」


 フラスコに薬品を入れながら、ツヤツヤお肌に三つ編みお下げの、伊達眼鏡を掛けたシャロアンスがフィローリに向かって訊いた。

あれから髪質が戻らずにいる為、シャロアンスは毎朝、フィローリに髪を編ませている。

役得だとフィローリは思っているが、シャロアンスはどうなのか。どうにも思ってないかもしれない。

何せ毎朝、毛先に結び目に口付けられているのにも気付いていないくらいだからだ。


「眼鏡を掛けているシャロが、僕の知ってるシャロだからだよ」


 危ない。あのケーキは封印しなくちゃ。

 あんなに可愛いシャロがその辺をウロウロしたら誰かに襲われてしまう。

 それに、僕は眼鏡越しのシャロが一番好きみたい。

 可愛い可愛い素顔は僕だけが知っていればいいんだ。



 ──フィローリの心の呟きは彼のみぞ知る。


 ~完~

実はフィローリ誕生日2023「愛でなくてなんなのさ」の一年後の設定です。

相変わらずクソデカ感情を互いに向けあっている二人ですが、付き合ってません。

もう付き合えよ! フィー&シャロのばかぁ!

そしたらフィローリの寿命も、もう少し長かったよ、絶対。

ラゼリードはモニにあげて、デカい男二人でイチャイチャしててくれ!

しかしそれを許さない悲劇の本編ルート……。

いや、これも過去だから本編の一部なんですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ