第98話
(やはり本能でなんとなく、怒らしてはいけない女性ギルド職員と察知したか)
ハインツはそんな事を考えながらも、視線を見慣れない
2人にさりげに向けた
次に声を発したのは、歴戦の戦士を思わせるような厳しい貌の
白髪が混じり始めた黒髪を短く刈り揃えた50代半ばの人物だった
「私は、このロージアン領主でバルツァー侯爵家の長である
ギルベルト=フォン=バルツァーだ
そうかしこまらなくてもよいので、楽にしてくれ」
貴族階級に属する人物であること知った、ハインツ達中心メンバーを
含めた300人の冒険者達は一斉に姿勢を正し背筋を伸ばして畏まった
眼光は鋭く射抜くような視線を放っている30歳前後といった感じの青年は、
どうやら護衛従士のようだ
一言も喋ろうとはしていないが、全身から放つ強者の気配が
ハインツ達を中心に集まった冒険者達を圧倒していた
「最後に・・・これからロージアンで活動する冒険者のおっちゃんや兄ちゃん、
そして姉ちゃん達に簡単なレクチャーをするのはこの俺、ベイセルだ」
何処か緊張気味な様子で自己紹介したのは『ちびっこ先生』の愛称で
呼ばれているベイセルだ
見た目は11歳から12歳の子供にしか見えないが、その表情は
何処か落着き払っている
それに言葉遣いもだ
会議室にいる一癖も二癖もある300人の冒険者達は、誰一人小馬鹿にした
様子は微塵も無かった
恐らく前日に十代の子供が醸し出すものでは到底無い、凄みのある
気迫を見せつけられたからだろう
「一通り自己紹介も終えた事なので―― ちびっこ先生
彼らにレクチャーを」
『ギルドマスター』エンゲルベルトの言葉に、ベイセルは
大きく息を吸って吐いてから返事をした
それはまるで、覚悟を決めたかのように
「まずは基本的な事、このロージアン領内からだ。
大陸西部の最果てに位置するロージアン地方は、大陸中央部の
高地と北部山間部の寒帯地域との境界線に位置した
山岳地帯の麓で、東西南北を万年雪の高山に囲まれた
広大な盆地に位置している。
その為、年中気温が低く冬季には降雪も多い。
人口約400人程度で、約半ほどがこの南西側の麓に位置する
首都バルツァエックに集中しており、残り半分程が宿場町と集落が
点在している。
農業には適した肥沃な土地に恵まれてはいるが、魔境が広がり
強力な魔獣や怪物が棲息しているため、開拓作業が滞ったままだ
魔境から溢れ出る魔獣達の討伐が急務とされているんだが、強力な
魔獣や怪物の棲家である魔境を探索するには冒険者達を動員しなければならない。
残念な事にロージアン領内を含めた辺境には冒険者が皆無に等しいため、
今回思い切ってロージアンご領主様とロージアン『冒険者ギルドマスター』
エンゲルベルトのおっちゃんが協議して各『冒険者ギルド支部』を
通じて冒険者を募ったんだ。
・・・続いてロージアン周辺についてだ
ロージアン領地近隣には幾つかの都市国家群や小国家群が存在している。
それらの国々はそれぞれの国境を接しているが、ロージアンはご領主様の
外交手腕もあって全て友好関係を維持して交易もしている。
また、山脈越えをして西部内陸諸国連合や北部同盟諸国とも
交流と交易を行っている
ただし都市国家群や小国家群は、今も昔もそれぞれで
睨み合いを続けているため繋がりがほとんど無い状況だ
特にこの近年は、都市国家群や小国家群で天候不良による酷い
飢饉や疫病の発生等で国境が封鎖されたり、ロージアンへ繋がる
一部の街道や峠道が土砂崩れや大雨の影響で通行不能になった事から、
直接の行き来が出来なくなったんだ
ロージアンと各国とを繋ぐ主要な経路は、現在2つの峠道を
抜けるルートのみとなっている」
ベイセルがそう説明を続ける
ハインツは以前にエンゲルベルトから簡単な説明を聞いていたため、
同じ内容だった
が、それ以外の300人の冒険者達は初めて聞く内容なので
真剣な表情を浮かべて聞いている
(ま、この国に関しては知らない事が多いからな・・・俺も含めて)




