第92話
「まず、道中が一番楽に進めたのは『運搬人』ヴァレーアです
駆け出しとは思えないほどの野営準備や食事準備は完璧で、
料理の腕も一端の料理長クラスの腕前ですよ
ヴァレーアがいなければ道中は、今までと同じ苦労したでしょうね
戦闘に関してはまだ未知数といったところですが、それを気に
させないほど優秀ですね
あれで完全に応募した300人の冒険者達の胃袋は掴んだと
言っても過言ではないでしょう 」
アルヴィンは先ほどまで何処か飄々とした雰囲気より真剣な様子で報告する
その答えを聞いたエンゲルベルトは、しずかに頷く
クロワはその言葉を聞き、アルヴィンの机にある書類を手に取り目を通した
書類には、エンゲルベルトがアルヴィンにに対して事前に指示を出していた
事柄が記載されていた
「成程・・・」
クロワが呟くと、また少しの間静寂が訪れた
「あともう一つは、「迷宮道士」カルローラです
あの嬢ちゃんの『マッピング』」技術は―――恐ろしいほどの正確です
それにより危険な魔物や魔獣に遭遇する事もありませんでした」
アルヴィンの言葉を聞いて、エンゲルベルトは顎に手を当てた
「それはどれくらいだったの?」
アルヴィンの報告書を見て考え込んでいたクロワが尋ねる
「地形、魔物、魔獣、あと素材類まで地図上に網羅、物の種類や
特徴もしっかり把握しており正確な距離も図示してたよ
地図作成技術の最高位に位置するのに、それで駆け出しだって言うんだから
恐ろしいお嬢ちゃんさ」
アルヴィンはごそごそと懐から問題の「マッピング」地図を
取り出しつつ言いながら、エンゲルベルトに報告書と一緒に渡した
エンゲルベルトは、アルヴィンの報告書とその地図を受け取る
地図の出来映えを一目で確認すると驚きの表情を隠せない
「・・・さすが狂乱を巻き起こしだだけある。
大陸広しといえども、これほど正確な『マッピング』地図を作る
冒険者は皆無だ
しかし、迷宮内部の『マッピング』だけでなく外の地形までとは・・・」
エンゲルベルトは報告書と地図を見ながら、ため息交じりに
言葉を漏らす
クロワもソファから再び立ち上がり、その緻密な地図を覗き込んだ
そして、その地図を食い入るように眺めると、驚愕し口元に
笑みを浮かべる
「確かにこの「マッピング」地図があれば、道中の安全確保は
問題なさそうね」
クロワはアルヴィンに視線を移しつつ呟く
「それともう1つ
これはハインツ中心メンバー達に関してですが・・・。
募集で集まった冒険者達と宿場町の住民との馴染み具合は、眼を
見張るものがありました
何と言ってもその動きから気負ったり、天狗になっている
感じが一切なく
最初は辺境だけあって若干の警戒もしていた住民も、一晩で
まるで昔馴染みの間柄のように打ち解けていました
リーダーのハインツも、『何この馴染み具合・・』って驚いてましたよ」
アルヴィンはハインツ中心メンバーが、募集で集まった
300人の一癖二癖もある300人の冒険者達と道中で打ち解けて、瞬く間に
馴染んでいく様子や辺境ならではのちょっとした閉鎖的な宿場町でも
住民の警戒心を解き親しみを持たれていく様子を思い
出しながら語る
「一癖も二癖もある300人の冒険者と馴染んだことにも驚くが、宿場町での
様子もか・・・」
エンゲルベルトは腕を組みながら静かに呟く
視線の先には机に散らばっている書類があるが、その一つが
ハインツ中心メンバー達の書類であり、エンゲルベルトは
その中の一枚を手に取る
その書類には、アルヴィンの語ったことが事細かに記載されていた
「他所から来た冒険者や旅人には、辺境の住民は結構警戒心が
高いのに、それを一晩で・・・。能力は侮れないわね」
クロワはエンゲルベルトが手にしている書類を見ながら呟く
「虎の着ぐるみのローザっていう中心メンバーは、宿場町の
子供達にやたら懐かれたりアトリーサとタルコットていうメンバーは
余所者には気難しいところがある自警団の青年達と情報交換するほど
親しくなったりしていたよ。
・・・ひょっとしたら俺達以上に馴染んでるんじゃないかな?」
アルヴィンがそう告げると、苦笑する
「聞いている限りだと、少なくとも新人冒険者にしてはありえないくらい
自然体ね
あたしだって最初からそこまで溶け込めたわけじゃないし、
アルヴィンもそうでしょ?」
クロワは一息つきつつ、そう応える
エンゲルベルトも、その報告を聞き何かを考えるように腕を組み、目を閉じて
沈思黙考している
「命じられば、中心メンバー一通り素性を徹底的に洗ってみますよ?
恐らく登録した『冒険者ギルド』では、把握もしていないことですし」
アルヴィンはエンゲルベルトに進言するように尋ねる
すると、エンゲルベルトは眼を開き、ゆっくりと首を振る
「 それは必要ない
この辺境ではただでさえ冒険者が足りんのだ。身元が不確かな者に
時間を割く余裕はない
それに下手な詮索は逆に不信感を与えかねないからな」
エンゲルベルトが口を開くと一語一語を明瞭に発音した。
アルヴィンとクロワが一瞬だけおたがいの貌を見合わせ頷くと、改めて
二人そろって 頭を下げ礼を取った




