第89話
「中央諸国で活動する大多数の冒険者は、自分の愛用の武器を好んで研ぎ師職人なんかに預ける事はしないわ 自分の命を預ける事になる大事な相棒ですもの、
自分の手でしっかり手入れしたいと考えるのが普通よ
まぁ、確かに冒険者が使用するものは殆どが消耗品だし、頻繁に
買い換えるのが 一般的ね」
ジヌディーヌの言葉を聞き、この場にいる多くの冒険者達が口々に
喋りだす
中には今まで知らなかった情報もあり、興味深そうに聞いている
冒険者の姿もある
「 有名『クラン』や「パーティー」連中も、研ぎ師職人に
『剣のメンテナンスを頼む』なんて言い出すことは殆ど無いな
大抵の場合は鍛冶屋に依頼を出す」
リザードマン種族の冒険者が、呆れたように呟く
「新品の方が安心感があるから良いってのか大半だからなぁ」
人間種族の冒険者がそう言葉を返す
「中央諸国じゃあ、折れてしまえば買い替える、自分の手で直せないと
判断した場合もまた買い替えるのが常識だからな
そういう意味では冒険者よりも鍛冶屋の需要の方が多い」
ノーム種族の冒険者の言葉に同意するように、周りの者達も苦笑いを
浮かべながら頷いている
「でも、 私の知り合いの何人かは定期的に手入れをお願いしているわよ?」
猫耳の女性冒険者が何かを思い出したかのように応えたりする
「分かりたくもなかったが、中央諸国が冒険者達に取って武器防具類に関しては
どれだけ環境に恵まれているのかが良く分かった
これからこの辺境で活動する冒険者のおっちゃんや兄ちゃんに姉ちゃん達には―――武器や防具が壊れたらいつでも買い替える事が出来るという甘い考えは
捨ててもらう」
ベイセルが真剣な眼差しで語り始める
表情は今までの柔和な雰囲気とは打って変わっており、その気迫は
十代の子供が醸し出すものとは思えない程だ
冒険者達はベイセルの雰囲気の変化に驚き、そしてその言葉の
一つ一つに聞き入っていた
それなりの修羅場を潜り抜けている冒険者達も多いためか、最初は
たかが十代の子供だと侮ったような態度だった者達も、
今は誰一人おらず知らず知らずのうちに真剣な面持ちになっている
「辺境地域が常に死と隣り合わせな場だと理解していない奴はいないぞ?」
ベイセルの雰囲気に呑み込まれたホビット族の冒険者が、震える声で呟いた
それは、ここにいる冒険者全員の心情を言葉にしたものだ
「・・・傷薬やポーションといった医薬品も、辺境では同じように
不足して貴重品?」
肩まである金髪で緑の瞳が特徴のキャプシーヌが、質問をするが
ベイセルの雰囲気に少し戸惑っている様だった
「ああ、そうだ
なにせ冒険者が居ないに等しいから貴重な薬草の採取もままならないし、
素材も殆ど無いに等しいからな
また薬草が生えている場所一帯には魔物や魔獣が多く生息していて
危険極まりない
そういった場所で採集を行うのは、他の地域だとおっちゃんや
兄ちゃんに姉ちゃんみたいな腕が立つ冒険者や熟練冒険者のような
ベテランのパーティーぐらいなもんだろ?
もし調剤師の姉ちゃんがここで冒険者をやるなら、常に回復薬や
解毒薬なんかは手元に置いておいた方が良いだろうな
これについては、他のおっちゃんや兄ちゃんに姉ちゃんにも言えるぞ・・・
まあ、もっと詳しい事は明日のレクチャーで詳しく説明するから、
今夜はゆっくり休んでくれ」
ベイセルは300人の冒険者達に何の臆する事もなく、休むように促した




