第79話
視線を村の入口の方へと向けると、中心メンバーが昨晩交流を深めた
村人達と改めて挨拶を交わしていた
比較的この集落の子供達と年齢が近いカルローラ、ヴァレーラと混じって
ローザが子供達と戯れている
虎の着ぐるみという恰好のローザなのだが、子供達はすっかり慣れてしまった様で
特に驚く様子は無くすっかり彼女に懐いているようだ
タルコットとアトリーサ、そしてカモサワという珍しい組み合わせは、宿場町の
若い青年達と言葉を交わしている
どうやら宿場町から首都の間に広がる大平原について、改めて情報を
仕入れている様だ
そのすぐ近くでは、ウルリーカとテレンスというこれまた珍しい組み合わせが、
宿場町の子供連れ親子達と仲良くなっていた
ウルリーカは最近生まれたばかりの赤ん坊におっかなびっくり接してるのだが、
母親に頼まれて一緒に遊んでいる
そんなウルリーカを見て、テレンスが微笑ましそうに表情をしつつ、簡単な
祝福の祈りを捧げてあげていた
最後にオオシマは御者のデボラに声を掛け、二人で何か和やかに
話し込んでいた
レスタントとデボラとはここまでなのだ
やがて全員の準備が整ったのを確認すると、ハインツが号令を掛ける
これからしばらく会う事はないかもしれないためか、宿場町の人々は街道を進む
冒険者パーティーを見送る
特にちびっこ先生の愛称の少年を見送る宿場町の子供達は、後ろ姿が
見えなくなるまでずっと手を振っていた
一行は順調に道を進んでいた
街道沿いには広大な草原が広がっており、天気もよく心地よい風が吹いていた
「そういえば」
ハインツがふいに口を開く
「なんだ?」
ハインツの呼びかけに振り返ったのは、ちびっこ先生という
愛称の少年だった
「名前を聞いていなかったと思ってね。
俺はハインツ・ネッツェル。ハインツと呼んでくれ。君はなんていうんだい?」
ちびっこ先生の愛称の少年は一瞬きょとんとした顔をすると、少し照れたような
笑顔を浮かべながら名乗る
「ベイセル = レーンだ。俺の事は気軽にベイセルって呼んでくれると嬉しい」
ベイセルの言葉にハインツは嬉しそうに微笑む
名前を呼ばれただけで、なぜこんなにも心が温かくなるのか ハインツは
その不思議な感覚に少し戸惑いながらも、その感覚を受け入れる事にした
冒険者達は、ゆっくりとした足取りで道を歩む
街道の両側には草が生い茂り、風に揺れるその姿はまるで波打ち際の
砂浜のようであった
しかし、ちびっこ先生ことベイセルの簡単な説明では、一見長閑に見えても
街道付近でも縄張り意識が強い魔物や魔獣達は定期的に襲ってくる事が
あるらしい
宿場町近くの街道周辺や首都周辺、そして幾つかの集落周囲は常に
警戒態勢が敷かれており、旅人が襲われないように見張っている
全ての街道を警戒する事は人員的にも無理があるためだ
ベイセルの話を聞き終えたハインツは、興味深げな貌で彼に尋ねる
「ベイセルは本当に、この周辺の地理に詳しいんだな」
そんな質問を受けたベイセルは、自慢げな表情をするでもなく、ただ素直な
気持ちで答えた
「死んだじいちゃんと良く冒険に出掛けてたからな。
自然と詳しくなったよ。それにここ最近は母さんと二人きりで生活していたから……あ、でもそのおかげで文字を覚えられたんだけど」
ベイセルは自分の知識が祖父との思い出のおかげだと、どこか懐かしそうな
貌で話している
しかしハインツには、彼が寂しげな印象を与えた
何故ならば彼の瞳が微かに潤んでいたからだ
「・・・ベイセルはやはり冒険者稼業やギルド研究員には興味がないのか?」
ハインツが静かに尋ねた
「母さんを1人にはできないよ。もし、俺が死んだら母さんが1人ぼっちになる」
そんなハインツの態度を気にせず、彼は笑顔で答える
だが、その笑顔は何処か空虚さを感じさせるものだった
そんなベイセルの様子を見たハインツは、それ以上何も言わなかった




