第68話
一方その頃、ハインツ達の到着を待っているロージアン冒険者ギルド支部
「ギルドマスター」エンゲルベルトは「サブ・ギルドマスター」アルヴィンから
緊急連絡用の使い魔からの報告を受けて息を吐いた
報告を聞いて最初は少し驚いていたが、聞くうちに納得して笑みを
零していた
その時、執務室のドアをノックする音が聞こえた
「どうぞ」
エンゲルベルトが短く言うと、女性ギルド職員が入ってきた
その手に報告書と思われる紙の束を持ってきている
年齢にして二十歳後半に見える女性は、腰まで伸びたウェーブのかかった
栗色の髪に青い瞳、服装は黒いタイトスカートに白シャツ、その上に革鎧を
装備していた
立ち振る舞いからすれば、少なくとも事務上がりの女性ギルド職員ではなく、
実戦経験豊富なベテランの剣士のように見える
彼女は、「ギルドマスター」であるエンゲルベルトの前に立つと
一礼してから用件を伝えた
「 数日前「ザブ・ギルドマスター」アルヴィンの使い魔より届けられた、募集に
応じた冒険者メンバーと人数の一覧整理が終わりましたのでお持ちしました」
女性ギルド職員がそう伝えながら、エンゲルベルトに手渡した
「……こいつはまた、良く300人も募集に応じたものだ
アルヴィンの奴、良くこれだけの人数一人一人の事細かな情報をまとめ上げたな」
書類を受け取ったエンゲルベルトは、驚きの声を上げながらも、書類の束を
確認していく
「しかし、人数は元々100人程度だったはずですが……」
女性ギルド職員が眉間にシワを寄せつつ視線を向ける
「少しでも腕の立つ奴が欲しい所だったんだが、まさか「仇名」持ちの
凄腕が数十人も応募に応じていたとは、全く予想すらしていなかった」
エンゲルベルトが嬉しそうな笑顔を隠そうともせずに応える
「整理しつつ記載されていた追記を確認しましたが、「仇名」持ち以外の
冒険者もかなりの凄腕が揃っているようですね」
女性ギルド職員が感心した様子で呟く
彼女の名は、クロワ ・ラヴァッツィという
中央「冒険者ギルド」総本部でエンゲルベルトの下で補佐を務めていた
女性職員だ
左遷されたエンゲルベルトに付いてきた数少ない部下の一人でもある
彼女が現在受け持っている仕事は、辺境地域ロージアンの冒険者ギルド支部に
おける運営管理全般だ
「ハインツが持っている募集者名簿には幾つか省かれているから、所載は
知らんとは思うが・・・
少数人数の「クラン」、3名から4名から成る「パーティー」がまるっと
応募している」
エンゲルベルトがそう言いながら、書類の中から一枚の紙を抜き出した
そこには冒険者ギルドが独自に発行している、冒険者ランクの表が記されていた
「私も一覧整理をしつつ確認しましたが『鋼鉄』級「クラン」が2、
『蒼玉』級「クラン」が2、金剛級「パーティー」が12組ほど・・・
「クラン」にも「パーティー」にも
入らず渡り歩き、最高ランクの蒼玉等級まで登り詰めた冒険者が数人いますね」
クロワが呆れた表情を少し浮かべつつ言った
「それだけだと上位冒険者の博覧会だが、幸い銅等級冒険者も含まれている」
エンゲルベルトが苦笑を浮かべる
「・・・所で「ザブ・ギルドマスター」から、また連絡が?」
クロワが何かに気が付いたのか訊ねる
その言葉にエンゲルベルトが眉間にシワを寄せた
それから小さく息を吐いて応えた
表情は真剣なものへと変わっていた
その貌を見て、クロワは思わず緊張して息を呑んだ
「第一報がきたばかりだが、アルヴィンはロージアン領へ向かう途中にある
『浸食魔』の巣と『人外生物』の巣を「ザブ・ギルドマスター」権限で叩き
潰すそうだ
状況次第ではクロワ、お前に出向いてもらう可能性が考えられる。
その覚悟は決めておけ」
クロワがエンゲルベルトの言葉を聞いて、無言のままに小さく首肯した
「出向く事を厭うつもりはありませんが、もう少し状況を知りたい所です
慎重な性格な彼が、珍しく「ザブ・ギルドマスター」権限で『緊急討伐』を
命じた事も、少し気になります」
クロワが目を細めて、エンゲルベルト騎馬騎士のような精悍な風貌を
見つめた
エンゲルベルトが口角を僅かに上げてニヤリと笑った
「そりゃあ、思いがけないほどの強靭な底力を持った凄腕冒険者達が
集まったからだろう?
もし、銅等級冒険者ばかりなら幾ら何でも2つの巣を潰す様な、無謀すぎる
判断は下さないはずだからな」
エンゲルベルトが、どこか嬉しそうな笑顔で告げた
その言葉でクロワも納得したようだ
「そのように考えて間違いなさそうですね
『浸食魔』の巣と『人外生物』の巣は、ロージアン辺境地域全域を脅威に
陥れる可能性があるほど危険な場所
だからこそ、彼も普段以上に慎重かつ迅速に対応する事を選んだ という事で
しょうか」
クロワが同意しながら考え込む
「2つの巣を潰してしまえば、多少脅威は軽減されるそれは確かだな
しかし、奴らが危険である事は変わりない
何せ連中は縄張り意識が強い
襲撃して殲滅すれば、もう2度と集落などに襲撃を仕掛けてくることはない
逆に失敗すれば――地獄の門が開く事になる」
エンゲルベルトがそう言って、眉間にシワを寄せながら険しい表情を浮かべた
「――ご領主ギルベルト=フォン=バルツァー辺境伯様に、御報告申し上げねば
なりませんね」
クロワも緊張と不安が入り混じった表情を浮かべつつ、言葉を発する
「ああ、そうだな
この案件についてロージアン冒険者ギルド「ギルドマスター」として正式に
「緊急依頼」を発令する
クロワ、お前の配下より『浸食魔』と『人外生物』と斬り結ぶ度胸のある
ギルド職員4人に緊急招集をかけろ
俺は辺境伯様に御報告申し上げ、領兵部隊の派遣を要請しておく」
エンゲルベルトが鋭い眼光をクロワに向けて指示を出す
その言葉にクロワが小さく首肯すると踵を返して部屋から出て行った
――『 『浸食魔』『人外生物』2つの巣の駆除に成功被害なし 』
その情報が届けられたのは、1週間後の早朝だった




