第64話
「マジかよ!? こんな高レベルの回復職なんて聞いたことねぇぞ!?」
前衛職の精悍な貌立の冒険者の1人が、驚きのあまり声を上げた
その言葉の通りで、目の前で起こっている現象は常識では
考えられないことだった
通常では、魔法による回復には個人差があり、対象の魔力保有量によって
回復する効果が変化する
「その前にあのガタイで回復職なんて詐欺だ」
筋骨隆々の巨漢の回復士を見つめながら、呆れたように言ったのは、
ドラゴンと人間のハーフとされている種族、ドラコン種族の冒険者だ
テレンスは体格に恵まれた屈強そうな肉体をしているため、募集で集まった
冒険者達は全て前衛職だと決めつけてしまっていた
だが実際は、彼の職業は『回復士』なのだ
前衛職の冒険者達が戸惑っている間にも、すでに後衛職の冒険者達が
すでに動き始めていた
「武器に属性を付与します!」
次にそう告げたのは、着古した感じの白綿シャツと黒ズボンの上に
魔術師のようなフード付きの灰色ローブを着用した後衛職の女冒険者だ
全体的に地味な格好だが、腰の中程までの白髪を黒く染めている
貌立ちはかなり整っており、美人といっても過言ではない容姿をしていた
その女冒険者が両手を前に突き出し、何かを唱えると、彼女の掌の前に
淡い緑色の光が発生して、徐々に形を成していった
その光が消え去った時、そこには一本の杖が握られていた
片手用の小ぶりの剣と同じくらいの杖だった
それを彼女は何かの詠唱と共に振り回すと、前衛職も遠距離職の冒険者達全員の
武器や防具に属性魔法が付与された
その瞬間、彼ら全員の武器や鎧が淡く緑色に発光した
これは、彼女が得意とする属性魔法の付与だった
この属性魔法の恩恵により、彼らの持つ攻撃・防御・速度の能力値が格段に
向上した
それを確認した冒険者達は、再び驚愕した
「只者じゃないぞ・・・あの後衛」
先ほどの精悍な貌立の冒険者が呆れとも言える表情を
浮かべつつ呟く
「この大陸の魔導士ちゅうのは、化け物ばかりなのか!?」
「銃土」のクリスティアンが誰ともなしに尋ねた
「そんな訳がない!! んな事より今は戦闘に集中だ!!」
窘める様に大声で告げたのは、ドワーフ種族以上に強靭な肉体を持ち、
トカゲが二足歩行したような種族、リザードマン種族の冒険者だ
すでに前衛職の冒険者は散開してそれぞれの役割を果たすべく
行動を開始していた
遠距離職達は後方へ下がって魔法による攻撃準備を整えている
それぞれが役割を全うすべく人外生物との距離を取りながら臨戦態勢を
取っている最中、まず攻勢を仕掛けたのは遠距離職達だった
積極的に向かってくる人外生物の進行前に、土魔法を習得している
支援職の冒険者4名が、土壁を幾重にも展開していった
そこに人外生物が突っ込むと、次々と壁に激突した
しかし、その程度の障害で勢いが衰えることは無いのは織り込み済みなのか、
次に動いたのは毒魔法や火炎魔法を習得している支援職の冒険者3名だった
壁の陰に隠れるようにしながら、その後方から魔法を人外生物に
向けて放ち始めた
岩壁に次々と激突している人外生物が天災に等しい業火に染まり、散布された
猛毒が全身に染み渡っていく
耳障りで聞くに堪えない金切声が辺り一帯に響き渡るが、それでも人外生物の
群れは次々と奥から前進してくる
もちろん天井から縦横無尽に走りつつ向かってくる人外生物の姿もあった
「弓職! 天井を狙い撃て!!! 人外生物が降ってくるぞ!! 魔法職は各自の
判断で援護!! 接近戦職は敵が落下してきたら即座に殲滅しろ!!」
カーリンが矢継ぎ早に指示を出す
「狙い討つ!!」
そう応えたのは刈りこんだ茶髪に蒼い眼、褐色の膚色の冒険者だ
彼は長弓を構えているが、そこには古代文字のような文字が
至る所に刻まれていた
その武器は、彼の職業である弓使いの熟練度が一定以上の数値に達すると、
自動的に出現する武器であり、武器名は"魔導弓"といった
武器には通常ではあり得ない現象が幾つか起きていた
その一つが、弓を引く動作と同時に弦の張力が上昇し、その分だけ弓の
強度が増していくことだった
さらに、魔力を通すことによって、攻撃力を飛躍的に上昇させる効果まで
備わっている
これにより彼の放つ矢は通常の矢よりも遥かに速く、大型の魔物や魔獣を
貫き射ち抜くことが可能なのだ
長弓を構えている遠距離職は、その冒険者だけではなかった
十数人以上の冒険者達がいるが、その中でも特徴的なのは数人の冒険者だ
1人は貌を狼らしき仮面で隠し、フード付きロングジャケット、黒革ロングブーツ、
白黒ストライプパンツという出で立ちの冒険者だ
その冒険者が手にしているのは放散型系の長弓で、冒険者達からは
伝説級と呼称される『2つ名』付きでもある
彼の職業は遠距離職の「弓兵」だ
だが、この冒険者の真骨頂は弓術の腕ではなく超長距離からの狙撃だった
そして伝説級の『2つ名』付き長弓には、元々から雷炎系の攻撃魔法の
付与が施されており、それが彼の手にする弓に帯電し、今まさに
解き放たれようとしていた
彼が人差し指と中指の間に挟んでいるのは鏃ではない
魔晶石と呼ばれる魔法の源となる鉱石だ




