第53話
リンガラム山脈を越えてロージアンへ徒歩で進むには、険しい峠道や
道なき道を進まなければならない
また、最短直前へと繋がる峠道は幾つか土砂崩れで通行不能になっている
箇所があり迂回路を辿らなければならなかった
行軍するにも足元を注意して進まなければならない
約300人程人数ともなれば、水場や野営地の場所を確保するだけでも
大変な作業となる
食料調達、武具の整備、寝床の確保、戦闘訓練、そして何より集団の
規律を保つ事が難しくなる
人数によって、必要とされる場所の条件は大きく異なる
しかし、どんな状況であっても集団が崩壊するような事態になれば、その後の
行動は非常に困難になる
そのため、集団行動中の食事や休憩などの規則は厳しく定められ、違反者には
罰則が与えられる
そして、集団が一丸となって同じ方向を向き、目的のために
邁進しなければならない
大所帯でありながら統率が取れた状態で行軍できているのは、1人1人の
冒険者達が実戦経験豊富な猛者揃いであるからで、 彼等の実力と集団で
行動する際の立ち振る舞いが、集団の結束と安定を生み出しているのだ
彼等の表情からも余裕が感じられる事から、全員が自分の役割を理解した上で
冷静に物事に対処している事が伺える
特に野営や食事類で手間がかからなかったのは、『運搬人』で「空間収納」
保持者のヴァレーアが収納した物資が、 他の荷物と一緒に
まとめて収納されていた事もある
またヴァレーアは料理の調理系技術も優れており、その手際の良さは熟練の
『料理人』を彷彿させるものだった
その味は、初めて料理を提供された約300人の冒険者達が感嘆の声を
上げるほどの腕前であり、 誰もが彼女の腕前に舌鼓を打っていた
本来なら迷宮や魔境の探索では保存食しか食べる事は出来ず、満足な
食事は出来ない
場合によっては食糧難で立ち往生する危険性もある
料理を作る事自体、冒険者にとって至難の業だ
「冒険先でも、日常的にも食べられないほど豪華な具だ」
手渡された椀に湯気を立てたスープが注がれているのをみて、冒険者達は
口々に驚きの言葉を発している
スープから立ち上る香ばしい匂いに食欲が刺激され、全員の目が
輝いている
目の前に出されたスープ皿からは、肉や野菜の出汁が溶け込んだ
濃厚な香りが漂ってくる 具材は、数種類の根菜と鶏肉、
そして柔らかそうなパンが入っている
見た目はシンプルに見えるが、この世界では贅沢極まりない
逸品といえる
「冒険者稼業を続けていて、今までこんな贅沢な飯を食ったことが無い」
一人の冒険者が感動のあまりに声を上げた
「俺がいた前の「クラン」でも、こんな豪華で旨い飯なんて提供もされなかった」
別の冒険者も同調するように言う
「冒険者稼業するまでいた村でも、こんな食事なんてあり得なかったよ」
椀から感じる熱気が信じられない様子で見つめている別の冒険者が呟く
ように言葉を零す
スープの表面には油が浮かび上がり、光を反射して輝いていた
その艶やかな輝きは、まるで黄金を溶かしたかのような印象を受ける
幾人かの冒険者は、椀を持つ手を震わせている
「 「パーティー」の野営なんて基本、魔獣の餌か魔獣の死骸が主食さ・・・
スープも碌に出汁など取っていない上に、干し肉や乾燥させた
穀物なんか入っているのが普通だしね・・・」
椀の中の具材を見つめながら、冒険者の一人が答える
「ああ、魔境ならその辺の雑草とか木の皮を煮て、それを飲むんだぜ」
別の冒険者がぼそっと呟くと、それを聞いた複数の冒険者がぎょっとした
視線を向けていた




