第52話
小雨の降りしきる中交易都市ルングーザの西門から、行商人を護衛した
冒険者達が一路西部辺境のロージアンへ向けて出発した
「こんな天候の中、わざわざリンガラム山脈を越えるなんて・・・」
道の両端を行き交う商人の1人が、その集団の姿を眼に入れると足を
止めて呟いた
その視線の先には、かなり大所帯集団が門を潜っていた
小雨が降っているとはいえ、まだこの季節は湿度が高い
そのため、全身ずぶ濡れになる事は避けられないが 大所帯の集団は誰も
口を開こうとしていない
集団には人間族の冒険者に混じって、エルフやホビット、ドワーフ、ノーム、
獣人族系のラウルフ、ウェルパーなど多種多様な種族達の冒険者達の
姿もあった
誰一人として会話をしようとしない事がいささか不気味だったが、彼らが身に
つけた装備が明らかに駆け出しの新人冒険者ではない事を証明していた
其の全てが傷だらけの焦げて擦り切れた鎧や、使い古された剣や槍、弓、斧等、
それらは歴戦冒険者の武器であることが一目で分かった
普段は行き交っている他の行商馬車が多いが、小雨が降っているためか少なく
通行人もまばらだった
西門の近くにある宿屋に泊まっていた冒険者の1人が、大所帯集団を何と無しに
見ていると、何処かで見た貌の冒険者を見つけた
それはかつて魔獣を共同討伐したある「クラン」メンバーの男の面差しと
似ていたため、彼は思わず足を止めた
その男も全身が薄汚れたような装備を身につけていた
どう見ても駆け出しの冒険者ではないが、それでもまだ冒険者としては
新米だと思える風体だ
しかし、自分と同じ冒険者とは思えないほどの凄みを持っていた
その男はフード付きのマントに身を包み、俯き加減でゆっくりと歩きながら
大所帯集団に紛れて西門を出て行った
「空似か? ま、いるとすれば大騒動の迷宮都市のどこかだろうな」
その冒険者は独り言ちると、部屋に戻った
それから暫くして、宿屋の主人は食事の準備を始めようとした時、外から
慌ただしい声と共に別の冒険者達が入ってきた
「 『迷宮の3勇士』があの大所帯集団にいたぁ!? 見間違ったんじゃね?」
そう声を上げたのは、この宿の常連冒険者だ
いつもカウンターにいる彼の言葉を聞いていた主人が、不思議そうな
貌を浮かべた
「それだけじゃねーよ!!
東部の夜間依頼では知らねぇ奴がいない『夕闇の巫女』や、中央の迷宮都市で
金だけに釣られて依頼を受け、迷宮内の激しい闘いに
怖気ついて、仲間を見捨てて逃げた8人の新米冒険者を纏めて殺したって
噂の『幻想の盗賊』も見たんだって!!」
もう一人の常連客が興奮しながら言う
「はいはい、それはずけぇなー」
信じてない様な口調で、カウンター席に座った常連客の男が
返事をする
「信じてねぇなぁ!・・・」
そう言って、不満たらたらなもう1人の常連客の男が出された麦酒を飲み
干しつつ言う
「んな有名な冒険者は、すでに何処かの迷宮に潜ってるに決まっているだろ?
こんな稼ぎ時に西部辺境地方になんて行くわけねぇ!」
その言葉にカウンターにいる店の主人は静かに頷いた
そして、奥から麦酒を2つ持って現れた
「おまちど~。今日のサービスは、『迷宮の3勇士』の武勇伝さ!」
そう言いつつ、カウンターテーブルの上に麦酒の入ったジョッキをドンッと置いた
交易都市ルングーザの城壁の上に設置された物見台の上から、2人の
都市警備隊員が大所帯集団の行進を眺めている
彼等は定期的に大所帯集団がこの都市を通過する事を知っており、今日も
その通過を見守っていた
雨は降っているが、視界が悪くなるほどの小雨ではないため、遠目でも
十分集団の姿が確認できた
大所帯の集団は、集団の中央の荷馬車を守るように、両サイドを大柄の獣人族や
ドワーフ、ノーム、ホビットの冒険者達が固めており、その後方にはエルフや
人間の冒険者達が護衛をしている
遠くから眺めているだけでも、集団からは氷のような雰囲気を醸し出している
ことがわかる
それぞれの武器も防具もかなり使い古されており、その殆どの刃こぼれや
欠けが目立つ状態になっている事から、彼等が 相当な修羅場を潜り抜けてきた
事を伺わせる事ができる
その風貌と武装している様子だけで、数々の戦功と武勇を上げた百戦錬磨の
冒険者達だと理解できる
「この騒動なのに西部辺境に赴く冒険者集団は、珍しいな」
警備隊員の片方が呟くと、もう片方も相槌を打った
「少なくとも、一切乱れのない統率の取れた行軍を見れば駆け出し
冒険者集団じゃない事は誰でも分かるな」
そんな事を話している間にも、大所帯集団の徐々に見えなくなっていく
隊列を組み街道を歩くだけでも、それなりの労力がかかるはずなのだが
冒険者達の動きには、疲労の色が全く感じられなかった
集団を先導するのは獣人族系の冒険者達で、彼らは周囲の警戒や偵察を
行いながら慎重に進んでいるようだ
「ま、冒険者にもいろんな奴がいるのは知っているが、それにしても凄い
大所帯だったな」
警備隊の一人が言う
「噂じゃ、巨大「クラン」の移動はあんなもんじゃないらしいぜ?
あの集団は西部辺境だが、騒動の発端となった迷宮都市など向かってもっと
大所帯で移動しているって話だ」
西部辺境地域へ向う集団が見えなくなるまで、視線を向けていた警備隊員が
応える
「そ、そうなのか?あの噂の大所帯集団が移動するだけで・・・
そりゃぁ恐ろしい事になるだろうな」
警備隊員が少し驚いたような貌で答えた




