第40話
一際目を引くのは、護衛の冒険者パーティーの中に虎の着ぐるみを着込んだ
冒険者が居る事だ
謎の虎の着ぐるみ冒険者だけではない
黄色で背面部に太局図と呼ばれているものを配置した法衣を身に纏い、頭には
冠巾と称されている帽子、足防具は道士雲履と呼ばれるものを
穿く十代半ばといった少女冒険者だ
腰に帯剣しているのは細身の剣の様だが、それはどうやら銅貨を赤い紐で
結び繋いでいるだけらしい
その少女冒険者と共に荷台に積まれている商品類に何か作業しているかなり
印象的な装備をした女性冒険者の姿があった
特徴的なのは鴉を模したであろう外套を纏っている
さらに、その貌は口元から鼻までもすっぽりとマスクで覆っているため
その素顔を窺うことはできない
唯一露出している目元は、とても美しく見る者を魅了しそうだ
頸には十字架のようなネックレスを掛けており、頭には枯れた羽根を
模した帽子を被っている
彼女は背中にはクロスボウを背負い、腰に下げているのは、折りたたまれた
長柄の鋸鉈のようなものが見えた
その3人は護衛対象の荷台に、何か作業らしきものをしていた
「この建築工事などで用いられる工具の壺糸を強くして、壺の中身は鶏血や
墨汁などを混ぜた液体に置き換えて、そこにヴァレーアちゃんに
お願いしていた薬草の粉末を適量加えてるよ
これだけで数十倍の結界を張れるようになるのさ」
黄色で背面部に太局図と呼ばれているものを配置した法衣を身に纏った
少女冒険者がそう説明する
虎の着ぐるみを着た謎の冒険者は興味深そうに、クロスボウを背負っている
女性冒険者が手に持っている、工芸品として細微な装飾を施している
木で出来た墨壺を見ていた
そこには黒い塗料が詰められ、墨壺の下に2つのへら状のものが
付けられている
まるで筆のように見えなくもないが、鳥が翼を広げたような形をしていた
「なるほど・・このようなものが、存在するとはな
しかし、この壺は何に使うんだ?」
鴉の外套を纏う女性が、怪しむ様にそう訊ねる
「それを壺の中に入れて墨をつけ、印や文字を書く そしてそれを
呪術の触媒にしたり、魔術的な道具として利用する
そういう使い方をするって聞いた事が・・・」
虎の着ぐるみ冒険者が、何か思い当たる節があるのか、顎に
手を当てながら呟く
「大正解
ちなみに、これは特殊な製法で作られたインクでね 魔法的作用も秘めてるのさ
ほら、ここを見て」
黄色い法衣を身に纏う少女が虎の着ぐるみ冒険者の言葉を聞き、そう説明しながら
墨で黒く汚れている指先を2人に見せる
確かに指先には黒く染まった部分があり、まるで絵の具が乾いた
後のように見える
「ほう、面白いものだ そのような効果を持つものがあるとは」
鴉の外套を纏う女性が感心したように声を出す
すると、法衣の少女は指に付いたその黒い汚れをハンカチを取り出し拭き取ると、そのままバックパックの中にしまう
「あとは、これにお札を書いて術式を完成させれば完成だよ
これを壺糸に付けて使うの
これがあれば、もういちいち壺にインクを付けなくても済むから
便利なんだよ
それにこの壺も、ただの壺じゃないから、中に溜まっている液体も強力な呪いや
守護の効果があるから かなり使えると思うよ
なにせ、ヴァレーアちゃんにお願いしていた薬草の粉末も混じっているからね!」
法衣を身に纏う少女が、嬉しそうにそう言った すると、鴉の外套を纏う女性も
感心するように、その言葉を聞いている
それを見た、虎の着ぐるみを着た謎の冒険者も、その話を真剣に
聞いているようだ
そして荷台の方を見ると、これまた妙な組み合わせの冒険者が3人が
羊紙に記載されている文章を読んでいる姿があった
男性冒険者が2人、そして女性冒険者が1人だ
2人の男性冒険者は眼の色と頭髪は黒で、この近隣・・・もとい大陸では珍しい
外見で共に年齢は20代後半から30代半といった所だ
1人は二メートル近い長躯で、戦場へ赴けるかのような革製の防具軽装を
着込んだ精強な雰囲気の男性冒険者だ
そして腰には、やはりこの近隣や大陸でも見慣れない刀と呼ばれる武器を
腰に差している
それも大太刀という呼称で括られる種類の剣で業物と言える一品だ
もう1人は対照的に身長は低く、身体つきも冒険者とは思えないほど
線が細く華奢な体格をしている
しかし貌立ちは凛々しく整っており美形と言える容姿だが、数々の戦功を上げた
百戦錬磨の勇士のような風格がある
衣服は、動きやすさや機能性を高めた黒い上下で、袖や襟元などは白く、
肩から腕、脛などは茶色で染められている
一見して冒険者というより商人に見えなくもない
その異様な2人の男性冒険者に説明している女性冒険者も、その特徴ある
容貌を見れば一目瞭然だった
その女性冒険者は、北国出身なのか白い肌で一般的な女性よりも長身だ
年の頃は20代前後、腰まで伸ばした白髪は雪のように白く輝きその貌は
驚くほど整っている
美しい女性だが瞳にはどこか冷たい光を帯びており、口元は微笑んでいるが
その表情からは感情が読み取れない
服装は上半身の胸元が大きく開いた純白のドレスアーマーで、下半身が
スカートタイプの鎧になっている
彼女の背中には、身長の倍はありそうなやや大きめの剣が背負われていた
一目観察しただけでも、その女性冒険者が歴戦の猛者である事が分かるだろう
「……ここに書き込まれている魔物や魔獣、そして怪物は全て高位ばかりと?」
線が細く華奢な体格をしている男性冒険者が、北国出身者特有の白い肌をした
女性冒険者へそう問いかける
「ここに記載されているのは、最低でも希少種と確認されている存在のみ
他にももっと上位の存在もいるでしょうね」
女性冒険者が抑揚のない声で答える
「この大陸の辺境は、なかなか刺激的な場所らしい」
大太刀を腰に差した男性冒険者がそう言いながらニヤリと笑う
その表情には歓喜にも似た感情が浮かんでいた
言葉通り、今まで訪れた事がない未知の領域へ足を踏み入れる事に
期待しているのかもしれない
それを聞いた線の細い男性冒険者は苦笑を浮かべ、女性冒険者は少し
呆れたような視線を向けていた




