第36話
そんな二人のやりとりを女性の「ギルドマスター」とサブマスのアルヴィンが静かに見守る様に視線を向ける
「 エンゲルベルト『ギルドマスター』は、我々のパーティーにいるメンバーに
ついて、恐らく全ての情報をこの迷宮都市のギルドマスターより
把握していると推測します
それならメンバーの個人の性格や特技等についても熟知していると
思われますので、無銘の冒険者パーティーを専属パーティーに勧誘するのは
我々が断れない状況を予め作り出していたのではないか、
もしくは我々のパーティーが今後壮絶な 争奪戦の中心になるため
またこれから冒険者ギルドが公開される迷宮内部で巻き起こる狂乱の対策のため
一時的に西部辺境へと連れ込み、世間から眼が届きにくくなる
魔境の開拓に我々のパーティーを利用しようと 考えたのではないですか?」
ハインツは真剣な眼差しで、エンゲルベルトの瞳を見据えながら
そう告げる
すると、エンゲルベルトは満面の笑みを浮かべて、右手で自分の
頭をポンッと叩く
「さすがだな。同期が眼を付けた事だけあるわな!
お前さんはまだ知らないと思うが、すでに複数の「クラン」などに所属する
『勧誘員』がもう動いているんだぜ
俺だって出来れば優秀な奴を引き抜きたくはねぇし、優秀な冒険者を
集めようとする冒険者パーティーや「クラン」の奔走なんか邪魔も
したくねぇ・・・
俺個人的にも関わりたくもねぇしな
・・・しかし、一辺境地域の「冒険者ギルド」支部を統括する
立場にいたらそうも言ってられない
ロージアン地方周辺には北方の様に「冒険者ギルド」支部が乱立している
わけでなく、俺の所の「冒険者ギルト」支部一つだけがあるだけだ
おまけにそんな辺境まで稼ぎに来る冒険者なんざ殆どいやしない
そんな地域だからな、このお節介な同期がせっかくお前さんの優秀な
パーティーの事を紹介してくれたんだから、今、ここで動かなきゃ
いつ動くんだって言う話だろ?
それになハインツの・・・
正直なお前さん一人であの優秀なメンバー達にわんさか群がってくる
『勧誘員』から防ぎられるとでも思っているのか?
・・・まず間違いなく無理だな。
「クラン」や他の冒険者パーティー、また国に取っては優秀な能力がある
人材を確保する事は死活問題だ
今後の狂乱以降、実績のある人材の引き合いはますます激烈になるだろうな」
エンゲルベルトが鋭い視線で見つめながら問いかける
ハインツは少し間を置いて考え込む
複数の「クラン」などに所属する『勧誘員』がすでに接触するために動き
出している事に驚き、そして自分が想像していた以上に深刻な
状況になっていると知る
「それとこの同期の所が抱えているのは、「魔境」だけではなく
手を付けてもいない「未探索迷宮」が二つあるらしいわ
ハインツ君達パーティーにしては、最大の利益になるんじゃないかしら?
注意というべきかそれなりに覚悟をしてもらう事は、同期の所ではあまりにも
冒険者がいなさ過ぎて月1で、「冒険者ギルドと地域住民合同訓練」という
名称の魔境の開拓と間引き行事には強制参加って事かしらね・・・
魔獣の素材などについてはこの同期と相談すれば良いんじゃないかしら?」
女性の「ギルドマスター」はそんなハインツを見て、口を開く
ロージアン地域の諸国は人口が少ない街や都市国家が多く、産業も乏しく
商業活動が盛んではない
その為、魔獣や怪物などの討伐は冒険者の仕事としてかなり重要な案件となる
しかし、エンゲルベルトが統括する『冒険者ギルド』の規模が小さすぎて
まともに機能していない現状だ
また、現状ロージアン地域にはエンゲルベルトが統括する『冒険者ギルド』
しかない
「・・・俺の「ギルドマスター」の権限とご領主様との相談によるが、
そっちの取り分は6割くらいでどうだ?
勿論、魔獣の解体と買取もするし、その手数料はそちらに渡そう」
エンゲルベルトが提案してくる
「わざわざ最果ての辺境に来ていただける可能性があるんですから、8割でも
いいのでは?」
サブマスのアルヴィンが口をはさむ
「・・・うーむ
辺境の経済活動やご領主との兼ね合いもあるからなぁ
さすがにこちら側が1割は厳しいぞ・・・できれば2で勘弁してくれないか?」
エンゲルベルトが腕を組み考える
「ちょ・・ちょっと待ってください!?
8割ってなんですか?
うちのパーティーにどれだけ期待しているんですか!
いくらなんでも多すぎですよ!」
あまりの提示額の大きさにハインツは慌てた様子で叫ぶ
「それほど本気って事よ
女性の「ギルドマスター」が、その様子を見つつ告げる
「安いくらいって・・・まあ、確かにこちらのギルドが紹介していただいた
メンバー達の能力を考えれば妥当かもしれないですが・・・
それでもこの場で即答は出来ませんよ?
一応、この話はパーティーに持ち帰って相談させていただきます」
ハインツが考え込みながら、そう答える
「ゆっくりと話し合って考えさせてやりたい所だが、状況が状況だから
なるべく早くな
悪いが俺は今すぐにでもここを離れなきゃならん
なんせただでさえ、人手が足りなくて仕事が溜まっているからな・・・
アルヴィンを少しの間、この都市に滞在させるから方針が決まったら
アルヴィンに言ってくれ
では、これで失礼させてもらう一一一同期も身体に気をつけてな」
エンゲルベルトは、そう言い残して椅子から立ち上がり足早に
部屋を出て行った
「たまには、現役の冒険者の時みたいに、3人で良き酒を酌み交わしたいものね」
女性の「ギルドマスター」は、エンゲルベルトが出て行くのを
見送ると呟くように言った




