第32話
「狂乱の中心となる同期のギルド支部に置いておく事はでねぇ、他の地域ギルド支部にも送り出せない。 だからと言って潰してしまうわけにも
いかねぇ・・・いやはや、本当に贅沢な悩みな事で」
精悍な「ギルドマスター」は頭をガシガシと掻きながら、溜息をつく
その光景を、「アルスター」のギルドマスターは
上目つかいに見つめた
眼帯の「ギルドマスター」は、その様子に何かを感じたのか
苦笑を浮かべる
「・・・貴方の所の辺境ギルド支部は、本当に冒険者が足りなくて
頭を抱えるほどなのよね?」
「アルスター」の「ギルドマスター」の彼女は何かを確認するかのよう、
精悍な「ギルドマスター」に尋ねる
「・・・急に話題を変えて何だよ?
こいつにゃあ、少し喋ったが俺の飛ばされたギルド支部が置かれている国は、
西部地域の中でも地図にも掲載されない程の人口400人ほどの弱小国さ
冒険者も殆どいねえ が何とか食いつないでいる程度で維持してる様な、
小さなギルド支部なんだよ
まあ、支部が置かれているだけでもマシなもんさ、近隣は小国細国の
集まりで支部そのものが置かれてもいねぇからな」
精悍な「ギルドマスター」が自嘲気味に笑って見せる
「冒険者ギルド」支部には、三つのタイプがある
一つは、主に迷宮が存在する都市を中心に冒険者と迷宮を管理する
「冒険者ギルド」支部だ
二つ目は魔境の開拓と調査を行う「冒険者ギルド」支部だ
主な活動地域は、魔境に近い国や地方になる
魔境は、危険な魔物が蔓延り、未開の地が多いが冒険者達は、危険を承知で
魔境の調査を行い、未知の発見をする事を仕事としている
そして三つ目が、冒険者ギルド本部専属冒険者を多く抱える「冒険者ギルド」
支部だ
主に、他のギルド支部と連携したり依頼を請け負ったりする
他のギルド支部と連携して依頼を受ける事は余程の事が無い限り少なく、
大抵が単独で活動している
その分報酬は大きく、 また優秀な冒険者を多数抱えているため、冒険者の管理、
教育、訓練、育成にも力を入れている
「少し聞いたけど、彼の所では魔境開拓を『冒険者ギルドと地域住民合同訓練』と
いう題目で、ご領主様から
間引きと開拓をお願いされているそうだよ」
眼帯の「ギルドマスター」がそう応える
「しかも月1だぜ?
俺のギルド支部が管轄している魔境は、魔獣や怪物に取っては環境も良いのか、
他より多く現れるんだ
特に春と秋の季節の変わり目は、魔境に棲む魔獣や怪物の繁殖期でな、凶暴化や狂暴化するんだわ
また春と夏、秋と冬では出没する魔獣や怪物の種類がガラっと変わる
それだけでも大変なのに冒険者不足だから、手頃な新人を教育している
暇も余裕もない状況なのに、ご領主様も
こっちの実情は深くご理解されていても構わず依頼してくるんだぜ?
まあ、同じ西部地域でもその期間中に出稼ぎに来る冒険者共が
魔境で暴れまわって、開拓どころか 開拓予定地が荒れ果てちまって
別の問題が発生している所も出ているがな・・・」
精一杯の皮肉を込めても、眼帯の「ギルドマスター」は笑みを浮かべるだけだ
「・・・そんな情報を良く一介の「ギルドマスター」が知っているのね?
環境とかは兎も角として、同じ西部地域事なんて言葉が悪いけど辺境の
ギルド支部が把握できるものなの?」
「アルスター」の「ギルドマスター」の彼女は、少しだけ考え込む仕草をした後、
口を開いた
魔境で、魔物の素材と魔石を集めてくる程度の活動しかできない
辺境のギルド支部がどうやって、周囲の魔境の事を詳細に知る事が
出来るのか疑問だったのだ
「そういえば、「ギルドマスター」にしては西部地域の周辺諸国情勢にも
詳しかったね?
同期は、何かしらの情報源を持っているのかい?」
眼帯のギルドマスターが不思議そうな表情を浮かべる
「俺が辺境に飛ばされる前、ギルド本部勤めの時に優秀な部下が2人いてな
その2人が辺境のギルド支部へ飛ばされた俺についてきたんだよ」
精悍な「ギルドマスター」が誇らしげに笑う
「本部勤めだったら、貴方にはもったいないぐらいの
優秀な部下じゃないの?
まさかと思うけど、無理やりとか言わないでしょうね?」
「アルスター」の「ギルドマスター」の彼女が眉間にしわを
寄せて怪しんで見せる
「それはないよ
当時左遷決定した同期が、その部下の1人を同期の誼で
面倒みてくれないかと言われてね
丁度その時、こっちのギルド支部でも受付嬢が寿退社して
欠員が出ていたから、その穴埋めに引き受ける事にしたんだけど
そのご本人が、『この人の下で働けないなら辞めます!』 って言って
断れたんだよ」
眼帯の「ギルドマスター」が肩をすくめて見せた
「もう1人はギルド支部の訓練教官として、俺の古い馴染みがいる
東部のギルド支部に転属できるように手配したんだが、
転属先とギルド本部に、そのもう1人が言った様な啖呵きって、わざわざ泥船に乗ってきてさ・・・
本当に俺にはもったいねぇくれぇの優秀な部下さ
そこまでされたら、ほったらかしにも出来ねぇだろ?
ギルド本部の人事課も渋々俺と一緒に辺境の西部異動させたんだ
そしたら、案外居心地が良いらしくてな
・・・ ギルド本部勤めではあれやこれで仕事に邪魔が入ったりやらで
鬱憤が溜まっていたみたいで、辺境勤めがあの2人には天職のようで
新人冒険者の育成や領主様とのやり取りなんかが、楽しくて
仕方がないみたいなんだ」
精悍な「ギルドマスター」が誇らしげに語る
「つまりその優秀な部下のおかけで、西部地域の周辺諸国情勢まで
詳しくなったと言う事か?
いくら何でも限度があるだろう?」
眼帯の「ギルドマスター」がため息をつく
「冒険者ギルド」は、国家の枠組みを超えた組織であり、各国の国王や領主よりも発言権が大きく、国を越えての依頼を受け付ける事もある
冒険者ギルドに所属している冒険者達は、国の所属ではなく、
あくまで個人の集団だ
だが冒険者は、各個人が独立した存在である為、所属する冒険者同士の
交流が他の冒険者ギルドと比べ物にならない程活発で、情報の伝達も早い
「 冒険者ギルド」支部のギルドマスターとなれば、管轄する地域全体の
状況を把握していなければならない
各国に存在する「 冒険者ギルド」支部間でも独自の情報網を持っているが、
精悍な「ギルドマスター」が語った情報は確かに限度がある
「弱小国だと大国ではよく聞く、依頼主との仲介手数料など綱引きや
周辺地域のギルド支部同士の軋轢や競争というものが無くてな比較的、依頼は
円滑に進むんだ。
また、無茶な依頼受けさせられる事はない代わりにご領主様から危険な
怪物や狂暴な魔獣が蔓延る魔境内での間引きと開拓を
要請されるんだ
で、俺の所のご領主様は弱小国にも関わらず優秀な方で面倒見の良い人でな、
辺境に飛ばされてギルドマスターになったばかりの俺に、
何かと気を使ってくれたんだ。
その一つが周辺諸国の情報だった
そういった事を気にするような貴族が周辺には少ない事と、ギルド支部が
近隣に無いって事も影響しているのかも知れねぇけどな
もう1つは、辺境に飛ばされた直後、ギルド本部に用事があって
出向いた時に知り合った商人の奴がいてな
そこから何かと親しくなって、情報交換しているってわけさ」
精悍な「ギルドマスター」は意味ありげな笑みを浮かべつつ応える




