第28話
―――緊急定例会議が開かれた室内は時間が停止した。
室にいた誰もが、何を言ったのか、とっさに理解が追い付かなかった
何度もルシアーノの言葉を脳内で再生しては吟味し、ようやく飲み込めた者は
一人もいなかった
それほどに衝撃的な発言だったのだ
その言葉の意味を理解した途端、部屋中が騒然となった
「冗談じゃねぇや」
獣人系の種族のギルドマスターが声を荒げた
熊耳で身長190cmを超える巨漢、 口元には鋭い牙があり腕の筋肉が
盛り上がっている
だが、ルシアーノと金髪碧眼の長身痩躯の男性の表情はしごく真顔であり、何
一つ嘘偽りを言っているようには見えなかった
数人のギルドマスター達が、納得できない表情を浮かべつつ互いに囁き声を漏らす
「信じがたい話ですが、その証拠は?」
ざわめきが大きくなっていく最中、中年ノーム種族の「ギルドマスター」が
席から立ち上がりつつ、質問した
「確かに突飛で常識にかけ、通常時ならば聞くにたえぬ妄言でしかない
証拠はこの迷宮地図だ・・・疑うのであれば『鑑定』や『看破』の
魔法で調べても構わんぞ」
金髪碧眼の長身痩躯の男性は、机上の地図を一撫でしてからゆっくりとした
口調でそう答えた
中年ノーム種族のギルドマスターは、その一言で押し黙った
彼の言う通り、その地図の正確性は疑いようがなかった
この世界に出回っている地図は、測量技術の向上により精度が
向上しているとはいえ、まだ未熟な面が多くある
その点、この地図はかなり詳細に書かれていることが一目で分かる
『鑑定』や『看破』の魔法が使える「ギルドマスター」を中心に、
どよめきが走った
「それが事実だとすれば、多少ならばともかくいきなり情報公開など、大混乱を
招来するぞ!!」
そんな中、再び獣人系の種族の「ギルドマスター」が声を荒げ立ち上がった
そして、怒気を孕んだ目で金髪碧眼の長身痩躯の男性を睨みつける
「情勢はすでに混乱しているのだ。これ以上の混乱を防げるのなら安いものだろう」
その問いに、金髪碧眼の長身痩躯の男性は、淡々とした口調で答える
声は静かだったが、周囲の喧騒を打ち消すほどにはっきりとした声だった
その様子を静かに見つめていた精悍な風貌の「ギルドマスター」は、
眉間にシワを寄せていた
「浮かない貌だな」
眼帯の「ギルドマスター」が、その様子に気が付いた
喧噪が広がっているため、誰も2人のひそひそ話には気がついていない
「そりゃそうなる
今回の報告が事実なら、天秤が揺れるのは必至だ
下手すりゃ、迷宮がある都市を中心に狂乱が起こるぞ」
精巧な地図を見て考え込んでいる、精悍な風貌の「ギルドマスター」が
ぼやくように言葉を返した
「中央地域の「ギルドマスター」達は僕と同期以外は、事の重要さに
気づいていないみたいだ
が、北方地域の「ギルドマスター達」は、こちらと同じように
憂国の思いを抱いている奴が多い」
眼帯の「ギルドマスター」は再び視線を地図に向けながら囁く
「そっちが管轄している中央地域はいいぜ?
北方辺境地域と俺が管轄している西部辺境地域には、「魔境」が点在している
それも北方辺境地域と西部辺境地域の「魔境」内には、強力な怪物や魔獣が
多数生息して大半・・・
いや北方辺境地域の一部は強力な怪物や魔獣が多数生息しているため
生存圏を押し広げるような開拓は進んでない
とは言っても放置しといたら「スタンピード」の発生が高くなる
ただでさえ、西部辺境地域は熟練の冒険者や中堅冒険者なんかは迷宮だの
魔獣討伐なの高額報酬と名声が得られる依頼しか受けねぇ。
依頼主の多くが開拓村や貧しい村で報酬が安くて少ないわの最下級の
ゴブリン討伐の依頼を受けてくれる冒険者が少ない
しかも、群れの数が多いときやがる・・・
その分、西部辺境地域では毒にも薬にもならん知識不足と経験不足の
新人冒険者達にゴブリン討伐を斡旋しなきゃならねぇ・・・
だが、 こいつらは『たかが雑魚のゴブリンぐらい』と舐めて
かかる馬鹿共が多くてな、本格的な実戦の経験は少ないのに、そんなのに
限ってまったく依頼を受けるそぶりすらねぇ」
騎馬騎士のような精悍な風貌の「ギルドマスター」が、ため息交じりに
そう言った
「1〜2匹であれば、冒険者じゃなくても腕自慢の村人でも倒せるほど弱い
だが、果たして数十、数百・・・万を超える群れとなるとどんな脅威になる事か
しかもあいつ等は繁殖力が強いうえに、集団行動に長けた種族だからな
集団行動に長けた種族だから騎士団や傭兵団並みの統率された動きをする」
精巧な地図を見ながら眼帯のギルドマスターは、何かを考えながら囁く様に答える
「同期以外の中央地域「ギルトマスター」や「冒険者ギルド」総本部の幹部は、
その辺の問題を全部辺境側に押し付けておき、自分の所の新人を
優先的に育てようとしやがる
・・・いや、押し付けられているギルド支部は、まだ恵まれている方かもな
俺が管轄している地域は、辺境地域内でも考えられないほど多くの資源や宝玉、
貴重な鉱物などの希少鉱石が採取でき、農業には適した
肥沃な土地に恵まれているんだ
たが、強力な怪物や魔獣が棲息している広大な原野が広がっているため開拓を
進める事が出来ていない
まあ、それは周辺の弱小国家群や都市国家群にも言える事なんだが・・・
なんせ、複数入り組み睨み合いを続けているからな
それにそんな国の国民や住民の大半は、ほとんどが生きるために日々の
生活に追われていて、まともに冒険者に依頼できる環境じゃない
おまけに西部辺境地域は、北方辺境地域の様に「冒険者ギルド」支部が
乱立するほど多くは無いし、そもそも俺の統括している地域では、俺が
統括している「冒険者ギルド」支部以外置かれていないんだぜ?
しかも最果ての辺境過ぎて、ろくに中央地域なんかの冒険者はろくに来ねぇ
ギルド支部に所属する冒険者なんて皆無なんだが、人がいないと
文句言えるだけマシかもな」
精巧な地図を見ながら、精悍な風貌の「ギルドマスター」は深い溜息を
吐くように呟いた




