蛇目と言う女衒屋
ヨシワラに入る為の門の前に一台の荷馬車が門番に検問されていた。
「久しぶりだなぁ|蛇目。ヨシワラに戻って来たのは半年前か?」
「あぁ。身売りの依頼が暫くなかったから、ちょいっと旅をしていたがシャレーン王国の田舎町と通りかがった国のスラム街で突発の依頼を受けてな」
「そうか……実は丁度王国から逃げてきた孤児院の子供達と院長達が保護されてなぁ。……酷いもんだったよ。着ている物はボロ雑巾みたいだし、赤ん坊まで瘦せていて宿屋のばあさんがあんまりな姿に泣いていたよ」
「それじゃあ宿屋のばあさんには後ろの子供を見せる訳にはいかねぇな」
「はぁっ? それはどう言う……」
蛇目は顎で荷馬車の後ろに乗っている子供を指し、門番は訝しげに荷馬車の後ろに座っている子達を見た。
「っ!」
荷馬車の後ろに大人しく座っていたのは二人の少女達。一人は十歳位で、大体はこの位の年頃の子供が身売りされる。問題はもう一人の少女……と言うよりももう一人の幼児。
「……幾つだあの子は」
「五歳。嫁入り予定の姉さんの代わりに自分が身売りするって俺に売り込んできた。勿論、あの子の親兄弟だけじゃなく村の大人達全員が反対したんだが、誰かが身売りしなきゃあどうにもならない程に追い詰められていて泣く泣く」
「あんな子供を一人売らなければならない程、村が追い詰められるってよっぽどだぞ」
「住民税? で村人全員併せて二万五千ルーベル支払わなければ土地家財全てを徴収されるってさ」
この世界一ルーベルは日本円で約百円。つまり二万五千ルーベルは二百五十万円だ。
「そんな法外の金額をか!?」
「何でも延滞していた金額だからいっぺんに支払えと言うのが彼方さんの主張だが、そんな話は一度も聞いてもいないし、警告一つもない。大方難癖つけて土地を奪うつもりなんだろう。最近そんな難癖をつけられて土地を奪われた周辺の村の人間が若い娘達を等女衒屋を頼って身売りをするだけではなく、若い男は他所の農地を借りるか、それが出来なければ雇われの農夫になるか、年取った男女の殆どは人手が足りない鉱山に行っている」
「何て事……しかしお前も良くそんな金額を持っていたなぁ。高くても一万ルーベル位しか所持していないだろ?」
「偶々前の町でギャンブルで大勝ちした。そんなあぶく銭よりもフローレンス様に褒められる事が一番だ」
目をとろりと緩ませた蛇目の様子に門番はやれやれと呆れた様子で左右に頭を振った。
ヨシワラの主でもあるフローレンスに心酔する女衒屋が多い。
正直に言って女衒屋をやっている人間は大体性格が悪い奴しかいない。
一応国で認めらている職業ではあるが、実質人身売買を国で認められている様な者だがから普通の庶民達には嫌悪の目で見られるし、売られた人間の身内からは泣かれるわ恨みを籠った目で睨まれるわで、普通の神経ではやってはいけない。
それに人を買うのだから多額の共通貨幣(宝石等の金品で支払っていた時もあったが、質の悪い女衒屋が偽物を使っていた事例があった為に、現在は共通貨幣一択だ)を所持している為、盗賊等に狙われやすい。だから身の安全を守る為に、己を鍛えて武力で迎え撃つ者か裏の人間と仲良くなって多額の謝礼金で護衛して貰う事で女衒屋は自分を守るしかなかった。
だから女衒屋をやっている人間は、性格の悪いずる賢い奴か性格の悪い強い奴しかいなかった。
そんな女衒屋達にフローレンスは平等に分け隔りもなく(性的な意味で)愛した。
今までに体験した事がない快楽とフローレンスの女神の様な優しさと愛によって、荒れていた女衒屋達は一発で落ちた。何せフローレンスはどんなに容姿が醜い相手だろうが、嫌な顔をせずに態度を変えずに愛すから、女衒屋達の凍った心は陽だまりに当たられて溶けていくのだ。
大体フローレンスに取り入ろうと悪巧みを考えてフローレンスの元に向かう女衒屋が、帰りにすっかりとフローレンスの信者となって帰っていく姿をヨシワラに住む住人達は日常の風景と化した。
この蛇目と言う男も甘い汁を吸おうとフローレンスに近づき、すっかりと骨抜きとなった女衒屋の代表である。
『まぁそのお陰で悪質な娼館に売られる子が少なくなったと言えるんだけどなぁ』
内心呆れながらも門番は蛇目達の入国許可の手続きを取ったのであった。




