アシリギ神話~異世界の侵略神、そしてミシュラ神の誕生
此れはまだ神々が人間の前に降臨する事が多かった時代。
その時代は男の神を最高神とし、男神の妻と子達、男神の兄姉達に囲まれて人々から信仰されていた。異次元から邪神共が侵略するまでその体制を保っていた。
邪神共はこの世界とは別の次元の神々で、正直に言って『悪神』と言っても過言ではない程、己の欲にしか興味がない非道な神々だった。
自分勝手に振舞ったせいでその神々がいた世界の人間達が魂ごと死んでしまった。扱き使う玩具を失った邪神共は、新しい玩具を調達する為に異次元を渡ってこの世界に来訪し、神々を殺してこの世界を奪おうとした。
そんな傍若無人を許さず、最高神ゼーウ率いる神々は戦いを挑んだ。
戦いは長期に渡り続き、ついには人の世にも影響が出てしまった。この時代で荒れた天候が何日も続き、作物が育たなくなったり家畜が死んだりしたのは此れが原因だった。
何とか平行線を保っていたのだが、邪神共の卑怯な策略等によって少しずつ後退していっいた神々。戦神でもあったアーレスとアテーナが片腕・片目を失う重症を負ってしまった時に、このままでは敗戦してしまうと思い予言の神であるアポロとネレウに『勝利する未来』を予言して貰った。二神は揃って同じ事を予言した。
『女神アルミスが支配している森の北側の一番奥にある小さな小さな湖に一人の精霊がいる。その精霊とゼーウとの間に出来た子供があの邪神共を打ち倒すだろう』
アルミスですら『あれは湖だったのか!』と驚く程、池の様に小さな小さな湖には一人の女の精霊が確かにいた。
ゼーウは我が子に『最高神』の座を奪われる事を恐れたが、事態が事態なので止むを得ず(精霊がかなりの美人だったのが一番の理由なのだが)精霊と子を成した。子を無事出産した事を見届けるとゼーウは子を愛でる事無く、『ミシュラ』と言う名前を与えて直ぐに戦場へ戻った。
ミシュラは女性と男性の両方を持った両性だった。しかも成長するスピードも早く、生後一ヶ月で一歳位まで成長し、一年経てば少女(少年)位まで育った。
その間、邪神共に見つからない遠い場所で、一時的に戦線離脱したアーレスとアテーナが剣術を教え、他の神々は自分達の得意分野を教育した。
特に他の神々から驚かれたのがゼーウの正妻であり、結婚を司りそれ故に浮気を許さない女王ヘーレーがミシュラだけではなくその母である精霊の面倒を見た事だ。此れにはヘーレーの子供達も驚いだ。
ミシュラの存在は、ヘーレーとしてはこの戦争を打ち勝つ為に必要な事だからとまだ我慢出来た。しかしその母親に関しては嫉妬で殺そうとしたが、母親でもある精霊の心の年齢が余りにも幼過ぎて殺す気が失せてしまった。何せミシュラの方が母の面倒を見ているレベルだ。
精霊はゼーウ達に見つかるまで他人との交流がなく、ふわふわと寝ぼけた様な意識の状態だった為、精神年齢が幼い子供の状態だった。
ヘーレーが精霊を殺そうとした所を、ニコニコ笑って抱き着いた精霊を見て殺す気が失せて、『手の掛かる子程可愛い』と言う諺の通りに、ついつい我が子の様に世話をしていたら何時の間にか情が移って『ヘミリア』と言う名前を精霊に与える程度には絆された。
話がそれてしまったが、ミシュラが戦場に初出陣する時は神々はかなり危険な状態だった。戦場を復帰したアーレス達も苦戦し、全知全能の神だったゼーウが膝を地面に付きトドメを刺されそうになった時にミシュラが邪神の剣を持っていた腕を切り落とした。
其処からはミシュラの鏖殺だった。
異世界の邪神共は反撃する術もなく一方的に倒されていき、あんなにも苦戦したこの戦争がたった半日で終戦へと導いた。此れには他の神々は唖然と口を開いて見ているしかなかった。
戦争を終わった痕、ゼーウは『最高神』の座を降りた。
先の大戦で大怪我をし力を失ってしまった事、末子のミシュラが全盛期のゼーウよりも様々な面で優秀だった事、以前は子供に地位を取られまいと色々とやっていたがその気力も無くなった事が理由だった。
今では正妻のヘーレーとヘーレーが唯一同行する事を許したミシュラの実母であるヘミリアを連れて隠居した。
父から『最高神』の座を譲り受けたミシュラは育ての母親の影響か、それとも(主に女性関係で)破天荒だった父を反面教師にしていたのかが分からないが、かなり真面目な性格だった。
冷静・公正を心掛けており、例え身内だろうと間違った事には厳しく罰した。
他人だけではなく己にも厳しかったミシュラは特別な存在を作る事はなかったが、昔は『愛し子』が二人存在した。
愛し子は年齢も性別も其々違うが、ミシュラ神を敬い親愛を持って接していた。ミシュラは二人の穏やかで欲深くない性格を非常に気に入り、人目を避けて交流を続けた。
しかし、その幸せは続かなかった。
二人の愛し子は殺されてしまったのだ。しかもそれぞれの親・子供によって。
二人共其々の両親・子供と折り合いが悪く、密かに最高神と交流があったのを影から見つけた。
『最高神の愛し子』の称号を欲した愚か者達の策略によって二人は非業の死を遂げてしまった。
その事を知ったミシュラ神は嘆き悲しみ、そして激怒した。
愛し子達を死に追いやった親・子供達を天罰を与えた後魂を粉々した。そして粉々にした魂を未来永劫ゴキブリの姿のままに呪いを掛けた。
結果愛し子を殺した罪人達は魂が粉々になったせいで通常ならばパンクする様な膨大な記憶の暴力に襲われ、悍ましいゴキブリの姿となり人間から嫌われ退治されたり他の生き物達の餌と成り下がった。
怒り心頭のミシュラは神々を集めて宣言した。
『人間達に己の親や子を殺した者とその血縁者は全員一人残らずこの世から消す!』
と宣言した。
普段から激怒した姿を見た事なかった神々は最初は戸惑った。しかし前から無礼を働いた人間達を天罰を与えていた為、ミシュラの決定に異議を捉える者はいなかった。……只一神、ゼーウだけは異を唱えた。
『ミシュラお前それ、罪人の血を引いている人間は全員殺すんだよな?』
『当たり前です』
『だったらかなりの人間が死ぬぞ? 下手したら神殿が一つ二つ位人間がいなくなるなぁ』
そこまで言ってやっと他の神々やミシュラ自身気が付いた。今までの神罰は罪人とその子供達、あるいは一つの街や国程度であったが、ミシュラのは罪人の『血縁者』と言う事は例え今にも消え失せるレベルの人間すら死ぬのだ。今までとは神罰の規模が違う。
ゼーウの言う通り下手をすれば自分を信仰している人間がかなり減る、いや全滅も有り得なくもないのだ。
ミシュラもせっかく平和を取り戻したのに他の神々と不和を産むと頭を冷やした。
『ふむ……ならば善なる心を持つ者、あるいは幼き子供や遠縁の者等の無関係の者達は罪人と縁を切る事を条件に許そう』
こうしてこの世界で『親殺し・子殺し』がダブーとなった。