完璧と称される先輩が人知れず泣いていたので、ただナンパし続けてみた。
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の番外編となります。
淑女協定
其の一:ヤシ君こと『霧島 弥式』の『ナンパ』に協力すること。
其の二:彼と日向 雛との関係が進展するまでは抜け駆けをしないこと。
其の三:『 』
※※※※※
「ヤシっ、ここの問題を教えなさい」
世界一可愛いヒナがホッペを膨らませながら、ノートを突き出してくる。
その表情は保育園の時のようで、少し懐かしい。
今日は『合コン』を行っている。つまり、ファミレスでの男女の勉強会だ。
クラスの女子だけを誘ったはずが、なぜか他にも過去に『ナンパ』した顔がちらほらある。
笑顔で挨拶を交わすが、ヒナはふくれっ面だ。可愛い。
「あーあ、ヤシが他の女子も誘ったせいで、日向さんがおこちゃってるよ。どうすんのさ? ヤシ、ナンパと称して女子を助けて回るから、学校では大変だもんね」
「大丈夫だ耶麻。ヒナは照れているだけだ、実際はとても楽しんで、グハァ」
無言の肘鉄、今日も良い角度だ。
最近ヒナと仲直りし、テストも近いこともあって誘ってみたのだが、なぜか集まりが悪い。
誘ったクラスの男子はどうしてだか隅っこの方へ移動している。後で席替えを提案しようか。
目線を親友の保っちゃんに送ってみるが、青い顔で首を横に振られてしまった。
おびえていては、ナンパは成功しないぞ。
結局、見慣れた顔ばかりになってしまったな。
「オレに聞くよりは、峯川に聞いたほうがいいぞ。彼女は学年一位だ」
「うん。日向さん、どこがわからないの?」
狭い通路を、体を密着させるように峯川が通る。おさげから彼女らしい石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。
「私は、ヤシに聞いているの。うー、そんな無理やりに狭い場所を通らなくてもいいでしょ!」
ヒナが峯川をオレから離そうと、押し返し、バランスを崩し峯川がオレの方に倒れこむ。
「わっと」
「大丈夫か」
飲み物をこぼさないようにどかしながら峯川を受け止める。
フム、なるべく体に障らないように受け止めたが、峯川は顔が真っ赤だ。
「あ、ありがとう」
「気にしなくていい、今日は来てくれて嬉しい」
ファミレス全体から視線を受ける。ナンパしたことのある女子が、にやにやとこちらを見て笑っている。
どうしたのだろう? 今日はなんか皆おかしいぞ。
「このっ、バカヤシっ! 離れなさいっ!」
金髪を逆立てながら威嚇しているヒナも世界一可愛い。
そんなヒナが肘鉄を構えるが、パンという拍手の音。
「暴力はダメですよ」
鈴を転がすような声がした方向を見ると、ブレザーを来た高校生が立っている。
肩まで伸びた絹のような黒髪に、隙の無い立ち姿。思わず裾を正してしまいそうになるほどの、雰囲気。
「えっと……ヤシ、この人って……」
「知らないのかヒナ。去年、生徒会長だった人だぞ。お久しぶりです、天瓦先輩」
礼をすると、先輩が近づいてくる。
「こんにちわ。ヤシ君、ヒナちゃん。勉強会と聞いたので来ちゃいました。皆ともお話したかったからちょうどよかったです」
「そうそう、私達の『淑女協定』を作ったのも会長なんだよ」
「耶麻さん。私はもう会長ではないですよ」
柔らかくほほ笑む先輩は……うん、とても可愛い。
ヒナが先輩を指さす。
「し、知っているわよ。天瓦生徒会長って『完璧』って言われていた人じゃない。すんごいお金持ちで、勉強もできて、テレビの取材だって来るっていう……困っていることなんて何もないって言われている人でしょ。ヤシの『ナンパ』なんて最も縁遠い人じゃない」
「いいえ、私も、皆さんと同じようにヤシ君に『ナンパ』していただいたんですよ。だから、貴女がヤシ君と仲直りする日をずっと待っていました。何人かの同志にも協力して今日の場を用意しました」
「……ヤシ、どういうこと?」
「まて、ヒナ誤解だ。オレはさっぱりわからん」
「ごめん、ヤシ君。天瓦先輩に頼まれちゃって。スマフォで皆に連絡しちゃったの」
峯川が申し訳なさそうに謝ってくる。うん、可愛いので許すぞ。
「私達、『淑女協定』のことを知ってもらおうと思っていたんです」
ほほ笑む天瓦先輩と目があったヒナはなぜだかブルりと猫のように震えていた。
ちなみに、クラスの男子はすでにファミレスから脱出している。裏切ったな。
フム、さてはこれは爺ちゃんがいう所の『修羅場』というやつかもしれん。
※※※※※
オレが天瓦先輩と出会ったのは、去年の冬頃のことだった。
ヒナと疎遠になり、生きる目標をヒナにふさわしい男になることに据えたオレは、日々ナンパに勤しんでいた。
「ヤシ君。おはよう」
「おはよう峯川。肌寒いから、カイロをやろう」
「えっ、ありがとう。私手先が冷えるから助かるよ」
「おはようヤシ」
「おはよう耶麻。スカートの丈が短いが、良く似合っている」
「だよね、やっぱオシャレは気合っしょ。あと、目線がエロいぞヤシ」
クラスの女子二人と挨拶をし、朝の学校の見回り中だ。
早起きは三文の得、爺ちゃんと一緒にラジオ体操を欠かさないオレなのだ。
「おはようヤッシー」
「おはよう、駿河。朝練後か? 髪型とても良く似合っている」
二つ隣のクラスの駿河に出会った。陸上部である彼女は入学早々足のケガで不貞腐れ、クラスでも浮いていたのでナンパして上半身の軽い筋トレと体幹トレーニングを提案し、一緒にデート(爺ちゃん同伴でジムへ)したのだ。
復帰後にはケガをする前よりもタイムが伸び、本来の明るい性格のおかげで今やすっかり人気者だ。
それ以来、朝の見回りでよく話をする仲だ。
陸上女子ではあるが、最近は身だしなみにも気を使っており、ボーイッシュなショートが良く似合っている。
「エヘヘ、そうかな? お母さんに頼んで、美容院を紹介してもらったんだ。それより朝の見回り?」
「あぁ、ナンパできそうな女子を探している」
「ご苦労様。一緒に回りたいけど、片付けがあるんだよね。西校舎はもう誰もいないと思うよ」
「そうか、ありがとう。そろそろクラスへ戻ることにする」
「うん、じゃあね。あっ、そういえば一人だけ西校舎へ残っている人がいたよ」
西校舎は文化部の部室や外の部活の物置があるが、教室がある東校舎に比べれば人は少ない。
「ほう、部活関係か?」
「ううん。天瓦生徒会長。もう三年生なのに、生徒会の業務をしているのさ」
「たかが、中学の生徒会に業務も何もないだろう」
「あれ? ヤッシー知らないんだ。将来の為ってことで、先生達がやるような仕事までこなしているらしいよ。勉強も運動も完璧、家もお金持ちで言うことなしだよね。ヤッシーの『ナンパ』も必要ないだろうね」
「そういわれると興味が湧いたな。確かに上級生はあまりナンパしていなかった」
「……先輩女子の入試勉強手伝っている姿を何人かが見てるけど?」
「あれはオレのテスト勉強を一緒にしただけだ。周りに勉強する人がいれば集中できるらしいからな」
「ヤッシーは、その内背中を刺されると思うよ。むしろ私が刺す。それか噂のヒナちゃんが刺すんじゃない?」
「それは困るな。駿河とジムへ行けなくなる」
「バーカ……片付けしてくるよ。じゃあねヤッシー」
「うむ。頑張ってくれ」
というわけで、駿河と別れて生徒会室へ。そろそろホームルームが始まるのだが、確かに生徒会室には誰かがいるようだ。
用事もないのに、ノックをするのはためらわれるのな。
今日は諦めるか、と背中を向けた時。
「うぅ……ヒック……」
爺ちゃんとオレがこの世で最も嫌いな、女の子の泣き声を聞いた。
すぐに扉を開けた。
「……なんだこれは?」
ここは中学校のはず。しかし、目の前の光景はまるで子供にはそぐわない歪なものだった。
積み上げられた書類。壁に張られた進行表にTODOリスト、見ただけはわからない書類もたくさんある。
そこはまるで、白い檻のようで。その中心で彼女は泣いていた。
檻の中の彼女はこちらを見て、顔を真っ青にする。
「だ、誰ですか」
「失礼。一年一組の霧島 弥式と申します」
「朝から何の用です? 生徒会への用事は、要件を記入して――」
まずは機先を制す。形式ばった断り文句を言わせてはいけない。
こちらのペースへ持ってくること、これナンパの常套なり。
「今日の放課後、オレとお茶をしませんか?」
「お断りします」
部屋から追い出される。フム、失敗。しかし、ナンパは初手の失敗を取り返すことから始まるのだ。
その日からオレのナンパが始まった。
「まずは……」
スマフォを取り出す。情報を集めるには『合コン』が一番だ。
翌日。
「やっくん。今日はいつもより早起きじゃの」
「泣いている女の子を見かけたんだ」
「そうか。なら、頑張らんとな」
「うん。爺ちゃんもゲートボール大会頑張って」
「ワシがこの町内を優勝に導いてやるわい。モッテモテじゃ」
コツンと拳を合わせて、家から走りだす。
学校へついてすぐに生徒会室へ。
まだ、朝練をしている生徒の声が聞こえるな。
出迎えるつもりだったが、どうやら会長はすでに中にいるようだ。
制服と息を整え三回ノック。
「はい」
扉を開けると、今だ白い檻の中に彼女はいた。
涙はない、黒髪は瑞々しく、凛とした瞳は曇りなく、だけど唇は固く結ばれて。
さてと、頑張るよ爺ちゃん。
「オレとお茶をしませんか?」
「お断りします」
デジャヴュ。なんかの武道の技で投げ出されてしまった。しかし、普段からヒナの肘鉄に耐えるために鍛えているので大丈夫。
セカンドトライを仕掛けようとしたが、カギを締められる。
フム、今はここまでか。
昼休み。どうしたものかと思案していると、保っちゃんが焼きそばパンを持ってきた。
「ヤシ、食えよ。給食だけじゃ足りないよな」
「ありがとう保っちゃん」
「峯川が言っていたけど、今度の相手は天瓦会長だって? 別に『ナンパ』は必要ないだろうに……って前までなら思っていたけどな。助けがいるか?」
「あぁ、助けて欲しい。鍵をかけられて生徒会室へ侵入できない。なんとか二人で話したいが、時間が作れないんだ」
「策はあるのか?」
ドスンと椅子に座る保っちゃんに顔を寄せる。
「彼女の負担を減らしたい。今はしつこく訪問する作戦だ」
「そのうち、先生に怒られそうだな。もしくは天瓦会長のファンに何かされそうだ。なんせ大人気だからな」
「『合コン』で聞いた。才色兼備で人当たりも良い。校内のイベントで表に出ることが多いので他校の男子からも人気だとか。しかし、天瓦会長は異常な量と質の業務を押し付けられているんだ。理事と知り合いの父親が将来の課題の為に与えたらしい。実際彼女が優秀でこなせてしまっているのが厄介なところだ」
「流石ヤシ、というか女子の情報網怖いな。そんなこと知らなかったぜ。会長がいろんな仕事をしていることは知っていたけど、自分でやっているのかと思ってたぜ」
「実際、周囲にはそう言っているそうだ。だから誰も止めないし、気づかなかった。しかし、彼女は追い詰められている」
「そりゃあ……なんとかしてやらなきゃな」
彼もここ数か月で、ナンパがなんたるかがわかったようだ。流石我が友、保っちゃん。
「その通りだが、会長は長い休み時間や放課後は生徒会業務にかかりきりだ。帰り道も送迎車で帰っている」
「ふぅん、隣の部屋から窓を伝って外から行くのはどうだ?」
「生徒会室の窓は中庭に面している。危ないことをすれば、先生を呼ばれる可能性が高い」
「だよな。じゃあさ、いっそ正攻法でいこうぜ」
「というと?」
「だからさ……」
フムフム、保っちゃんのアイデアは目から鱗の正面突破だった。
その日の放課後。生徒会室にて、天瓦会長の横に机を置いて作業を始めるオレがいた。
「……まさか書記の子が変わるなんて、一体どんな手をつかったのですか?」
「知り合いの知り合いだったというだけだ。生徒会役員になれば、会長に近づけると思ったからな」
保っちゃんの秘策は単純明快、生徒会の役員になるということだった。
現生徒会は、月例の会議以外で招集されることもなく、業務も生徒会長がこなすので形だけのものになっていた。
そこで、ナンパしたことのある子の友達だった書記の子に了承を得て、オレが書記に変わることになった。念の為、あらゆることをめんどくさがる先生に話すことで、「あー、いいんじゃないかな」みたいなふんわりした許可ももらっている。
生徒会室前で『書記』のワッペンをつけて、出迎えた時の天瓦会長のゴミを見る目は辛かったが、おかげで部屋に入ることができた。
ちなみに、敬語は気持ち悪いと言われたので普段通り話している。
「業務は私がやります。というか、君にはわからないでしょう? 邪魔なだけです」
「確かに、ちょうど授業でしている反比例のグラフみたいな資料だ、オレにこの業務はできない」
漢字も難しくて、わけがわからない。しかし、できないなりにできることがある。
保っちゃんが言っていた。正面突破だと、ならばここもそうするべきだ。
「そう言われると思って、書類の整理から始めている。ファイルに綴じるのは得意だ」
「勝手に書類をまとめないでください。どこになにがあるかわかりません」
「オレに聞けばいい」
「……来年度の文化祭の予算について」
「文化祭関係はこのうさぎさんファイルだ。来年度のものはニンジンの付箋を貼ってある」
「……可愛い」
「可愛いものが好きなんだ。文具屋にいけば可愛い文房具があって非常にはかどるぞ」
「はぁ……少しでも業務に支障がでれば、出て行ってもらいます」
「無論だ。全力を尽くそう」
今は、彼女の負担を少しでも減らすことが肝要だ。
縦積みされていた書類をファイリングして、見やすいようにレイアウトする。
倉庫から棚も持ってきて、可愛く見やすくファイルを並べた。
進行表にキャラシールを張りながら、平行している作業を把握して書類の準備、必要なものがあれば書類を取りに保管庫や職員室を行き来する。
バカなオレでもできることはいくらでもあるのだ、自分にできることできないことを把握して、利益を提案する。これもナンパで培ったことだ。
一日目ではさほど作業量に効果は表れなかった。だけど、毎朝と放課後の作業で徐々に会長と呼吸が合ってくる。
一週間経てば、すっかり要領を得ていた。
「ヤシ君。他校との交流イベントの資料を」
「このイルカさんファイルだ。知り合いに先方の意見をまとめてもらっている」
「ヤシ君。次回の月例会議の議題のまとめを」
「各委員会にアンケートを頼んでいる。明日には完成した状態で提出可能だ」
委員会にもナンパした子達はいるからな。助けてもらった。後で手作りクッキーをあげる約束をしている。
そして金曜日の放課後。
「……ヤシ君」
「なんだ」
「お仕事がありません。やることが無いんです」
彼女を囲ってた白い檻は跡形もなく消え去っていた。
「ならば、提案があります会長」
「えと、はい……」
檻の無い執務机、そこに座る女の子に手を差し出した。
「……オレとお茶をしませんか?」
ポカーンとした顔、普段凛々しい彼女のそんな表情はとても可愛い。
そして、会長は肩を震わせて笑い始めた、眦に涙を浮かべながら楽しそうに笑う会長も可愛い。
「フ、アハハハハハ。ヤシ君。君は本当におバカなんですね」
ウム、やはり可愛いものは笑顔が一番だ。彼女はオレの手を取って笑い続けた。
夕暮れの学校を後にする。会長は送迎の人に生徒会業務で遅れると連絡したそうだ。
二人で学校を後にして商店街を目指す。
「それで、どこの喫茶店にいくのですか?」
「喫茶店ではない、おこづかいが足りないからな。……着いた」
「えっと、ここは?」
「駄菓子屋『イソノ』だ。中に飲食スペースがあるんだ」
ここはちょっとおしゃれな駄菓子屋で、中の雰囲気も良い。
この時間は人も少ないし、おばちゃんのノリが面白いから好きだ。
昔はよくヒナと一緒に来たのだが、最近は中々来れていない。
ちょっとしょんぼり。
「あの、私。こういうお店初めてで……」
「固くなることはない。おばちゃん、いつものを二つだ」
「久しぶりだねヤシ。おや、こちらの子は初めてみる子だね。はい、ハチミツレモン砂糖多め」
出てきたのは一杯50円のハチミツレモンだ。
寒い日はこれに限る。10円ドーナツもつければ完璧だ。
「……他の子も連れてきているのですか?」
「あぁ、気心がしれた相手を誘っている」
「……ならいいです。……甘い」
どうやら、お気に召したようだ。
しばらく、無言の時間になる。しかし、悪くない。こういう空気は沈黙もまた心地よいものだ。
そして、ちびちびとホットレモンを飲みながら会長が口を開き始めた。
「最初は、期待に応えることが楽しかったんです」
「あぁ」
「お父様は私に期待してくれて、お兄様も同じように中学生から生徒会で業務をしていたらしいです」
「……」
視線で話を促す。
「でも、いつしか、業務を消化できなくなって。最初は些細なミスだったんです。それがどんどん大きくなって、気が付いたら書類が積み重なっていきました。私、誰にも言えなくて、いつかできていないことがバレて、お父様やお兄様を失望させるのが怖くて、あの日……パニックになって、初めて泣きました。そうしたらあなたが入ってきたんです」
「運が良かった」
「どうしてですか?」
「君の笑顔を取り戻せた」
「……」
「……」
再びの沈黙、しかしかすかな緊張感。会長はこちらの様子をうかがっているようだ。
「どうした?」
「ヤシ君は……その、どうして私を助けてくれたのですか?」
「可愛いものには笑顔でいて欲しいからだ。だからこうしてお茶に誘いナンパしている」
「かわっ……それは、その、ナンパということは私とお付き合いをしたいとか、そういうことですか? その、よく告白はされましたけど、私、そういうのわからなくて」
「いいや違う」
ピシリ。空気が唐突に凍り付く。そしておばちゃんが店の奥に引っ込み、他の客も飛び出すように出て行った。あれ、ホットレモンこんな冷たかったかな?
「え、あの……えと、どういうことですか?」
正面の会長が笑みを浮かべるが、同時に青筋も浮かんでいる。
「オレはヒナという世界一可愛い幼馴染がいる。彼女がオレにとっての一番だ。会長にはオレなんかよりも相応しい交際相手ができるだろう」
「……ごめんなさいヤシ君。いくつか質問してもよろしいですか?」
「なんでも聞いてくれ」
そのまま、笑みと青筋を浮かべた会長に様々なことを聞かれた。
時間が来て、連絡が来るまで会長からの質問攻めは続き、オレは彼女が卒業するまで生徒会の業務を手伝いつづけた。
※※※※※
「ということがあった」
「少し前のことなのにもう懐かしいですね」
オレと先輩との話を聞きていたヒナは顔を赤くしたり青くしたりしていた。
それにしても先輩はずいぶんと雰囲気が柔らかくなったな。可愛い。
「うんうん、わかるなぁ。私もそんな感じだったわ」
「私も……」
峯川と耶麻は深く頷いている。オレとのナンパについて思い出しているのだろう。
「ヤシ君の『ナンパ』について知った私は、被害者を集め『協定』を定めました。ヤシ君の想いを尊重し、ヒナちゃんとのことが決着するまでは見守ることにしたんです」
差し出されたのはうさぎさんのファイル。印刷されていた紙を取り出す。
其の一:ヤシ君こと『霧島 弥式』の『ナンパ』に協力すること。
其の二:彼と日向 雛との関係が進展するまでは抜け駆けをしないこと。
其の三:『あのナンパ野郎を絶対に許さない』
「覚悟してくださいね。ヤシ君、ヒナちゃん」
柔らかくほほ笑む先輩は、やっぱり可愛い。
「バ、バカヤシぃいいいいいいい」
そして、オレの襟をつかんで涙目で前後にゆするヒナも世界一可愛いのだ。