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十三

 中学三年になった。

 部活は春の試合で負けたらそれで引退だ。僕は別に軽い気持ちで部活をやってるから最後の試合も出なくてもかまわない。

 練習後に整列して、先生が口を開いた。

「じゃあ今度の試合の四組目は翔君に決定です!」

 どこかで見た事がある展開だった。いつだったかな?

「後衛は翔君で、前衛は陽介君ね」

「はい!」

 湯浅陽介(ゆあさようすけ)は嬉しそうに返事した。友達に肩を叩かれている。陽介がいつも一生懸命練習してたのは僕も知っている。僕も陽介が選ばれて嬉しかった。

 陽介が僕に近付いて手を出した。

「頼むぜ翔」

「あっうん」

 僕は陽介と握手した。

「じゃあ今日は終わりね」

「お疲れ様でしたー!」

 散り散りになっていくメンバーをよそに美守が走ってきた。そしてチョップしてきた。

「とう」

「あー」

「レギュラーなんだって? おめでと」

「あっうんありがとう。そうだなぁ……」

「どうかした?」

「いやほら、僕は別にテニス必死にやってた訳じゃないし、僕が陽介と組んでもいいのかなって」

「ふーむ。でも陽介君はやる気みたいですけど」

「え?」

 振り返ると陽介は楽しそうに仲間とラリーをしている。

「はしゃいでますなあ」

「うっうん」

 僕達は二人でしばらく陽介のラリーを見ていたが、不意に僕の口から勝手に言葉が出た。

「せっかくだし頑張ろうかな」

「うん、それがいいよ」

 美守が手を振りながら声を挙げた。

「おーい陽介君! こっち来て!」

 陽介が走って来た。そしてチョップしてきた。

「とう」

「何? 流行ってるのこれ?」

「ははっ! 悪い悪い、二人が面白そうだったから。そんで何?」

「二人が勝つために作戦会議をしようと思って」

「いいね。やろうか」

「うん」

 僕達はコート外の椅子に座った。黄色いコンテナを裏返しにして机替わりにし、麦茶を飲んでコンテナに置いた。

「まず陽介君はよくラリーで強い球を打ったりしてますが」

「うん」

「それは疲れるしアウトになったら勿体ないのでやめとこっか」

「え? いいの?」

「うん。とりあえず安定性向上のために繋ぐ。陽介君はできるだけボレーで点を取る事にしよう。そんで翔がロブを上げるのを待って前に出たほうがいいね」

「えーと……」

「さっきやってたみたいに打ちながら前に出るとね、陽介君に狙って返されると反応できなくてストレートを抜かれるから」

「あっそうなんだ」

「そんで翔はね、適当に返すんじゃなくて陽介君が前に上がれるように、深いロブを練習して」

「なるほど」

「あと敵のバックハンド側に返す練習」

「敵を見ながら打てってこと?」

「そう」

 美守は立ち上がってラケットを持った。そして右手でラケットをクイクイと動かした。

「フォアハンドは手首を返すだけでも割と遠くの球を拾えるでしょ?」

「うん」

「でもバックハンドはそうはいかない」

 美守がバックハンド側で手首を動かした。

「バックハンドは手の甲側に腕を振らなきゃいけないから、ちゃんとした球を打つ時は打点の近くまで体を持ってきて腰を回して打たないといけない」

「ああ、基本のフォームですね」

「はいそうです。ということはですね、返って来た球をフォアで打つ時は一歩足を出せば済むのに、バックで打つ時は二歩、三歩余計に必要になると思うのよ」

 僕は球を追ってフォアを打つ所とバックで打つ所をそれぞれ想像した。

「ああ、確かに」

「プロは違うかもしれないけど中学生ならやっぱりバックハンドは苦手な人が多いと思うから。だから翔が敵のバック側に打つと相手はそのたび走らなきゃいけないでしょ?」

 陽介がゴムボールをニギニギしながら感心した。

「おおーなるほどね。相手のスタミナ切れが狙えると」

「うん。ミスも増えるしね」

「よし。じゃあ俺は安定性と、あとはボレーの練習だな」

「僕はロブと相手を見ながらラリーする練習ね」

「はい、じゃあ少しやってみよっか」

 美守が立ち上がってパンパンと手を叩いた。

 僕はまだコートに残っている斉藤君に、陽介は茂木君に声をかけてラリーの練習相手になってもらった。斉藤君のバックハンド側に狙って打てるように。

 相手を見てからボールを打つのは意識していないと結構難しい。ボールを打つ時はさすがにラケットから目を離せないからだ。僕の返球がネットにかかるのを見て斉藤君がスピードを落としてくれた。

「こんくらいでいいかー?」

「うん、ありがとう!」

 何回か繋げるようになってきてロブを上げてみる。このくらいかな?と思ったが直線的に打った時アウトになってしまって力の加減を覚える必要がありそうだ。

「ロブの時は肩の回転で調整してみてー!」

 後ろから美守が声を出した。

 肩か。なるほど。ロブは手首に頼るより肩の回転の方が力を調整しやすそうだ。何回か打ってみて分かってきた。このくらいか。

 陽介は茂木君とのラリーは切り上げ、僕のロブに合わせて上がるのを何度か試していた。

 球を拾った時、美守の横にいつの間にか先生が立っているのが見えた。美守とこっちを見ながら何か話している。何だろう?

「そろそろ終われー」

「あっはい」

 先生に言われて僕達は練習を終えた。無策で試合に臨むよりはこの方がだいぶ良さそうだ。

「あっ思い出した」

 陽介が僕を見て不思議そうに聞いた。

「何が?」

「小学校の時にリレーの選手になっちゃってさ、こんな風に美守に教わって走る練習したんだ」

「へえ、翔って結構足速いもんな」

「いや、その時までは全然遅かったよ」

「そうなんだ。結果はどうだった?」

「うん」

 僕は美守を見た。先生と並んで仁王立ちしてニコニコと微笑みながらこっちを見ている。

「勝ったよ。嬉しかった」

「そっか。じゃあ水野参謀に任せておけば大丈夫だな。頑張ろうぜ」

「うん。じゃあお疲れ」

「お疲れ」

 陽介は別の友達と帰っていった。美守の所に行くと先生も帰った。

「先生と何話してたの?」

「ん?」

 美守は僕を見てニコニコしている。

「私の旦那さんを褒めちぎってくれたの」

「えっ本当?」

「嘘」

「あっそう……」

「フフッ」

 美守は歩き出した。

「内緒」

「えー」

 僕は先生との会話の内容を尋問しながら美守と帰った。

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