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十ニ

 文化祭は参加する仕方でイベントの模様がだいぶ変わってくる。

 僕は特に何もしないので、クラスのやる喫茶店をちょっと手伝う以外はプラプラするだけで、近所のお祭りに行くような気分だけど、例えばバンド演奏なんかやる人は参加するメンバーを集める所から始まり、演奏する曲を決める、練習する、練習だってスタジオを借りたりしなければいけない。出来そうなら実行委員に参加の紙を出して、場所、時間を調整する必要がある。その準備は思い立ってから一ヶ月もかかるのも普通だ。

 僕は文化祭当日、さっそく美守と色んなクラスを周って出し物を楽しむ事にした。教室から出てちょっと歩くと射的をやっている場所なんかもあって、どこからこんな銃を持って来たんだろうという疑問が湧いた。

 不意に美守が言った。

「お化け屋敷に行けます」

「え? 行けます?」

 僕は出来るのか? みたいな口調で聞いた。

「行けますよー」

「無理して行かなくてもいいんだけどな」

「なんだ怖いのか」

「い、いや別に」

「見てほら」

 僕は言われてお化け屋敷を出しているクラスを見た。階段を上がったすぐ左の教室から校舎の端の教室まで全て巻き込んで迷宮を作り上げたようだ。ここ、確か五クラスくらいあった気がするんだけど。僕はその大きさに逆に興味が湧いた。

「凄いねここ」

「三年生がお化け屋敷をやる企画がかぶっちゃったから全部くっつけちゃったんだって」

「へえー」

「行ってみよ?」

「うん」

 僕達は三年生が作った一大スペクタクルを楽しもうと待っている人の列に並んだ。「怪人の島」って書いてある。何の事だろう? 入り口で軍服を来て仮装している三年生が二人で受付をしている。なんで軍人? 三年生って一年しか変わらないのにすごく大人に見えるのはなんでなんだろう?

 僕達の前の人がお化け屋敷に入って行き、僕達は順番を待った。あれ?

「あ、翔と水野か」

「どうも」

 受付の人の一人はテニスの先輩だった。

「二人で周ってんの? ほんと仲いいなお前ら」

 美守は照れている。

「へへ」

「こりゃ気合い入れて怖がらせてやらないとな」

「えー勘弁してくださいよ」

 先輩はスマホで何やら打ち込んだ。

「気合い入れろって言っておいた」

「ええー」

 やだなあ。僕は怖いの苦手なのに。

 先輩のスマホが光って、先輩は営業用の大げさなお辞儀をした。

「ではあなた達の番です。行ってらっしゃいませ……」

 僕はそろそろとお化け屋敷に入った。

 暗い。壁の下のほうに付いているぼんやりとした明かりを道標に進んで行く。ナレーションがスピーカーから響いた。

「あなた達はこの島に迷い込んだ旅行者だ。ここは怪人の島と呼ばれ、数々の怪奇現象が観察されている。島の反対側にある船から脱出するためあなた達は歩き出した……」

 床に草をイメージした毛布のような生地が敷かれていて、さらに崩れた大きめの墓標みたいなオブジェがあちこちに置かれているので、それを避けながら進まないといけないから早足で歩けないようになっている。

「翔、ちょっと待って」

「うん」

 美守は僕の腕にしがみついて来た。二人でそろそろと進むと、横の壁に窓が開いていて、そこから向こうを覗いた。窓の向こうで、鉄板に縛り付けられて悲鳴をあげている人に向かって何度も包丁を振り下ろしている男が見える。

「うわ……やだ何あれ」

 男が声に気付いて周囲を見回してからまた同じ動きを繰り返した。

「行こう」

「うん」

 歩き出そうとすると突然さっき通り過ぎた墓標からキイィ、と音がした。

「ん?」

 振り返ると墓標の後ろが開いて墓標から包帯だらけの手がズルリ、と出て来た。唸り声と共に包帯を巻いた怪物が這い出て来た。

「え! ちょっと何か出て来たよ!」

 三体ほど出て来た怪物達はゆっくり立ち上がると僕達を見て叫び出した。

「ウオオオオオオオ!!」

「きゃあああ!」

 ムカデみたいなグロテスクな顔をした怪物達が叫びながら迫って来る。美守は悲鳴を上げて、僕にしがみつく腕の力を強めた。もう引き返せなくなってしまった。前に進むしかない。僕達は転ばないように急いで前に進み、大きな人形が置いてある道を左へ曲がった。後ろの怪物達は人形に向かって飛びかかり、唸りながら人形の腹部に食らいついた。暗いからよく見えないけど人形の腹部から色々出ちゃって怪物達の口に色々くっついていた。

「や、やばい怖すぎるよ翔」

「う、うん早く出……」

 進む先を見ると、ここはさっき窓から覗いた空間だった。鉄板に寝かされた人はもういなくなっていて、包丁を持っていた男が僕達に気付いた。男は血まみれの状態で微笑んで僕達に挨拶した。

「ああお待ちしていましたよ」

「え?」

「お食事が出来ました。皆様お待ちです、さあお隣へどうぞ」

「え、あ、はい」

 僕達は促されて隣の部屋に入った。

 隣は和室で、昭和の食卓と言った雰囲気の部屋だった。畳に丸いちゃぶ台。古いブラウン管のテレビが置いてある。薄黄色の明かりで何とも気味が悪い。ちゃぶ台の周りに敷かれた座布団に既に三人程座っていて、食卓には、変な肉の料理が置いてあり、汚い皿からベチャベチャと赤黒いソースがこぼれている。使っていない座布団が端に積まれていて、今ちゃぶ台に余った座布団が二つ置いてある。僕達の分なのか? 顔色が悪くてぼろぼろの服を着た三人が座って僕達が座るのを待っている。死人のようだ。僕達が空いた席に座ると食事が始まった。

「アハハハハ」

「フフフフ」

 目が虚ろな三人が笑いながら肉を持って口元でぐちゃぐちゃやり、足元にボタボタと肉が落ちていく。口元が赤黒いソースで汚れ、何を食べているのか想像して気分が悪くなった。

「な、何なの」

 突然真っ暗になった。

「きゃあ!」

「うわあ!」

 僕達二人が悲鳴を上げ、笑い声だけが聞こえる暗闇で僕達はお互い抱き付いて震えた。電気が点くと皆いなくなっていて、今までいた席に大きなムカデみたいな深海生物みたいな生き物の死骸が何匹も置いてあった。脚がいっぱいあって気持ち悪い。

「や、やだもう何なの……早く出よ」

「う、うん」

 死骸を踏まないように畳を歩いて右奥の扉から部屋を出ると、それからも壁から手とか、変な生き物と融合した人間とか次々と色んなのが出て来た。

 いくつかの部屋を通り過ぎ、僕達はやがて研究所みたいな空間に出た。そこにいた軍人みたいな人達に僕達は捕まり、大勢の人達と共に集められた。僕達の他に二十人くらいいた。軍人が外国語で何か喋ると銃を撃って端の人達から処刑し始めた。端からゴトッゴトッと人が倒れて行く。悲鳴をあげる人、祈る人、抗議の声をあげる人に混じり、一人の若者が僕達の手を取ってこっそり裏の部屋に通してくれた。外国語で小声で何か喋りながら向こうを指差した。脱出用の船があるから逃げろと言っているみたいだ。僕達は船のデッキに向かって静かに歩く。デッキに近付いた時、後ろで銃声がして、振り返ると軍人がさっきの若者を撃った所だった。軍人が僕達を指差して何か叫んだ。他の軍人達が出て来て追い掛けて来る。船から光が漏れて来て、光の中から現れた船の乗組員らしき人が叫んだ。

「早く! 早く乗って!!」

「は、はい!」

 僕達は急いで船に乗って、船の人が扉をバタンと閉めると、明るい廊下だった。どうやらこれでお化け屋敷が終わったらしい。

「はい、お疲れ様でしたー」

「あ、ど、どうも」

「最後の奴は何だったんですか?」

「ああ、あれは怪物に化けられる人間と普通の人間の区別が付かなくなった軍人が、島の人間を全員処刑するっていう流れだったんだ」

「へえー」

「さっき出なかったらどうなるんですか?」

「撃たれて、島の秘密は闇に葬られたってナレーションが流れて終わり」

「そうですか」

「ありがとうねー」

 僕達は階段を降りながら首を傾げた。

「お化け屋敷ではなかったような?」

「う、うーん」

「まあいっか。お腹空いたし何か食べよ翔」

「焼きそばとかどう?」

「いいねえ〜」

 僕達は焼きそば店を求めて歩き出した。

 と言っても校舎はなかなかの広さだし、混雑しているのでどこにどんな店があるのか分からない。

「確か案内板があの辺に……あったあれだ……ん?」

 案内板の前に健と白石さんが立って地図を見ていた。

「健」

「よっ。何やってんだこんな所で?」

「食べ物屋さんを見ようと思って」

「俺等も」

「じゃあ一緒に行こうよ」

「オッケ」

 僕達は話しながら案内板を見て、校庭の露店で焼きそばを売っているのを見つけた。

 僕達は外に向かって校舎を歩く。美守が健と話し出して笑っている。僕は白石さんに話しかけた。

「久しぶり」

「あ……うん」

「健と二人で周ってたの?」

「そう……だね」

 二年でクラスも変わって、久しぶりに会った白石さんはなんだか少しよそよそしかった。白石さんは少しゆっくり歩き、先を行く健と美守から距離を取った。

「どうしたの?」

「あの……ね」

「うん」

「美守ちゃんと付き合ってるってほんと?」

 そういえば健には言ったけど白石さんには直接言ってなかった。機会も無かったし。

「うん」

「そう……なんだ」

「ごめん、健には言ったんだけど」

「ううん……いいの。ありがとう」

 何でお礼を言われたか分からない。

「何で?」

「これでスッキリしたから」

「……? そうなんだ」

 よく分からないけど白石さんは納得して健と美守の所に駆けて行った。


 僕達は最後のフォークダンスも含めて文化祭を満喫した。僕は美守とだけ踊って、後は校庭の焚火を見ながら二人で手を繋いで端に座っていた。健と白石さんも並んで座って焚火を見ているのが見えた。

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