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十一

 次の日の朝、美守が僕の家の玄関に来た。

「おはよーございまーす」

「あら美守ちゃんおはよう。翔! 美守ちゃん来たわよー!」

「今行くー!」

 お決まりのやり取りをした後、僕は下に降りた。

「おはよう翔」

「おはよう」

「部活の時間だぜ!」

「あ、うん」

 正月前の最後の部活の日だ。

 僕達はいつものように外に出た。息が白い。美守も手にハーッと息を当てながら横を歩いてる。美守の店の前を通り、美守の両親にお辞儀して通り過ぎる。

 そして通り過ぎたら美守は僕の腕に抱き付いた。

「よっと」

「うわっ」

「翔に彼女爆誕のお知らせを皆に振りまかないと」

「は、恥ずかしいな。ていうか歩き辛くない?その体勢」

「ん、実はちょっと」

「転ばないようにね」

「あい」

 僕達は二人で歩いて学校に行った。部活までこの体勢で行くのはさすがに恥ずかしい。でも美守は離す気配が無いので諦めた。

 コートの横まで来ると、部員の斉藤君がボールに空気を入れていたけど、僕達に気付いて挨拶した。

「よっお二人さん」

「おはよう」

「おはよー斉藤君」

 そう言うと斉藤君は空気入れを再開した。

「いやー寒いわ」

「そうだね。朝は特に」

「こたつ入りたいね」

「あーそれ言うなよ帰りたくなるわ」

「アハハ」

 斉藤君は意外と無反応だった。後ろから茂木君も来た。

「おっす翔、水野」

「おはよー」

「おはよ」

 あれ? 僕と美守は互いに見合ってから瞬きした。

「お前らも空気入れろよー」

「あ、うんごめん今やる」

 僕と美守は空気入れを持ってピコピコと空気を入れて、その後普通に部活をした。


 後から知ったけど、僕と美守が付き合ってない事を伝えた人達以外は全員、僕と美守がとっくに付き合っていると思っていたらしい。健や白石さんに会った時に僕達が付き合い出した事を言ったら驚いてたけど、他の人達は付き合ってなかった事に驚いたそうだ。


 僕が驚いた事は、美守は意外な程勉強する事だ。受験生でもないのに一日ニ時間は必ず勉強する。寝る前にも勉強する時もあるからそれも合わせると三時間、四時間する日もあるそうだ。

「こう言っちゃなんですけど、そんなに勉強する事ある?」

「んーとね、今日やった範囲の問題集を全部解けるようにしたいの。解説を見ても分からないっていう問題は残したくないから。人間てその日にやった内容も数時間すると半分くらい忘れちゃうんだって。だから今日やった所は今日やらないと。今は冬休みだから授業は無いけどさ。全科目やるとそれで一時間、二時間はかかっちゃうでしょ?」

「うん」

「で、日曜に一週間前にやった範囲をだいたい解き直す時間を作る。これが九割解けないと、一ヶ月後にはもう七割切っちゃうから出来なかったらそこを復習するの」

「うへ〜」

「で、さらに一ヶ月に一回、その範囲をまた解いて八割取れれば大丈夫かなって感じ。定期テストは三ヶ月とか四ヶ月に一回あるから、テスト前にまた集中的にやれば八割以上取れると思って」

「なるほどねえ」

 いつも学年上位にいる訳だ。

「僕もそのやり方で勉強してみようかな」

「うん。分からない所はいつまでも悩んでても仕方ないので私と先生に任せなさい」

「いっぱい考えた方がいいんじゃないの?」

「うーん、そういう人もいるけどさ。テストだって先生が全部一から作る訳じゃないじゃん? どこかから似たような問題をいじって作るでしょ? だから大抵のテスト問題は見た瞬間にああこのパターンの奴ねって分かるよ」

「あ、そうなんだ」

「うん。だから丸暗記じゃなくて、こうこうこうだからこうやって解くって理解してその問題のパターンを覚えちゃえば、あとは数字が違うだけだから」

 美守は問題を作る側の人間の事まで考えて勉強している。それはそうか。問題だって天から降って来る訳じゃないもんな。

「あ、だからか」

「何が?」

「いや、美守はテニス、手を抜いてるでしょ」

「う」

 美守は元気いっぱいな女の子だけどテニスの腕はそこそこで、試合をした時も僕は美守に負けた事が無い。てっきりテニスはそんなに得意じゃないのかな?って最初は思ったけど僕はすぐに気が付いた。美守は疲れ過ぎないようにこっそり手を抜いている。

「美守だったらほんとはもっと速く走って取れる球もいっぱいあるはずだし」

「よく見てるわね」

「うん。昔から好きだから」

「えへ」

 美守は麦茶をくぴっと飲んだ。

「大人風に考えると学生の仕事ってやっぱり勉強でさ。テストで仕事の成果をチェックされる訳じゃん? だからそこで成果を上げないと怒られたりするのは当然かなって」

「そっか」

 僕はちょっと考えてみた。

「でも遅刻したって少しくらい点が悪くたって別にクビとかにならないじゃん?」

「まあ、それはそうだけど」

「うん」

「翔はプロテニス選手になるの?」

「え? まさか。無理でしょ」

「うん。スポーツ選手とかって限られた人しかなれないじゃん」

「うん」

 美守はポッキー振りながら話し始めた。

「例えばうちのクラスから一人だけスポーツ選手になったとします」

「あ、はい」

「私が超かわいいのでアイドルになったとします」

「はい」

「残りは?」

「え?」

「他の皆は? どんな職業に就くの?」

「えっと」

「極端に言うと仕事になる程の才能が無い人はどうするの?」

「うーん」

「皆仕事が無くなっちゃうでしょ?」

「まあ……極端だけどそうだなあ」

「でも才能が無くたって勉強していい点を取ればさ、例えば医者とか看護師とか色んな人になれるじゃん」

「はあ」

「つまり勉強をすれば特殊な才能が無い大多数の人でも仕事に就けてお給料が貰えて幸せに暮らせるのです」

「はーなるほど」

「だから学歴社会だとか紙一枚で人を評価するなとか文句を言う人も多いけど、私は勉強がちゃんと評価される社会の方がいいと思います」

「はい、どうもありがとうございました」

「だから翔も勉強しよ?」

「うん」

 随分長くなったけど、そもそも美守と一緒に勉強するのにまったく異論は無いです。

 僕も勉強の仕方が分かってきて、中学二年の秋に僕は初めて学年九位になり、お母さんも喜んだ。


 来月は文化祭だ。

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