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一
僕は今、妻が入院している病院に向けて車を走らせている。
静かな冬の朝、曇り空の下で枯れ木が並んだ道を車が進んで行く。右側に広がる畑に霜が降りていて、時折キラキラと光っている。ラジオがこの調子だと昼には雪が降るかもしれないと告げていた。
僕の他には車が一台も走っていなかった。僕は運転しながら昔の事を思い出していた。後ろに流れていく景色と半透明の彼女との思い出が連動して、まるで結婚式の時に流れる二人のプロフィールムービーを見ているみたいだった。ああいう映像には素敵な曲が後ろで流れているけど、このムービーには美守の声しか入ってなかった。
子供の頃から思い出したらきりがない。気が付けば人生の節目にはいつも彼女がいた。水野美守がいた。美守はあらゆる場面で僕を励まし続けてくれた。僕の人生は美守が作ったようなものだ。
今度こそ、僕が励ます番だ。