香織① 後編
綾瀬さんはこれからも重要人物として出てきます。お楽しみに〜。
ノベルアップ+でも連載中です。
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香織が優斗を好きになった理由とは...
※※※
バレンタインデー。それは小学生にとって、最も男女の中を深めるイベントだと思う。でも当時の私にはそんな事は関係なかった。恋愛に興味を持っていなかったからだ。そして私はそれを公表していた。誰にもチョコを上げるつもりは無いこともしっかりと伝えていた。
それでも、彼女たちは止まらなかった。
バレンタインデー当日の朝、私は下駄箱に手紙が入っている事に気づいた。それにはこう書いてあった。
新庄香織さんへ。
放課後お話があります。
お時間を頂けるのであれば、校庭にあるケヤキの木の裏に来てください。
ずっと待ってます。
桜壁亮太より。
私はその手紙を読んだ時、思わずため息をついたのをよく覚えている。恋愛には興味が無いことをもう伝えているのに。ハッキリ言って時間の無駄だ。そう考えた。でも若気の至りとでも言うのだろうか、その場でハッキリと言ってしまえばその事が学年中に広まって告白される回数と減るんじゃないかとも考えてしまったのだ。
本当にあの時の私にこう言ってやりたい。浅はかなり浅はかなり、とでも。こうして私は、放課後ケヤキの木へと向かうつもりだった。ここからは当時の私の視点で説明していく。そっちの方が分かりやすいと思う。
※※※
キーンコーンカーンコーン......キーンコーンカーンコーン。
やっと退屈な授業が終わった。幼馴染がチラリと視界に入った気がした。私の気持ちはこれからの事を思い出すと、全然晴れない。逆に雨が降ってきそうでもある。
「あんた、本当に優斗君にチョコ上げてないんでしょうね?」
「......上げてないよ。」
優斗が帰ったのを見届けたその後突如、クラスの女子のリーダー格が私に向かって叫んだ。私はそれに弱々しく答えた。優斗はただの近所に住むクラスの男子である。一緒に登下校したりしたりしている。何故そんな目立たない奴に女子のリーダーが好意を寄せているのか分からない。それともただ単に私が親しい男子の名前を上げただけなのか。
女子リーダーの質問を筆頭に、次々と女の子が私に質問を投げつけてきた。コミュニケーション能力が高い女子たちが私の座っている席の周りを囲んだ。
私はそれを無視して立ち上がった。そして囲いの一方を睨み付けた。
「......どいてくれない。」
「じゃあウチらの質問答えてよ。なんで綾瀬にだけ答えてんの。」
「......」
「なんか言ってよ」
「......」
「なんか言えよクズ!」
パンッ!
手と手が思いっきりぶつかった音が聞こえた。その音は私とクラスメイトとの会話を強制的に中断した。
「綾瀬さん達、僕はその辺で辞めておいた方がいいと思う。だから新庄さんを帰らせて上げてくれないかな。」
優斗だった。綾瀬さんは目を丸くしている。
「普段から思ってたけど綾瀬さん達ずっと新庄さんの事無視してるよね。もしかしていじめでもしてるの。そしたら俺は許せねーぞ?」
優斗以外女子しかいない空間で、優斗は笑顔でそう言った。
私を含めた周囲にいる女子たちの目が驚きを隠せない。それはそうだ。彼は私の前でも、男子の前でも一人称が俺になった事はない。当然、綾瀬さんや他の女子の前でも同様である。
彼は良い事なのか分からないがお人好しだと思われていた。でもそのイメージはついさっき本人の手によって叩き壊された。
「ほら、香織。行くぞ。」
そう言って彼は私に手を伸ばしてきた。私の名前を呼び捨てて。そして私は拒まなかった。私と優斗は手を繋いで教室のドアへと向かった。我に返った綾瀬さんが私を睨み付けてきた。それは知らんぷりした。
そうして私は優斗と一緒に教室から出た。優斗がドアをピシャリと閉めるのが見なくても分かった。私がお礼を口に出そうとした間、優斗はズルっと座り込んでしまった。
「こ、恐かったあ」
私は絶句する。私はこんなのに助けられたのか。
「でも新庄さんのお母さんに新庄さんの事頼まれてたから。助けられて良かったよ。ごめんね、もっと早く僕が勇気を出して行動していれば」
あんな前にお母さんが頼んだことを律儀に守ろうとしてたの......?
「......私が引っ越してきた時に娘の事よろしくねってお母さんに頼まれてたの覚えてたの?」
「あ、もしかして迷惑だったの?」
彼の心配そうな顔が私の真っ赤なリンゴになっているであろう顔を躊躇なく覗き込んできた。
「いや、あの感謝してる。ありがとう。」
「どどどどういたしまして」
私がそう伝えると彼は耳まで真っ赤にしながら言った。顔をこっちに向けようとしない。まさか、もしかして......。
「青野君もしかして今照れてる?」
「......照れてないし。」
か、かかか、かかかかわいい。何この反応。意地悪したくなる。
「じゃあこっち向いてよ」
「やだ」
「えー、いいじゃん」
「良くない!」
優斗君は立ち上がり、昇降口へと向かった。私も当然追いかけた。
「でもまあ、取り敢えずありがとう、助けてくれて。優斗君♪︎」
「......名前で呼ぶな」
「やだ」
すると優斗はやっとこっちを向いた。
「僕はもう絶対に揺らがないから。」
「えー、俺って言わないの?」
「新庄さん、急に意地悪になったよね......。」
「じゃあどうやったら俺になるの?」
「僕の常識を越えて頭が何も考えられなくなったら。」
「意味がわからない。」
「えーっと、僕の常識を上回る奇想天外な何かによって驚き過ぎたらって事。これなら分かる?」
優斗は自分のこめかみをトントンと指先で叩きながら私に言った。
「なるほど、つまり相当バカな事やればなるってことか。」
「......そうだね。」
「じゃあ私、今日からアホになる!」
「はぁ〜? お前なに言ってんの。俺は別に俺になりたい訳じゃないんだけど。」
「あ、俺になった。」
「うっ......。」
「てか優斗君はなんで普段から俺で喋らないの?」
「だって今更変えるとか恥ずかしい。」
「他の男子みんな俺だけど?」
「......」
「まあ優斗君が俺モードになりたくなくても、アホな私が俺モードにしちゃうけどね。」
「なんで俺にそこまでするんだよ。」
優斗君は呆れたように私を見てきた。
「秘密......。」
(好きな人には格好良くしていて欲しいなんて言えるか!!)
昇降口に着いた時、優斗はいきなりこっちを振り向いた。すぐ後ろを歩いてた私は急ブレーキ。もう少しで顔がぶつかる所だった。
「僕は桜壁君に新庄さんを待ってるんだけどまだ来ないって言われて忘れ物とついでに君を探すつもりだったのだけど、彼は待たせちゃっていいの?」
私の脳が停止した瞬間だった。
※※※
席替えのクジ引きが終わった。いよいよ席の発表である。そして私は今、前代未聞のとてつもない危機感を抱いている。中三のころフラれたショックから新しい恋を始めていなかった優斗には悪いけど、盗られる事はまず無いって安心してたのに、クジを引いたあと後ろの女の子を見てた。まずい。非常にまずい。しかもそれが超絶が付いてもおかしくない美少女だなんて。
「(こうなったら席替えは優斗の隣に座らせて下さい。神様、お願いします!)」
そして私の人生を掛けた席替えは......。
優斗と先の美少女が隣り合わせで座るという最悪の組み合わせだった。
「(神様てめぇぇぇ!ぶっ殺すぞゴラァ)」
私の隣はっと。あれ?見間違いじゃなければ私......。
優斗の左前じゃね?
私の優斗の隣になったのは、私の永遠のライバルである秋野下という超絶美少女。でも私自身は優斗の左前。そしてそこから導き出した世界の心理はこちら。
『セカイはフコウヘイ、でも暖かい。』
※※※
以上、香織が優斗を好きになった理由でしたー!
何故アホを演じているかもついでに分かりましたね。
あ、ジャンル変更しました。青春ドラマのつもりだったんですけどどうやらシリアスな雰囲気は僕には書けない見たいで。ところどころふざけて書いてる所があるかもしれませんが作者なりの照れ隠しなのです。
お許しおをー!
どうぞこれからもフコウヘイをよろしくお願いしますm!