席替え
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※※※
ガラガラガラ
「おいおい、俺らラッキー過ぎね?うちのクラスの女子マジでレベル高いんだけど」
「まじそれ。今入ってきた子とかマジで可愛い。」
教室へ向かった僕達を待ち受けていたのは、好奇の目だった。そりゃあそうだな。もし僕が普通の男子だったら絶対に思わず見てしまう。例え女子だったとしても、その圧倒的な美貌は視線を引きつけるだろう。
そして、何を隠そう。クラスメイトの視線が向いているのは我が自慢の幼馴染、新庄香織なのである。
(やっぱ香織は注目されてるなー)
そう思っていた時、後ろからツンツン、と二度背中を押された。そして、思わず振り向いてしまった僕を待ち受けていたのは、イケメンによる耳元への囁きだった。
「やっぱ新庄さん注目されてんなー」
「そうだね」
亮太が何を思ったのかニヤニヤと笑っている。
「どうしたの?そんなにニヤニヤして」
「いや〜別に〜」
「そんな顔だとせっかくのイケメン顔なのにモテないぞ」
「え...。そんなにヤバい?」
亮太は僕を懇願するように見てきた。だがしかし、厳しく、正直に伝えるのも親友の役目である。
「今のは同性の僕も引くぐらい気持ち悪かった」
「げ...。マジかよ」
「うん、マ...」
「お二人さん、とても仲良さげですねー!」
気の所為だろうか、後ろに明確な殺気を持った鬼が立っている気がする。
「そうですよね、お二人共仲良しですもんね。可愛い可愛い幼馴染が注目されてて困ってる時でも、おしゃべりを優先させるくらい仲良しですもんねー」
「「ヒッ......。」」
割愛。
「「こ、怖かったぁぁ」」
入学式の後、担任の先生に頼まれた資料配布を終えた僕と亮太は残った休み時間に廊下で他愛も無いことを話して時間を潰していた。
他愛の無い話の筈なのに、僕と亮太は互いに涙目になりながら慰め合っている。朝の一件は僕と亮太に絶対にアホり...コホンコホン。香織を怒らせないと永遠に誓う事を余儀なくされた。
「青野、新庄さんが怒るとあんなになるって知ってたのかよ?」
「いや、僕も知らなかった。」
「まあ青野は新庄さん怒らせなさそうだしなー。」
「うん、今日が初めてだよ。あんな香織に怒られたのは。」
「まるで般若だったよな。」
「僕もそう思った。」
いやあの時は本当に怖かった。般若のお面は現実に存在したのである。それが証明された決定的な瞬間だ。
「二人とも何を話してんのー?」
「「な、なんでもございません、姉御!!」」
はっ...。し、しまったぁぁー!つい言ってしまった。背後からの突然の般若軍による奇襲にビックリしてつい言ってしまった。僕と亮太は速攻で床に土下座。
「二人とも何してんのー?急に」
「「.......」」
あれ、怒ってないのか?僕は恐る恐る顔を上げた。そして僕の目に入ったのは天使の笑顔だった。
「「Oh my angel...。」」
「どしたの急に、英語なんて話して」
「いや、なんでもないぜ。な、青野?」
「うん、なんでもないよ」
はあー。良かったよ、怒られなくて。
「二人とも?」
ん?あれ?おかしいな、目の前にはついさっきまで天使がいたのになー。今は般若様が目の前にいるぞ?
「今度きっちり、色々と働いて貰うからね?」
「「も、もちろんです...!!」」
結局怒られた...。そして我が自慢の幼馴染はとても怖かった。
※※※
最初の授業が終わり、休み時間になると自然と僕達三人は集まっている。
「二人とも聞いたー?席替えだって!」
「おう、聞いたぜ。一時間目に先生が言ってたよな!」
「そーそー。ゆーとの近くになりたいなー」
「俺は!?」
亮太が涙目で叫んだと同時に、担任の先生が戻ってきた。
「よし、お前ら席に着けー、あと今から席替えの説明すっからよく聞いとけー。これからクジを一人一枚引いてもらう。そんで、折りたたまれた紙を開けて、書いてあった番号の席に座れ。分かったな?よし、じゃあ出席番号一番の青野から。」
僕の前にクジを持った先生がやってきた。
「ほら、青野。引いてくれ」
「はい」
僕は一枚の紙を取り出した。先生が顎で開けろと指図してきていた。
(亮太か香織の近くに。亮太か香織の近くに。)
そして僕が引いたのは三十五番。黒板からみて教室の後ろの右端の通路側である。目立ちたくない僕としては良い席だと思う。後は隣に亮太か香織を。隣じゃなくても近くにどちらかを。神様、お願いします!
「よし、次は秋野下だな。ほら、引けー」
先生がそう言うとクラスがざわめき始めた。なんで男子があんなに騒いでるんだ?思わず気になってしまい、チラッと後ろの席を見た。今は入学当初の席順で、五十音順である。僕の後ろには同じ「あ」から始まる人がいる。つまり、後ろには噂の秋野下さんがいる筈だ。
(たぶん授業で最初の頃は色々と一緒にやるだろうから、名前と顔くらいは覚えてこー)
そんな風に思った。
でも、そんな気持ちで見てしまったのは間違いだったとすぐに思い知らされた。僕は、後ろの席に広がるその光景に思わず息を呑んだ。黒いストレートのヘアスタイル、整った顔。僕は彼女から目が離せなくなってしまった。
僕は『恋はもう出来ない』はずなのに...。それでも思わず見つめてしまうほど、彼女は美しかった。
トクン......。
「え」
思わず声が漏れる。
なんだ、今のは一体...?
一目惚れしてみたい。




