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White Road -Side A-  作者: 市尾弘那
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エピローグ

「……ら、ら、らで……しゃらん?」

 春になり、上原と付き合い始めて3ヶ月近くが経過した。

 今日は俺はオフで、上原も上がりが早かったので、仕事帰りに俺の部屋に遊びに来ている。……と言うか、俺の部屋で仕事をしている。

「違うよ、そこ。その前、1つ、コード抜けてる」

「え? どこ?」

「ここ……Dsus4だって。ここ抜けると凄いことになると思うんだけど」

「……」

「どうしたらそんな間違い編み出せるんだよ」

「……うー……」

 ごしごしと譜面に書き込んだ文字を消しゴムで消し、上原が眉根を寄せてぶつぶつと言葉を呟く。

「ええと……何だか懐かしくなるね……あれ?何か歌詞足りない」

「だから足せよ」

「……うー……」

 Opheriaは、年明けに正式に解散をすることが決まった。

 メンバーの行く末もそれぞれ決まり、上原は解散を待たずに冬にはソロデビュー、ギターの大橋京子はよその事務所で新しい女の子とツインヴォーカルのユニット、ドラムの小宮令子は引退し、ベースの仁藤真名は移籍して女優業に転向するとのことだった。

 俺はいつだかの上原との約束を果たし、冬に出すデビュー曲を正式に提供した。当然だが、Blowin'で出しているようなうるさい楽曲じゃない。

 アレンジは、広田さん経由でウチだと大倉の楽曲なんかを扱っているアレンジャーに依頼することになっている。現在は上原が歌詞をつけるのにうんうんと唸っているところだ。以前、一緒に考えようと言う種類の言葉を発したような気がしなくもないが、現実問題として、俺は力になれない。頑張ってくれ。

「腹が減ったな……」

「あ、じゃあアスカ、何か作ろうか?」

「……お前、俺に殺意でもあるの?」

「……どうしてそういうひどいこと平気で言うの」

 苦笑しながら、咥えていた煙草を灰皿に放り込んで立ち上がる。

「俺が作るよ。……チャーハンでも良いよな」

「はーい」

「お前はそこで悩んでなさい」

「……はーい」

 口元で微笑んで、冷蔵庫を漁る。キャベツだとか人参だとかを取り出しながら、ちらりとリビングの上原を振り返ると、うんうんと唸りながらシャープペンを握るその手首には、俺があの日あげた遅れたクリスマスプレゼントが光っていた。店員に乗せられて買った、ブレスレット。

 事務所に戻った時に、駐車場の車に寄って俺が上原に包みを渡すと、せっかく泣き止んだはずの上原は再びぼろぼろと泣き出してしまった。まさか事務所のロビーで抱き締めるわけにもいかず、ひどく困ったのを良く覚えている。

 すぐに、泣く奴で。

 素直なんだか強情なんだか、わかんない奴で。

 だけど……今の俺にとっては、そんな上原が誰よりも愛しく誰よりも大切だった。

――数年前のあの日。

 瀬名と会う為に急いでいたクリスマスの日、上原が降って来た時には、こんなふうに思うようになるとは考えもしなかった。

 いくつかの偶然が重なり、いくつかの選択を越えた結果、今、こうして2人でいる。

 想う人に想われる奇跡を、凄いと思う。

 これまでにいくつもの恋愛をしてきたし、それは多分上原も同じことだろう。

 2人でいてもすれ違いはあるだろうし、泣いたり怒ったりすることもあるかもしれない。

 けれど。

「にんにく入れようかな……」

「……やーだー」

 上原の唸り声を聞いて、包丁を片手に、俺はひとりでくすくすと笑った。大雑把に切った野菜を細かく刻む。

 出会えた奇跡。

 想い合えた奇跡。

 これから2人で描いていくはずの長い道を、ずっと、手を繋いで。




――これがきっと最後の恋になると、そう、信じている。











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