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64:ただ一つの選択

 王都北方の平原へと集結した王立騎士団や冒険者達は、北の空から現れた存在と対峙していた。



 ――――――――鋼の災厄。



 そう称された存在の正体は、全長百メートルはあろうかという巨大な黒き竜であった。体表面は鋼のような光沢を放っており、呼称に違わぬ見た目をしている。

 この竜こそが、かつて王都とその周辺を壊滅させた存在であることに間違いないだろう。そして、今度こそ倒さなければならないということもだ。




「ヴオォォォォォーーーーッ!!!」




 鋼の災厄は、辺り一帯の空気全てを震わせるほどの咆哮を響かせながら、こちらへと猛スピードで接近してきていた。それを見た全員は例えようのない戦慄を感じると共に、絶対にここより先へ行かせてはならないという決意を新たに固める。

 突然襲われたであろう三百年前のあの時とは違い、今度は迎え撃つ準備が出来ている。それならば――――――



「……目標確認! 撃てぇーっ!!!」



 ――――――こちらから仕掛けるまでだ。合図の後、騎士団によって丘部分に設置された砲台から第一射が一斉に放たれた。

 砲弾自体に魔力が込めてあるこの砲台は王国が誇る強力な兵器で、ドラゴンですら圧倒できるほどの火力を誇る。



 ズドォォーーーン!!! ズドンッ!!! ズドン!!!



 何十発と放たれた砲弾はその全てが空を舞う黒竜へと命中し、爆炎と共に煙があがる。いくら百メートルを超える巨大な体躯とはいえ、これだけの砲弾をまともに食らってはさすがに無傷なわけがないだろう。


 ――――――――と、誰もがそう思ったその矢先。



「……何だと!?」



 全員の目に映っていたのは、若干のけ反りはしたものの、ほとんどダメージを受けていない黒竜の姿であった。鱗のようなものが羽から僅かに剥がれ落ちてこそいたが、その姿からは疲弊すら感じ取れない。

 そしてその攻撃によって完全な敵と認識されてしまったのか、その視線は丘で砲台を操作していた騎士団に向けられる。黒竜は空を舞っている姿勢から即座に急降下するとその巨体で突進を繰り出し、砲台ごと百名余りを吹き飛ばしてしまった。



「どわぁぁぁぁぁーーーっ!!!」


「か、各自体制を立て直すんだ! 対象から距離を取れ!!!」



 圧倒的という他ないその光景に思わず息を呑むシノ達であったが、ここで恐れ慄いてなどはいられない。いち早く加勢しなければ更に彼らの被害が広がってしまう。

 そうして必死の思いを抱きながら、黒竜が激突した丘の方角へ全員が走り出した。

 既に他の騎士団や冒険者達もカバーに入り始めており、地上に降りたった黒竜の胴体部分へ向けて遠距離攻撃や魔法攻撃が殺到している。だが、それでもダメージが通っているようには思えなかった。まさに大人と子供の戦いを見ているかのようである。


「それなら……!!!」


 丘の方面に気を取られている今が好機と思ったのか、ステラは双剣を構えると鋼の災厄へと接近していった。あの巨体に対して接近戦をしかけるとは、もしものことがあればただでは済まないだろう。


「ステラさん!!!」


 思わずシノが叫ぶが、ステラはその走りを止めることはない。単身で突っ込んでいったのがかえって幸いしたのか、他に気を取られている鋼の災厄は、まだステラの接近には気付いていないようだった。



「――――――はぁぁぁぁっ!!!」



 ステラは原型が残っていた丘の部分から飛び上がると、ちょうどこちらを向いた黒竜の顔面目掛けて剣を振り下ろし、十字の斬撃を繰り出した。

 大きな相手に対しては顔面を狙えば大抵の場合は有効というのが戦闘における定石だ。それはゴーレムだろうがドラゴンだろうが変わりはない。



――――――ズバァッ!!! ズガガガガガガッ!!!



 岩と金属を同時に削るような音が連続して響き渡った後、ステラは地面へと着地する。今放った攻撃は完全に顔面へとヒットしていたのだが、



「……そんな……っ!?」



 何の攻撃もされなかったかのようにまるで効いておらず、改めて彼女の存在に気付いた鋼の災厄は、巨体に似合わぬ素早さで腕を振るってみせた。

 咄嗟に行った双剣でのガードも空しく、まともに正面から食らってしまったステラは思いきり弾き飛ばされてしまう。そのあまりの勢いによって、周囲で攻撃を行っていた冒険者数人も吹き飛ばされて地面を転がっていたほどだ。



「――――――ぐあぁっ!!!」



 そのまま丘の下にある崖部分へと叩きつけられ、苦悶の悲鳴をあげるステラ。もちろんそれだけでは終わらず、すぐに立ち上がることが出来ない彼女に対して追撃を食らわそうと、鋼の災厄は突進の構えを取った。


「ステラさん、危ないっ!!!」


 それを見たシノは即座に杖を構えて上級魔法を詠唱し、ステラと相対している鋼の災厄めがけて爆炎をお見舞いした。本人は気付いていないが、一瞬で上級魔法の発動ができていたのも成長の結果なのだろうか。


「二人とも、今のうちに!!!」


 やはりダメージこそ通らなかったが数秒だけの目くらましには成功し、その隙にリエルとセリアが走り出す。

 今度こそ構えの後に、巨体による突進を繰り出した黒竜であったが――――――




 ガッキィィィィィン……ッ!!!




 倒れているステラとの間に立ち塞がったセリアによって、その突進を見事阻むことに成功。いつもより大きな音を響かせながら極星の盾が発動する。

 その間にリエルが倒れているステラへと駆け寄り回復魔法を発動する。立ちどころに傷が癒え、彼女は動けるようになった。


「もう大丈夫ですよ、ステラさん!」


「ありがとう……助かったわ、リエル」


 リエルの心底安心したような声を聞いた後、ステラは血でずり落ちた仮面をつけ直すと立ち上がった。

 なんとか窮地は脱したものの、依然として目の前の黒竜はこちらを押し潰さんとする勢いで突進を繰り返している。


「ぐっ……! くうぅぅ……っ!!!」


 心なしか、能力を発動しているセリアの表情にも苦悶が浮かんでいるように見えた。いくら強固な防御を誇るとはいえ、完全な無敵ではないからだろう。

 鋼の災厄がそのまま十度目ほどの突進を繰り出そうとしていた時、




 ズドォォーーーン!!! ドガガガガガッ!!!




 今いる場所とは反対側の平原方面から砲台の音が聞こえ、鋼の災厄の背中へと全弾が命中する。それに気づいた黒竜は突進を中断し、新たに敵と認識した方向へ向きを変えると翼を広げて飛び立った。

 そのおかげでシノ達は一時的に助かりはしたものの、今度狙われるのはあちらの方角にいる騎士団や冒険者達だ。ボーッとしている暇などない。


「な、何もかもがメチャクチャよあんなの!!!」


 黒竜が飛んで行った方向へ走っている最中、セリアが喚くような声で言う。やはり、あれほどの攻撃を受け続けるのは危険だったらしい。今相手にしているのは災厄と称されるような超存在だ。そこらにいるようなものとはレベルが圧倒的に違うということだろう。


「普通の攻撃ばかりか、強力な魔法ですら殆どダメージが通っていない……これじゃあ壊滅は時間の問題よ」


「そ、それじゃあどうやって撃退なんてすれば……!?」


「三百年前は確かに撃退が可能だったとすれば……何か方法があるはずだよ」


 歴史は嘘を付かないし、確かに一度は撃退に成功しているのだ。ならば、同じ手順を踏めば出来ないことではない。

 問題は、どうすれば有効打を与えて撃退なり撃破なりができるのかということだ。

 するとステラが思い出したかのようにこんなことを言い出した。



「王都で文献を調べている時に見かけたのだけれど……撃退した当時は、禁呪と呼ばれている大魔法が使われたそうよ。宮廷魔術師数人がかりで発動させ、なんとか撃退に成功したらしいわ」



 まさかそのようなものがあるとはと、リエルとセリアは驚く。災厄にぶつけるにはうってつけの手段だろう。宮宮廷魔術師数人がかりというのも、そのスケールの大きさが伺える。


「そ、それじゃあその禁呪を使うことができれば……!」


 希望に満ちた声で言ったリエルであったが、それに対してステラは残念そうに首を振って否定してしまう。



「……当時の壊滅に巻き込まれて、禁呪の扱い方に関する資料は全て失われてしまったわ。仮にその使い方が分かったとしても――――――」


「……どうなるんですか?」


「発動の負荷があまりにも大きすぎる。記録によれば、発動に携わった半数が亡くなったそうよ」


「そ、そんな……!」


 それを聞いたリエルは思わず口を手で覆って驚いてしまう。使えばほぼ確実に犠牲が出てしまう諸刃の刃だ。彼女の優しい性格からして、もし使えたとしても首を縦になど振らなかったと思う。

 セリアも大きくため息をつく中で、シノだけは別の反応を示していた。それもその筈だ。何故ならば――――――――



(失われてなんかいない……私は確か、その使い方を知ってる……)



 彼女は知っていたからである。禁呪の詳細だけでなくその詠唱方法までも。あの設定集にその記述を見つけた当時は、どうせ使うことなんてないだろうな程度に思ってはいたのだが……まさか今になってそんな状況が来てしまうとは思っていなかった。

 だが、それと同時にシノの頭には先日セラフが言っていた試練のことがよぎる。



(私に訪れる試練。そして、生死に関わる事……。もしかして、これが……?)



 仮にも禁呪などと称している魔法だ。たとえ考案者である自分自身が扱ったのだとしても、使えば本当に命を落としてしまうかもしれない。

 しかし禁呪に限らず、鋼の災厄を倒す手段がなければ再び王都はかつてのように壊滅してしまうことだろう。



 ――――――――世界の無事を取るか。それとも自分の命を取るか。



 世界の原作者であるシノ・ミナカワは、他でもない自分自身に決断を迫られているのであった。

【TIPS~禁呪】

限られた者でなければ扱うことすらできない大魔法のことを指す。

その威力はどれも強力無比だが、その分負荷も絶大である。

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