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52:中継地への道中

 クラド村に訪れた一ヶ月ほどの冬休み期間を利用して、王都方面へ行くことになったシノ達。この数年でそれなりに都も変わっているだろうし、色々な意味で楽しみな旅になりそうだ。


「ちっとばかし名残惜しいが……ま、気ぃ付けて行ってきなよ!」


 港にいた顔見知りの船乗り達に威勢の良い笑顔で送り出され、三人は王都方面行きの船へと乗り込む。他の街へ行くようなものとは違って、こちらは少し大きめの船だ。商船も兼ねているため、積荷などもかなり多いように思える。


「さぁ行くわよ! 私の武勲を挙げるために!」


「頼むから、あっちこっち行って問題だけは起こさないようにねー」


 やはりセリアの目に映っているのは、やりがいのある依頼のようだ。違う意味で気合十分の彼女を見て、シノとリエルはやれやれと肩を竦めた。

 そうこうしているうちに汽笛の音が鳴り響き、船が出航する。さすがに慣れたのか、隣にいるリエルはもう音に驚いたりしていないようだ。

 セリアは見送りに出てきている港の船乗り達に手を振っており、こういう仕草は見た目相応に子どもらしく見えた。

 

 ――――――ここからおよそ三日間。王都グランディアへの船旅の始まりである。


「船で三日もかかるなんて結構気長よね。リエルが王都に行ったことがあったなら記憶陣で一発だったのに」


「人の事を便利アイテムみたいに扱わないでください……」


「旅は歩いて時間かけてこそだよ。一瞬で着いちゃったら味気ないもの」


「わざわざ時間かけるなんて、やっぱ冒険者って変わり者ばっかなのねー」


「世界には変わった人なんて溢れかえってるよ。私もあなたもね」


 まさにこの世界を作った本人が言っているとなると、かなり現実味のある言葉である。というか、数百年に一度のペリアエルフなんて種族である自分こそが一番の変わり者な気がしないでもないが。

 話しているうちにクラド村の港はあっという間に見えなくなり、遠くに陸地が見えるだけの大海原へと船が繰り出す。


「思えば、誰かと船旅なんて本当に久しぶりかも」


「ま、アンタはあの村に付きっ切りっぽかったしね。子ども達のことが気になって遠出どころじゃないでしょ」


「シノさんだったら、ちょくちょく遠出しても何も言われないとは思いますけど……」


「皆にも結構そんな事言われたんだけどねー……やっぱり、留守の事が心配になっちゃうんだよ」


「見た目だけは若いくせに、老婆心が凄いわよアンタ」


 若干呆れ気味のセリアに突っ込みを入れられ、シノは頭を掻きつつ苦笑した。

 もう百年ほど生きてきたけれど、遠出をしたのは一年に一回ぐらいかもしれない。そう考えると、クラド村に留まっている期間がいかに長いかがよくわかる。家と仕事場を行ったり来たりするだけの人生じゃあるまいし、これからはもっと頻繁に遠出や旅行を考えるべきだろうか。


「んー……そろそろお昼も近いし、船内で食事でも――――――」


 気付けば出航してそれなりに時間が経っており若干陽も高くなっていた。

 デッキ部分で景色を眺めていた一同は踵を返し、船内食堂兼酒場へ向かおうとしたその時、



「よう、綺麗な姉ちゃんっ! 良かったら俺と一杯飲まねぇかい?」



 反対側のデッキ部分にいた男性冒険者がこちらへ近づきつつ声をかけてきた。見た目は金髪ロン毛で、なんだかチャラそうな雰囲気がある。

 タイミングからして、先ほどからずっと声をかけるチャンスを狙っていたようだ。シノは見た目が永遠の二十代前半なのだし、こうして言い寄られるのも無理はないが。


「お誘いは有難いんですが……ごめんなさい。同行者もいるので……」


「んな事言わねぇでさぁー頼むよー! 連れの嬢ちゃん達に迷惑はかけねぇからさー」


 やんわりと断ってみるが、思いのほか彼は諦めが悪いようだ。これがナンパというヤツなのだろうか? こうして実際に自分が遭遇してみると、なるほどこれは結構な迷惑なのだと実感することができる。

 その後、食堂に行くまでに二言三言やり取りがあったが相変わらず男性は引き下がってくれないようだ。それに対してさすがに業を煮やしたのか、


「ちょっとアンタ。シノが断ってるんだから諦めなさいよ! こう見えてガードは固いのよ」


 冒険者の男性をじっと睨みつけながらセリアが鋭く言ってみせたが、なんだか一言多い気がする。凄く突っ込みを入れたいのだが、今は状況が状況なので我慢しておこう。

 セリアが出てきたことによりちょっとだけ驚いた彼であったが、それでも引き下がる様子はない。そういう対応も予想していたのか、彼女は更にこう言ってみせた。



「どうしてもっていうなら……私と飲み比べで勝負してからにしなさい!!!」



 まさかの提案に冒険者の男性はもちろんのこと、シノやリエルも目を丸くして驚く。

 セリアなりに考えた突破方法なのかもしれないが、突然とんでもないことを言い出したものだ。


「ちょ、ちょっと何言ってるんですかセリアさん! 飲み比べだなんてそんな……」


「シノは一応契約者なんだから、悪い虫は払っとくに限るでしょ?」


「だからといって、勝手に勝負を申し込まないでください!」


 見かねたリエルが止めに入ろうとするが、当の彼女はなんてことのない感じだ。庇った上での行動なのはわかるのだが、勝負にされるのはなんだかなぁとシノ自身は思ってしまう。

 というより、もしセリアが負けたら彼の当初の要求を呑まなければならなくなるのだけれど、そこはいいのだろうか。

 おそらくはシノに勝負を挑んできたあの時と同じで、自分が負けることなど考えていないような気がする。


「はっはっは、面白れぇ嬢ちゃんだ! その勝負乗ったぜ! 負けて姉ちゃんを取られても、後悔すんなよ?」


 意外にも相手は乗り気なようで、勝ち誇ったような笑いを既に浮かべていた。そりゃあこんな見た目十代前半の少女に飲み比べを持ち掛けられて負けるなんて考えるほうが無理な話だろう。

 話は決まったといわんばかりに二人は歩を揃えると、シノが止める間も無く船内の酒場へと消えていった。


「シ、シノさん! 止めなくて大丈夫なんですか!?」


「……とりあえず、あの子が負けた時のお仕置きを考えてるとこ」


 止めるだけ無駄だろうと悟っているのか、シノは既にこの後のことを考えているようだ。自分と戦った時の二の舞だけは踏んでほしくないものだが、果たしてどうなることやら。

 それから小一時間ほど待っていたのだがイマイチ動きが見えないので、様子を見に行くために酒場兼食堂へと向かう。すると――――――――



「ま、参ったぁ……俺の負け……だ……」


「私に勝とうなんて百年早いわよ! お子様は出直してらっしゃい!」



 なんとそこには、酒場のカウンターに突伏して降参している先ほどの男性の姿と、大きなジョッキを片手に高々と勝利宣言をしているセリアの姿があったのだ。

 驚いたことに、彼女はあの成りからは考えられないほどの酒豪だったらしい。傍らには同じぐらいのサイズをした空ジョッキが十つほど置いてあるのだが、あの身体のどこに中身が収まっているのだろうか。

 ここは精霊だから、いうことで納得しておくべきか。深く考えたら負けな気がする。


「あ、不届きな輩は片しといたわよ。酒代はぜーんぶあの男にツケさせといたから」


「てっきり負けてるかと思ってたよ……ちょっと意外かも」


「失礼ね。酒に弱い精霊なんていたら、それこそ笑い者にされちゃうわよ」


「ちなみに私も、それなりには強い方ですよ」


「そうだったんだ……てっきり苦手なのかと思ってた」


 まさに今のセリアこそ、人――――――精霊は見かけによらないを体現した存在かもしれない。しばらくすると、冒険者の男性は仲間らしき数人に担がれてその場を後にしていった。


「さ、改めてそろそろご飯にしない? 飲んでばかりでお腹すいちゃった」


「あれだけ飲んでおいてその言葉が出てくるのはおかしい」


「あ、あははは……まぁ、私にとっては昔から見慣れてる光景なので……」


 セリアの謎はひとまず置いておくとして、面倒事を回避した一同は昼食をとることにした。

 その間にも周囲の冒険者や商人達から話しかけられたりこそしていたが、さすがにもうナンパはされていないようだ。和気あいあいと昼食を楽しんでいるとあっという間に時間が過ぎ、船内に汽笛の音が鳴り響く。


「あれ? もう王都に到着したんですか?」


「王都までは距離があるから、一度中継地に停泊するんだよ」


「だから船って面倒なのよねー。一直線に行っちゃえばいいのに」


 途中で乗り降りする商人や冒険者もいるだろうし、王都への物流も兼ねているので補給などもあるのだろう。

 商人であるティエラもこんな感じでしょっちゅう世界を回っているんだろうなぁとシノは考えていた。


「ご乗船の皆様。間も無くベルースに到着致します。王都へ乗り継ぎの方は、明朝の出発までには港にお戻り頂けますようお願い致します」


 船長の声が聞こえてから数分に再び汽笛が鳴り響く。

 こうして船は、王国各地から航路の中継地となっている港街ベルースに到着したのであった。

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