51:冬と冒険の始まりへ
時が経つのは早いもので、セリアがクラド村に来てから既に一ヶ月が経とうとしていた。
来た当初こそやんちゃ者扱いされていたようが、だいぶ村の雰囲気にも慣れたようで、今では皆と仲良くやっている。
件の引率依頼を一時的に引き受けていたことも手伝ってか、村の子ども達全員からは既に顔と名前を覚えられていた。リエルに引き続いて二人目のお姉ちゃんといったところだろうか。
「仕方なく引き受けてやってたけど、もうああいうのは御免だからね!」
以前はリエルが主に皆の遊び相手だったのだが、そこにセリアも加わったことで更に賑やかになったように思える。口では不満そうにしてこそいるが、なんだかんだ楽しくやっていたようだ。
それに、セリアが世話を焼いていたのは何も子ども達関連だけではなく――――――
「ほんっと……能力の使い方に関してはまだまだね、アンタ」
リエルの修行にもなんだかんだで付き合ってあげていた。やはり精霊同士で修行をしたほうが伸びがいいらしい。
相変わらずリエルの記憶陣は一日一回が限度ではあるが、以前のようにグッタリ疲れるということは少なくなったように感じた。実戦で使える日は、意外と遠くないのかもしれない。
――――――そして、冬に入って少し過ぎたこの時期。クラド村は、元の世界と比べると少し遅めな冬休みへと突入する。
だいたい一ヶ月ほど村の学校もお休みとなり、それぞれが思い思いの冬を満喫していた。
森の訪れを含む一部の店は変わらず営業しているが、それでもどこかゆったりとした雰囲気に包まれている。そんな最中、シノはとあることを計画していた。
「久しぶりに王都方面に行ってみようと思うんだけど……どうかな?」
その計画の発端は、以前にティエラとの間で話題に出た王都方面――――――精霊の祭壇と呼ばれている場所。百聞は一見に如かず。いつか調べに行かなければとは思っていたからだ。
ちょうど長い休みなのだし、出掛けるだけの時間は十分にある。
「王都グランディア……! わ、私も付いて行っていいですか?」
「もちろん! 一人で王都はちょっと寂しいし、むしろ付いてきて欲しいかな」
「それなら私も行くわよ! 王都で武勲を挙げれば、私の名だって一層轟くに違いないもの」
「相変わらず、セリアは考え方が現金過ぎる」
王都までは行き帰りだけで一週間近くかかってしまうため、冬休み期間の一ヶ月丸々使うぐらいを考えたほうがいいだろう。
一ヶ月も旅行に費やすなんて、元々の世界にいた頃はまずありえないことだった。もっと休みが欲しいものだ。この世界に来てからは当たり前のようにそれが出来ているため、環境としてはかなり恵まれていると思うけれども。
それに、ここまで遠くまで行く旅行―――――――いや、冒険なんて実に数年ぶりかもしれない。世界を回って例の設定集の真偽について確かめたり試したりしたいことだってまだありそうだし、機会としてはうってつけだ。
「それで、出発はいつ頃にしましょうか?」
「皆に前もって連絡とかしておきたいし、明日ぐらいにしようかなと思ってる」
「いちいちそんなことするだなんて、アンタも律儀なものねー」
「一ヶ月近くも突然私がいなくなったら大騒ぎになっちゃうもの。セリアだって、リエルが旅に出るって気付いた時は慌てたんじゃない?」
「そ、それはまぁそうなんだけど……というかそもそも、先輩に断りなく出ていくこいつが悪いのよ!」
「ずっと小間使いになってた私の身にもなって欲しかったんですけど……」
故郷にいた頃の二人にも先輩後輩ならではのいざこざがあったようで、旅立つ理由も残る側の心境も人それぞれということだ。
追いかけてきた先でこうして一緒に住むことになって、それなりに仲良くやれているのだから結果オーライな気はするが。
とりあえず、まず一番に旅の予定を伝える人物は決まっているため、三人は家を出ると森の訪れへと向かった。店内の雰囲気も冬休み効果というやつだろうか。いつもよりのんびりしているように感じる。
「王都方面へ遠出ですか……少しの間、寂しくなってしまいますねー……」
「もー、そんな顔しないのローザ。二度と会えなくなるわけじゃないんだから」
「アンタは色々と心配し過ぎなのよ。シノが居なくたって、周りの奴らが上手い事やってくれるでしょ」
王都行きの話を聞いたローザは案の定心配した様子を見せていたが、セリアが周囲を見渡しつつ言ってみせると、顔馴染みの冒険者達が手を上げつつ頼もし気な笑みで返す。
常駐する冒険者こそいないこの村ではあるが、入れ替わり立ち代わりで誰かは居るため、無人になる心配は無用ということだ。皆信頼と実績のある者達なので、何かあった時は任せておいて大丈夫だろう。
「それもそうですね……それなら私は、精一杯送り出そうと思います!」
「その意気ですよローザさん! シノさんは、同行者の私達がしっかり支えますので」
「旅は道連れ世は情け、か……足だけは引っ張らないようにしなさいよね」
だいぶ自信を付けたのか、リエルはちょっとだけ得意げだ。そんな彼女の様子を見たセリアは若干の溜息交じりに釘を刺しておいた。
普段の行動を見ているとセリアにこそ言えることなのだけれども、突っ込むだけ野暮というものか。
その後もしばらく話し込んでいた一同だったが、明日からの準備もあるということで少し早めに店を後にする。
長年旅慣れしているシノやこれまで各地を回っていたセリアはともかくとして、リエルはあまり慣れていないため色々と物入りだろう。特に、初めて出会った時はほぼ行き倒れだったのだし次も同じ事態にだけはなってはいけない。
「よし、じゃあ準備するものとか買いに出かけようか」
「はい! 色々と教えてくださいね」
「言っておくけど、無駄な物買ったりするんじゃないわよ」
「皆さん、明日は見送りに行かせて頂きますので!」
店を出ていくそんな三人の背中を、ローザは精一杯の笑顔で見送るのであった。
◇
旅の準備もひとまずは終わって家に帰ってきた三人。
長旅では現地で必要な物を買ったりすることが多いため、実際のところ事前の準備品などはそこまでない。
道中は普通に魔物だって出現するだろうし、荷物を抱えていては戦うこともままならないだろう。
ただ、旅用に服装を新調する必要はあるのでその辺りはしっかりと準備しておくべきだ。
「王都方面に行くのはいいとしても、何か目的はあったりするの?」
夕食と入浴を終えた後にシノの部屋に集まった一同は、明日以降のことについて話し合っていた。
セリアに関しては相変わらず武勲を挙げることを考えていそうではあるが、それはそれとして。
「近郊にある遺跡を調べに行こうと思ってね。精霊の祭壇っていう場所みたい」
「故郷にある文献で見た覚えがありますね……伝承程度なので詳しいことは私もわからないんですけど」
「まぁ、イフリート様に関係する場所じゃないのは確かね」
さすが大精霊の後釜を狙っているだけあって、自身が仕える者に関しての情報は目ざといものがある。
イフリートはともかく、シノが目指す場所にも何かしらがいる可能性はあるだろう。万が一、そこに大精霊が居て契約を結ぶことが出来たりすれば、凄いことになるかもしれない。
「まぁ、行ってみないと何もわからないんだけどねー。かなり久々の王都行きにもなるから、楽しみもしないと損だよ損」
「リエルを探しに行った時のことを思い出すわ……あまりにも広すぎるから、回るだけで二日近くかかったのよ」
「そ、そんなに王都って広いんですか……!?」
「北西の大陸の四分の一ほどが王都が管轄する敷地だからねー」
シノがこの世界に来てまだ数年の頃、初めて行った時はそれはもう驚かされたものだ。アニメや漫画で巨大な王都はありがちだが、ああいう描かれ方はあながち間違っていないと思う。
まぁ、この世界に関しては自分が考えて設定として記していたのだから影響を受けてしまったのは仕方ない気はするのだけれども。
「明日は朝から出発だから遅れると駄目だし、そろそろ寝よっか」
「確かにそうですね……お休みなさい、お二人共」
「そうね。おやすみー……ふぁぁぁ……」
シノが促すと二人は部屋を後にし、すぐに気配が二階へと遠ざかる。彼女も一度大きく伸びをした後にベッドへと寝転がると、明かりを消した。
そのまますぐに三人は眠りにつき、いよいよ出発の朝を迎えることになる。
リエルは元々旅向きの服装だったのでワリとそのまんまの恰好だが、セリアはあのビキニアーマーのような格好だけではどうかと思ったので、上から黒いコート状の服を着ている。
シノに関しても、いつも着ている服ではさすがに冒険向きとは言い難い。なので――――――
「こういう恰好するのも随分と久しぶりな気がするなぁー」
赤と白を基調とした上下セットの丈夫な造りをしたトップスとやや長めのスカートに、ちょっと短めの灰色マントを羽織っている。腰ではベルトがクロスしており、まさに冒険者っぽい恰好だ。というか実際に冒険者なのだが。
準備を終えて村の入り口へ向かうと、そこには見送りのために皆が集まっているのが見えた。村長夫妻に始まり、ローザやその両親はもちろんのこと。子ども達も朝早くから見送りにかけつけている。
昨日のローザ以上に寂しそうな表情を隠そうともしていないが、シノは優しく微笑むと順番にその頭を撫でてあげた。
それで少しは安心してくれたのか、さすが子どもの対応に慣れているだけはあるというものだ。彼女は子持ちではないけれども。
「旅の道中どうかお気を付けてくださいね、シノさん」
「帰ったらお土産話、たくさん聞かせてくださいね!」
それぞれ見送りの言葉をかけられる中、セリアの方には子ども達が集まっていた。当の彼女は相変わらずちょっとめんどくさそうな表情をしている。
「セリア姉ちゃん、たくさん活躍してきてね!」
「王都の方って強い魔物がいっぱいいるんだろ!? 姉ちゃんなら余裕だよなっ!」
見つめる子ども達の表情は期待に満ちていた。引率依頼の際に魔物を蹴散らしていた姿を何度も見ていたのだから、いつの間にか憧れの存在になっていたということだろう。
「あー、はいはい分かってるわよ! 私の栄誉を心して待ってるといいわ!」
子ども同士の言い合いのような光景を見て、シノとリエルはちょっと可笑しくなった。
この一ヶ月ちょっとの間でそれなりに丸い性格になってくれたようで安心といったところか。今の彼女ならば、大精霊になるといっても少しは納得できるかもしれない。
「それじゃあ……いってきます!!!」
そして三人は村の皆に別れを告げると、王都方面へ向かって長い冒険へと出発していくのであった。




