50:信頼は世話焼きから
セリアを村に迎え入れた翌日。騒ぎがあったため顔などは若干知られているとは思うのだが、改めて紹介しなくてはということで、シノは彼女を連れて学校へとやってきていた。
「――――――――というわけだから、皆よろしくね!」
「はーい!!!」
リエルの時と同じく、子ども達は意外なほどすんなりとセリアの存在を受け入れてくれたようだ。彼女自身も子どもっぽいところがあるので波長が合うというヤツだろうか。
皆と比べても頭一つ分ぐらいしか背が違わない体格の小ささもあるとは思うけれども。
「ああいう子供ってほんっとに警戒心の欠片もないのね……おまけにやたら五月蠅いし」
「もう、そんなこと言わないの。そこがまた可愛いんだから」
「可愛い、ねぇ……私にはそこらへんはよく分からないわ」
子ども達への紹介も済ませたところで、今日の授業を終えたシノ達は森の訪れへと足を運ぶ。依頼を確認するのはもちろんのことだが、セリアにとってはまた別の目的があるからだ。
人に負けて契約を交わすこととなった落ち度を上書きするだけの武勲がなければ故郷へ帰ることは彼女のプライドが許さないからである。
「ドラゴン退治でもして街一つ救うぐらいの物件が転がってないものかしら?」
「そういう依頼はまずこの辺りにはこないと思うけど……」
セリアはだいぶ前にシノが言っていた冗談と同じようなことを呟く。なるほど、人が言ってるのを聞くと確かに無茶な要件だとシノは心の中で納得した。
店内に入るといつも通り忙しそうなローザと、お手伝いをしているリエルの姿が目に入る。他にもこれから依頼へ出かけていくであろう冒険者達で賑わっていた。
「おはよう、ローザ!」
「おはよう。小さな村なのに忙しそうで何よりね」
「おはようございます! 冬期は特に往来も激しいですからねー……」
書類片手に二人へ挨拶を返したローザ。こういう時期に人が多くなるのは元の世界でもこの世界でも変わることはないようだ。
「リエルちゃん、こっち注文頼むよー!」
「あ、はい!」
「ここにはなんだか、働き者もいるようだしね……」
店内を行ったり来たりしているリエルを見て、セリアは肩を竦めた。さっそく何か依頼がないか探していると、あるものがシノの目に留まる。
「……ん? この引率依頼って別の人が請け負ってなかったっけ?」
「それなんですが……契約者が来られなくなったみたいで代わりの人を探している最中なんですよ」
首を傾げたシノに対して、少し困ったような顔でローザが答えた。
この村の子供たちは、ある程度の年齢まではシノが教えてはいるが、それ以上の年齢になると当然大きな学校へ通うことになる。
だが、クラド村にはその学校がないため必然的に隣街――――――――この場合はジェネスへ行かなければならず、街道を子供たちだけで行くのはもちろん危険だ。
一般人では手を焼く魔物は毎朝シノが討伐しているので問題はないが、それ以外の魔物だとしても戦う術を持たない子ども達にとっては脅威となるだろう。
それらから守る役割として定期的にこの引率依頼が発注されているのだが、それを請け負っていた人が急遽不在だとという。つまり、子ども達の護衛がいないということだ。
「私が代わりにやってもいいんだけど、他に宛てがあればそっちに頼みたいところではあるかなぁ……」
「そうですよねー……誰か代わりに引率を引き受けてくれる人が――――――」
シノとローザは同時に悩んでいたが、何かに気付いたローザが言葉を途中で切った。すぐさまその目線はシノの隣にいた彼女―――――――セリアへと向けられる。
「……セリアさん。よければ、依頼を引き受けてはもらえませんか?」
「えっ!?」
まさか名指しされるとは思わず、セリアは素っ頓狂な声をあげてしまう。それに対してシノはすぐさま何度も頷いており、概ね同意といった感じだ。
だが、当人であるセリアはやはりというべきか不服なようで、
「な、なんで私がそんな子守りみたいなことを!?」
まさにその子供のようにギャーギャーと抗議をしている。
学校で教えている小さな子達とは接点が作れるが、それ以外の子達とはそうもいかない。交友を広めるという意味での提案でもあるのだが、どうもセリアはそういったことが苦手なようだ。
「子ども達から頼られるようになれば、それだけセリアの名声も早く広まると思うけど?」
「あの子達の影響力はかなりのものですよ。たまにオーバーな時もありますけど……」
クラド村にいるセリアという精霊は頼りになるという話が広まれば、それだけ彼女の目的である武勲を挙げる近道にも繋がるだろう。実際、リエルもそうして近隣の村や街に話が広がっていったのだから。
「えー……そんなに上手く事が運ぶとは思えないんだけど……」
二人が後押ししてみるも、まだなんだか煮え切らない様子だ。セリアはそのまま一分ぐらい唸りながら店内を行ったり来たりしていたのだが、やがてこちらへ戻ってくると、
「うーん…………わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」
依頼の件にまだ渋々ながらも了承してみせた。そんな彼女の姿を見て、シノとローザは顔を見合わせて笑う。
「はい! それではしばらくの間、よろしくお願いしますね!」
「これも、将来大精霊になるための徳を積む機会かもしれないよ」
「アンタねぇ……ことある毎にそれ言えばいいと思ってるんじゃないでしょうね」
思いっきり大きなため息をつきながらぼやくセリア。が、実際そうかもしれないので仕方がない。大精霊になるというのは、人でいう出世とは訳が違うほど長い道のりだということは想像に難くないだろう。
「で、その子供らは今どこにいるのよ?」
「そろそろ出発の時間だから、村の入り口に集まってるはずだよ」
「ん、わかった。じゃあさっさと行くわよ。初回の案内ぐらいはしなさいよね」
セリアはそう言うと、我先にと店を後にする。そんな彼女を見て肩を竦めたシノは、急いでその後を追いかけていった。
「お二人共、行ってらっしゃい! お気を付けて」
新たな村の仲間が初仕事に赴くその背中を、ローザは笑顔で見送るのであった。
【TIPS~引率依頼】
十歳ぐらいまでの子どもはシノが村で教えることができるが、それ以上になると近くの街にある学校へ通うようになる。
が、道中は普通に魔物が出て危ないのでその護衛を請け負う契約が定期的に依頼として出されている。




