44:堅牢なる盾
リエルを追って遥々スピリティアから追いかけてきた精霊セリア。
更にシノに興味を持った彼女は決闘まで持ちかけてきたのだから全くもって始末が悪い。しかもシノが負ければリエルは故郷へと連れ帰られてしまう。これは絶対に負けられない勝負だ。
「御免なさい、シノさん……なんだか巻き込む形になってしまって……」
「気にしなくていいよ。勝てば全て丸く収まるんだし」
セリアが待つ村の外へ向かう途中、リエルは凄く申し訳なさそうな表情をしていたが、シノはあまり気にはしていない様子。あそこで自分が受けなかったら余計なトラブルに発展した可能性もあるのだし、村の安全を考えた上での選択だ。
急に押しかけてきた上にあの態度は頂けないが、要は勝てばいいのである。
相手の能力こそ未知数ではあるが、シノはそれを踏まえての対抗策をしっかり用意してきていた。果たしてそれが吉と出るか凶と出るかは別として。
「――――――来たわね、シノ。さぁ、さっそく始めようじゃないの!」
村から数百メートルほど離れた平野部へとやってきたシノは、待っていたたセリアと対峙する。
空は雲一つなく、辺りは風が草木を揺らす音だけが響いていた。草原に仁王立ちしながら、件の彼女はこちらをじっと見据えている。
村人達も見物にこようとしていたのだが、何かあったら危ないということでギリギリまで遠くへ避難させていた。村の入り口付近に数十人が集まってこちらを見ているのが遠目に確認できる程度である。
「改めて確認しておくけど……私が勝てば、あなたは村から諦めてスッパリと去ること。いい?」
「ええ、それでいいわよ。但しアンタが負けたら、私はリエルを連れてスピリティアへ帰らせてもらうからね」
「分かってるよ。リエルには、審判役をお願いしてもいい?」
それに対してリエルが頷いたのを見て、両者はすぐに距離を取った。どちらも自信に満ち溢れているような表情をしているが、セリアに至ってはやはりどことなく傲慢さが見え隠れしている。
まるで自分の勝ちを戦う前から確信しているかのようだ。精霊とて不死身なわけではないのだし、力量差があれば負けるには違いないのだが。
「ふふふ……私の力を知ってから後悔しても遅いわよ」
すると、風に乗ってセリアの意味深な言葉が聞こえてきた。やはり何か勝算があるのだろう。彼女も精霊なのだし、リエル同様に特別な能力を持っているに違いないのだから。
だがシノは、あえてそれを知っているであろうリエルから聞いたりはしなかった。戦う前から手の内を知っているなどフェアではないからだ。
(ほんと、馬鹿真面目だなぁ……私って)
別に聞いてしまっていても誰も文句など言わないと思うのだが、これがシノという人物の性分なのだから仕方がない。今更色々考えていても遅いので、改めて眼前に立つ相手を見据えることにした。
ずっと不敵な笑みを浮かべたまま動こうとしていないセリアだったが、
「さて、と……まずはそっちからどうぞ?」
煽るような口調と共に、先手を促してみせた。まるでゲームのラスボスか何かが言いそうなセリフである。
お言葉に甘えると言わんばかりにシノは走り出すと、思い切り地面を蹴って斜め前方へと飛び、
「――――――はぁぁぁっ!!!」
風と雷の魔力を同時に込めた飛び蹴りを思いっきりお見舞いした。並の魔物程度なら一撃で倒せる威力だ。
相手は人なのだし真正面からまともに食らうはずはなく、避けられるぐらいには思っていたのだが、
――――――ガッキイィィィィンッ!!!
明らかに人ではない何かにぶつかったような音が辺りに響く。
すぐに着地して再び距離を取ったシノがセリアの方を見ると、彼女はその場から一歩も動いてなどいないのが確認できた。ということは、セリアは今の攻撃を避けてはいなかったということになる。
唯一していた行動といえば、空に向けて手をかざしていたぐらいだ。
もしや、防御魔法を発動したのだろうか? 精霊は無詠唱で一部の魔法を使えるのだし、即発動できてもおかしくはないのだが……。
(今のは防御魔法……? にしては、なんだか感じが違う気がしたけど……)
ほんの一瞬だけではあったものの、壁のようなものが出現していたのがシノの目には映っていた。しかし、その正体が何かまではわからない。
そんなシノの様子を見たセリアは可笑しそうに笑うと、
「どうしたのかしら? 私には、掠り傷一つ付いていないけど?」
またしても煽るような言葉をぶつけてきた。それに対して少しだけイラッとしたシノは追撃の準備をする。ただ単に打撃だったから防がれただけかもしれないし、ならば魔法攻撃をぶつけてやろう。
「雷刃よ、彼の者を貫け――――――ライトニングランサー!!!」
魔法の詠唱が終わると緑色の魔法陣から出現した雷の槍が高速で飛んでゆき、立ったままの姿勢の彼女に真正面から炸裂した。
これはさすがにダメージが入っただろうと思っていたのだが、
――――――ガキイィンッ!!! バリバリッ!!!
またしても謎の何かに攻撃が阻まれてしまい、稲光だけを残して魔法が消え去ってしまった。それを見たシノは今度こそ驚きの表情を浮かべる。
打撃攻撃は効かないし、かといって魔法攻撃も防がれてしまう。だとするとあれは――――――
「あっはっはっは! 今度はこっちの番よっ!」
考えを巡らせようとしていると遂にセリアが高笑いと共に動き出し、攻撃へと移った。彼女が頭上へと手をかざした瞬間、炎の矢が大量に出現して一斉に撃ち出される。
シノはすぐに反応すると走りながらそれらを避け始め、その後には矢によって焦げた道が出来上がっていた。続けて繰り出されたのは、炎を宿した両手による連続フック。腕が振るわれる度に火の粉が舞い散り、シノはそれらもなんとか回避。華奢な見た目に反して、繰り出される攻撃の勢いはかなりのもののようだ。
更に追撃を受けてもマズいので、咄嗟にシノは風の魔法を逆噴射のように発動させると、セリアの猛攻から抜け出して大きく距離を取った。一連の流れを見たセリアは感心したような表情をしており、あれを避け切るとは大したものとでも言いたげだ。
「へぇー……中々やるじゃない。でも、それだけじゃ私には勝てないわよ?」
「さっきから私の攻撃を防いでるものは……あなたが持つ精霊の能力ね?」
「あら、バレちゃったの。まぁ仕方がないか」
含み笑いをするセリアに問うと、彼女はちょっとだけその表情を驚きへと変える。正体不明の何かでしかなかった壁を能力だと見破られたのだから、それも当然だろう。
一旦攻撃を止めたセリアは改めて無い胸を張ると、得意げに言い放ってみせた。
「そうよ! これこそ、私が持つ能力である極星の盾! 剣だろうが弓だろうが魔法だろうが、そこいらの攻撃では傷一つ付かない最強無敵の盾よ!」
説明を聞いたシノは納得する。ならばさっき出現していた壁のようなものが、まさにその盾ということか。即座に転移を行えるリエルの能力もだが、やっぱり精霊の能力というのはどこかチートじみていると思う。
「あの能力のせいで、故郷で試合を持ち掛けられた時は、いつも持久戦で負けていました……」
「ふんっ、自分の能力を活かして勝って何が悪いってのよ? 悔しかったら大精霊様ぐらい強力な攻撃でも身につけることね」
攻撃によるダメージをほぼ気にする必要がないのだから、相手に撃たせるだけ撃たせておいて疲弊したところを叩く。戦い方としては実に合理的なやり方だ。同じ能力を持っていれば誰だって同じことをすると思う。
しかし、こちらからの攻撃が殆ど通らないとなれば、この勝負は確実にジリ貧で負けることになってしまうだろう。むしろそれを狙っていたからこそ、セリアは最初から勝ち誇っていたのかもしれない。
「あらゆる攻撃を防ぐ盾、か……確かに厄介な能力かも」
「どう? いくらアンタの能力が高いとはいえあの程度の攻撃じゃあ通用しないんだし、負けを認めてみる?」
「まさか。あなたの能力が分かって、逆に安心したぐらいだよ」
考えるシノに対してセリアは降参を促すが、当然ながらそれには応じなかった。勝ってはいないが負けていないだけで、いわば引き分けの状態だ。
ここで参りましたなんて言ってしまえばその瞬間にリエルとの生活は終わってしまうし、仲の良い子ども達だって悲しむだろう。
(相手そのものに絶対的な防御力があるのなら……きっとアレでいけるはず)
そしてどうやらシノには、あのような能力を見せられても尚、勝つことの出来る算段があるらしい。でなければそもそも勝負を受けなかっただろうし、さすがに無謀というものだ。
村の外へ直行せずに家へ寄ったのはその対抗策を準備するためでもあったということだろう。
「どんな策を講じようとも無駄よ、無駄無駄ーっ!!!」
そんな中、セリアは再びの高笑いと共に魔法を発動させ容赦のない追撃を繰り出してきた。
今度は三日月型の巨大な炎の刃が頭上に出現し、シノへと狙いを定める。アレを避けたらさすがに地形に甚大な被害が出てしまうため、
「暴風集いて刃と化せ――――――エアリアルブレード!!!」
反撃の魔法を発動させ、炎の刃とぶつかりあう形で風の刃が炸裂した。単純な威力ではシノが圧倒的に勝っているのか、炎をいとも簡単に打ち飛ばした風がセリアへと襲い掛かる。
それでもやはり本人へ攻撃が届くことはなく、彼女の目の前で壁に阻まれて消滅してしまった。
今の一撃はそれなりに魔力を込めたつもりだったのだが、あれでもまだ盾を破壊するには至らないらしい。確かにセリアの自信も嘘ではなさそうだ。
だが、シノには既に勝ち筋が見えているようで、
「この勝負……私がもらったよ!」
ずっと煽るような笑いを浮かべているセリアに対して高らかに宣言をする。
圧倒的な防御を誇る能力。極星の盾を打ち破る彼女の秘策が、今こそ明かされようとしているのであった。
【TIPS~セリア(その2)】
彼女が持つ精霊の能力は極星の盾。相手の攻撃行動に対して透明な壁が出現し、絶対的な防御力を誇る。
使い方によっては、攻撃に転用することもできるようだ。




