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27:秘められた力

 討伐依頼がてらにリエルの実力を見るため、山岳地帯へやってきた二人。

 それなりに高い場所まで登ってきたので、遠くにクラド村が小さく見えている。魔物さえ出なければ良いハイキングコースになりそうなのに、そこだけが実に残念だ。


「自分の村を遠くから見る機会なんてあまりなかったけど……やっぱり小さな村だなぁ」


「その村に百年も住んで守っているのですから、誇らしいことだと思いますよ」


「確かにそうかも。つい最近も、それで祝われたばかりだし」


 ほんの二日前のことだが、百年祭のことを思い出してシノは少し可笑しくなる。

 今この瞬間も彼女は、村を守るために奮闘している冒険者ということだ。王都近郊でもなければ危ないことはそうそう起こらないので、相変わらずのんびりめではあるけれど。

 そんな他愛のない会話を交わしながら、二人は魔物の出没地点を目指す。


「……何か唸り声のようなものが聞こえますね」


 しばらく山肌に覆われた道を進んでいると、不意にリエルが立ち止まった。大きな岩がところどころにあるだけで、他は見通しの良い場所だ。

 魔物の姿こそ見えないが、声が聞こえたということはそろそろといったところか。


「声はするのに姿が見えないってことは――――――」


 念のため上を見たシノだが、そこに魔物の姿はない。上空から突然襲ってくるなんてことはなさそうである。ならばと思って大きな岩へ近寄り、そこから向こう側の様子を窺ってみたところ、



「――――――いた。ワイバーンの群れだよ。数は五匹」


「思ったより早く遭遇できましたね……」



 人の背丈ほどの大きさをした竜型の魔物、ワイバーンが地に降りて羽を休めている姿があった。赤だったり緑だったりその色は様々。幸いなことにまだ二人の存在には気付いていない。

 先に気付かれると飛ばれてしまって厄介なので、魔法で先制攻撃を決めることにした。


「よし。じゃあ始めようか、リエル!」


「分かりました。見ててくださいね!」


 すぐさまシノは魔法の詠唱を始めると、ワイバーンの集団に狙いをつける。

 そのままリエルも同じようにするかと思われたが、同じく魔法を使うであろう彼女は何故か詠唱の素振りを見せない。

 まさかの近接戦闘をしかけるつもりなのだろうか? などと思っていると――――――――



「――――――イラプションエッジ!」



 なんと詠唱なしで、いきなり魔法を放ってみせたのだ。これにはさすがのシノも驚きかけたが、同時にあることを思い出す。

 それは、ある程度の魔法なら詠唱することなく発動できる力が精霊には備わっているということだ。魔力の申し子ともいえる精霊ならではの特殊な技能といったところか。

 自宅で見せてくれた家事スキルもさることながら、彼女はかなり出来る子のようだ。


「グアァァァァッ!!!」


 紅い魔法陣から撃ち出された炎の刃がワイバーンへ襲い掛かると、いとも簡単に大きな身体を切り裂いて焼き尽くした。

 詠唱なしもさることながら、かなりの威力を持った魔法のようだ。だが全ては倒しきれなかったようで、生き残った二匹ほどは即座に反応してその場から離れて飛び立ち、こちらに敵意を向け始める。

 だが、今更飛び立ったところで既に遅い。続けてシノの魔法が飛んでいる二匹に炸裂する。



「暴風纏いし紫電の剣よ――――――サンダーブレイド!」



 ワイバーンの頭上に紫の魔法陣が出現し、風を纏った雷の剣が降り注いだ。空から叩き落された二匹は雷の剣によって地面へと縫い付けられ、続けて巻き起こった電撃によってその姿を消滅させる。

 構えの姿勢から直った彼女は、とりあえず一息ついた。


「よし、まずはこんなもんかな。さすが精霊だね、リエル!」


「……は、はい! このぐらい当然ですっ」


「ん、どうかした?」


「あ……いえ、何でもありません……」


 リエルの実力をシノが称えてみせたが、その反応にちょっとだけ違和感を覚える。

 もしかして、思ったより力を発揮できていなかったとかだろうか? 無詠唱という時点でポテンシャルはかなりのものだと思うし、いきなりアレ以上を求めるのは酷というものだろう。

 疑問は残るものの、まだ討伐は完全に終わっていないので、二人は更に山道を進んでいく。


「精霊の魔法は初めて見たけれど、私達のとは毛色が違ってるよね」


「人間やエルフが使っている魔法は、ここから独自の派生を遂げたものですからね。それこそ魔力の流れだったり、魔法陣に関しても様々な違いがあるので」


「私もいずれ、精霊の魔法を盗んで覚えてやるぞー」


「ふふふ、シノさんならきっといつか出来ますよ。頑張ってくださいね!」


 リエルの修行に付き合ってあげてるつもりが、こっちが修行を付けられてるみたいな構図になってしまった。まぁ、お互い高め合ったほうが進みだって早いのだしこれはこれで良いと思う。

 その後も群れているワイバーンを見つけては討伐を繰り返してゆき、その数は二十匹ほどになった。これだけ討伐してしまえば、一週間は余裕で暮らせるぐらいの報酬額になることだろう。

 もっとも、今回は報酬というより修行目的なのでそこまで金額は重要視していないのだけれど。



「――――――ライトニング!!!」



 最後の一匹と思われるワイバーンには二人同時に魔法を撃ち込んでの討伐。まだ一日目ではあるが、なんだかんだでかなり息は合っているようだ。

 周囲を確認してみるも目立った魔物の気配はない模様。これで、この地域に増えすぎていたワイバーン種は粗方討伐できたと見ていいだろう。


「とりあえず依頼完了ってところかな。お疲れ様!」


「はい! お疲れ様でした、シノさん」


 空を見るとまだ陽もそれなりに高いし、急いで帰ればおやつにだって間に合いそうかも。

 既にそっちに思考が向きかけていたシノだったが、その傍らでリエルは何やら考え込んでいた。先ほどの違和感のある反応もそうだが、やはり何か気になることがあるのだろうか?

 シノが首を傾げていることに気づいた彼女は確認するかのように訊ねる。



「そういえばシノさんはペリアエルフ……なんですよね?」


「うん、そうだよ。恥ずかしい話、あまり自覚してはないんだけどねー」

 


 そういえば昨日、森の訪れで話していた時にもリエルは驚いているというよりかは意外であるという感じの様子だったのを思い出した。さすがにペリアエルフを見慣れているなんてことはないとは思うけれども。


「とてつもない存在というイメージがあったので、逆の意味で呆気に取られてしまったというかなんというか……」


「あー……まぁ確かにそうだよね。数百年に一度の種族なんて言われたらそう思っちゃうもの」


「ご、ごめんなさい! 別に他意があるわけではなくてですね……」


「あははは、どうしてあなたが謝ってるの。私は何も気にしてないよ?」


 どうやらリエルの話を聞いていると、シノにはまだ隠れている力が相当あるらしい。それこそリエルが抱いていた当初のイメージ通り、力を極めさえすればエルフとして規格外の領域に至ることだってあるようだ。

 シノ自身は今まで意識したことがなかったが、ペリアエルフというのはそれほどまでに凄い存在だったのだろう。


「だからさっき、私がリエルの魔法を見て驚いた時に変な反応をしてたんだね」


「シノさんにとっては普通レベルのことだと思ってたので……」


「比較対象が周りにいないから、強い力を見慣れてないってのもあるのかも」


 王都に住んでいて日夜強敵との戦いや冒険に明け暮れていたのなら話は別だが、この辺りの地方は比較的平和だし、強い力を思い切り使う機会も殆どない。

 必要以上に力を磨く意味がないため、普通よりちょい上ぐらいのレベルで留まっているのだろう。


「リエルの実力を知るために付いてきたけど、私の実力も知れて一石二鳥だったね!」


「ま、まぁ結果的には良かったということでいいんでしょうか……?」


 満足そうに頷いたシノは、ちょっと苦笑気味のリエルと顔を見合わせて笑う。同時に、いつぞやの討伐依頼の時に顔なじみの一人が言っていたことを思い出した。



 ――――――強い力も、使わなければ鈍ってしまう。



 ならば今こそ使い時。いや、使い始め時といったところか。

 今でもシノは十分強いのだが、極めると一体どのぐらいになるのだろうか。強者のオーラみたいなのが溢れすぎて、周りが引くレベルにならないといいのだけれど。


「それじゃあ、村に帰ろっか。ローザのおやつが待ってるよ!」


 何故おやつがある前提なのかということはさておいて。

 シノの言葉に笑いながらも頷いたリエルは彼女の後をついて歩き出し、クラド村へと帰り始めたのであった。

【TIPS~ペリアエルフの力】

特異な存在であるペリアエルフは、普通のエルフよりも潜在的な力が高い。

生まれ持って強力な力がある場合と段階を踏んで力が発揮される場合があり、シノは後者にあたる。

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