表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/31

28 王子の騎士たち(フロリアン)

 友人の工夫パウロにすべて打ち明けてしまったことで頭の中を整理でき、自分のやるべきことが見えた気がした。


 俺がオリビアの話に乗ると、オリビアは嬉々として上手くいくはずもない計画を立てはじめた。


 オリビアから協力者を集めろと言われたところで他に当てもなく、俺はやはりパウロを頼った。

 パウロはたちまち数十人の仲間を集めてきた。


「まさか王子様だったとはな」


「只者じゃないとは思ってたが」


「それで、俺たちを王宮見物に招待してくれるんだろ?」


 パウロもそうだったが俺の正体を知っても態度が変わらないのは有難いが、不安もあった。


「おまえら、ちゃんとわかってるのか? 俺がやろうとしてるのは失敗を前提とした謀叛だぞ」


「そこは、正直よくわからん。どうせならリアンが王様になればいいのに」


「俺たちに貴族様の崇高な考えなど理解できるはずないさ」


「貴族ではなく王族なんだと」


「どっちでも俺たちには大差ない」


 工夫たちはいつものように声をあげて笑った。俺もつられて笑いそうになり、慌てて表情を引き締めた。


「とにかく、危なそうだと思ったらさっさと逃げてくれて構わない」


「そんな危ないことなら、俺たちがリアンを守ってやらんと」


「差し詰め、俺たち工夫はリアン王子の騎士ってとこだな」


「それいいな。俺、実は子どもの頃、騎士になりたかったんだよ」


「俺も騎士団の制服に憧れた」


 平民でも騎士団に入ることはできるが、貴族の子弟がほとんどを占めるのが現状だ。


 だが確かに、それなりの格好をしていたほうが王宮に入りやすいかもしれない。


「わかった。用意させる」


「本当か? やったな」


 騎士たちは縄張り意識が強い。余所者に騎士の制服で王宮を闊歩されたら何を思うのやら。


 オリビアに会わせた後、パウロが苦笑しながら言った。


「確かに平民ではお目にかかれない美人だが、想像以上に性格ひん曲がってる感じだな。おまえ、よく相手してられるな」


「あんなお高くとまってるせいで、こんな時に味方に引き入れられる友人もいないんだ。可哀想なやつだろ」


「ああ、おまえも歪んでたっけ」


 オリビアには騎士団の制服を、テニエス侯爵には工夫たちへの報酬を用意させた。




 その日も師匠の家兼事務所から王宮に帰る途中で、オリビアが待ち構えていた。


「フロリアン様、明日、始めますわ」


「早すぎるんじゃないか?」


 準備はまだまだ不完全のはずだ。


「陛下が事故に遭われたそうです。万が一のことがあっては手遅れになりますから……」


「どうしてそれを先に言わないんだ。万が一って、父上は今どんな状態なんだ?」


 思わず声を荒げたが、オリビアは煩そうに顔を顰めただけだった。他人の気持ちにとことん疎い。


「怪我をなさったらしいとしか聞いていません。その情報も王宮の一部の方にしか知らされていないようですし。そういうことですから、良いですわね?」


 何が良いんだ。そう怒鳴りたいのを堪えた。


 王宮の外に出るようになってから、父上とは時々しか顔を合わせていなかった。そろそろ父上から離れるつもりだったが、突然失うのは違う。

 いや、あの父上がこんな形で死ぬはずがない。きっと無事に帰ってくる。俺を罰するために。


 どうにか心を静めると、オリビアに了承を伝えた。




 工夫たちはちょうど現場仕事のない時期だったので、すぐに集まってくれた。

 だが、実際に騎士の格好をさせた工夫たちは本物とあまりに違い、笑うしかなかった。


「そんなに変か?」


「仕方ないさ。おまえたちは工夫なんだ」


 俺は一つ息を吐き、表情を改めた。


「前にも言ったが、危ない時は逃げてくれ。怪我なんかするなよ。その剣は張りぼてだからな」


「本物に見えるぞ?」


「本物だが、おまえたちには扱えないだろ。騎士団とやり合う事態になったら、さっさと降参しろ。制服の下に鎖帷子をつけるのを絶対に忘れるなよ」


 もしもの時は、オリビアだけを道連れにして俺が責任を取ればいい。




 俺が王太子になると宣言しても認められなかったが、とりあえず俺が陛下の代理になることは宰相が受け入れた。あまりに呆気なかった。

 一方、絶対に何か言ってくると思っていたレオンハルトは俺の前に現れなかった。王宮にもいないらしい。

 そもそも、少し前に本物の騎士団を味方にできていたことで、訝しく思っていた。


 オリビアの計画などとうに漏れ、俺たちは逆に向こうが張った罠にかかったようだ。

 だが、そもそも成功する必要はないのだから、やることは同じだった。


 翌日には、俺はいつもどおりに師匠のもとに行った。

 事を起こすことになって急遽、半日だけ休みを貰うので精一杯だったのだ。もちろん、師匠に理由は言えなかった。




 結局のところ、俺もわかっていなかった。もう何年も色々なことに背を向けていたのだから当然だった。


 コルネリアはとっくにクレメンスの身代わりなどではなく、彼女自身が王太子になっていた。

 母上を亡くした俺が懸命に自分の居場所を得たように、コルネリアは弟を失ってから自分で自分の居場所を手に入れたのだ。いつまでも可哀想な妹のままではなかった。


 コルネリアの側には当たり前の顔でレオンハルトが立っていた。クレメンスの見立ては間違いなかったようだ。

 コルネリアも王位継承者として完璧ではないが、それに近づく努力をしていくはずだ。

 俺という共通の敵が消えてからマティアス派がどう動くかはわからないが、そこまでは俺の出る幕でないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ