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20 思惑との相違(オリビア)

 私はフロリアン様を王太子にするための計画を練りはじめたが、フロリアン様は私の話を聞いて頷くばかりだった。

 従順なのは良いが、骨がなさすぎる。


 そのくせ、彼は唇に飽き足らず体まで求めてきて、私はそれを「まだ駄目です」とやんわり跳ね除ける日々だった。私を庶民の女と一緒にしないでいただきたいわ。

 フロリアン様がそういうことに慣れている感じなのが、また腹立たしい。


 協力者を集めるようフロリアン様をせっつけば、引き合わされたのは私が一生関わるはずのなかったむさ苦しい男たちだった。

 フロリアン様が「あいつらに騎士の格好でもさせればそれなりに見えるだろ」と言うので、騎士団の制服を用意することにした。


 フロリアン様が一つだけ意見らしいことを述べたのは、王太子の座から引きずり下ろした後のコルネリアの処遇だった。

 幽閉して時期を見て殺せばいいと私は考えていた。ところが、フロリアン様は王女として結婚させるなどと言ったのだ。


「コルネリア殿下は皆を騙し、あなたを日陰の身に追いやっていた罪人ですよ」


「俺のことに関してはコルネリアが悪いわけではない。あれもあれで可哀想な妹だ」


 確かに、よりによってフロリアン様に哀れまれるなんて同情するわ。


「本当にフロリアン様はお優しいのですね」


 あまり強硬に反対することもできずそう言うと、同意と受け取られたらしい。

 だが、フロリアン様の次の言葉に私は耳を疑った。


「コルネリアの婚約者だったレオンハルトはまだ独り身だったな。あいつでいいだろう」


 それだけは絶対にありえない。コルネリアとレオンハルトは何が何でも引き離さなければ。


「国内に留まったのでは皆に好奇の視線を向けられて、コルネリア殿下も落ち着かないでしょう。国外にお相手を探したほうがよろしいのではございませんか?」


 フロリアン様は納得したようだ。


「それならば、正妃様の生国あたりか」


 私は心の中でほくそ笑んだ。隣国で最も評判の悪い男を宛てがおう。


 おおよその計画を立ててから、お父様に打ち明けた。喜んで協力してくださると思ったのに、考え直せと言われた。

 それでも私がクレメンス殿下は本当はコルネリアで、このままでは私は名ばかりの妃にしかなれず、お父様の血を引くお世嗣は決して生まれないのだと説得すると、渋々ではあるが頷いてくれた。


 そうしてさらに協力者を増やそうとしていた時、視察に出掛けた陛下が事故に遭うという突発的な事態が起こった。


 万が一、コルネリアが即位してしまったら計画が狂いかねない。

 私はすぐに動くことに決めた。


 直前に本物の騎士団を味方にできていたことは、僥倖に違いなかった。




 予定通り、コルネリアを捕らえて彼女自身の部屋に放り込んだ。

 同時に、フロリアン様が王宮を押さえた。


 その夜、やはりフロリアン様に捕らわれていることになっている私は彼の部屋で過ごしたが、もちろん彼にはソファで寝てもらった。

 翌朝、いつもより遅い時間に私が目を覚ますと、すでにフロリアン様の姿はなかった。


 私はコルネリアの様子を見に行った。

 私自ら選んであげたドレスはみっともなくて、コルネリアにはお似合いだった。その姿はまるで6年前の地味で冴えないコルネリアに戻ったようで、私は笑い出しそうになるのを誤魔化すために俯いた。

 やはりコルネリアに煌びやかな王太子の地位など相応しくなかったのだ。


 私がフロリアン様と婚約したことを告げると、想像どおり、コルネリアは苦しそうな表情で私に謝ってきた。

 やはり愚かだ。私はようやくコルネリアのお守りから解放されてすっきりしたというのに。


 最後に「裏切り者はレオンハルト様だ」と教えてあげると、コルネリアの顔はさらに歪んだ。


 コルネリアの部屋を出てからフロリアン様を探したが、どうやら王宮にはいないようだった。せっかく王太子にしてやったのに、いったい何をしているのか。

 とはいえ、もともとあのフロリアン様に王太子らしい真似ができるとは期待していなかった。宰相様やお父様たちで何とかすればいいのだ。




 しかし翌日、事態はおかしな方向へと転がった。


 勝手に部屋を出たコルネリアが、王太子の執務室にいるという。

 コルネリアはレオンハルトに裏切られ、私をフロリアン様に奪われて意気消沈していなければならないのに。


 やはりフロリアン様は見つからず、私が執務室に行かねばならなかった。

 執務室の前にはコルネリアの部屋の前にいるはずの騎士たちが立っていた。


「フロリアン殿下の許可なくコルネリア殿下を部屋から出すなんて、あなたたちは何をしていたの?」


 私が問い質すと、そのうちのひとりがしれっと答えた。


「フロリアン殿下に指示を求めようにもお姿が見えず、昼間の居室を変えるくらいは構わないかと判断いたしました」


 執務室の中には、コルネリアのほかにレオンハルトを含めた王太子の側近が皆揃い、マティアス殿下の姿まであった。


 コルネリアは昨日とは異なるドレスを着ていた。

 ちょっと綺麗な格好をして、周囲に男たちを侍らせて、調子に乗ったコルネリアは私に向かって説教めいたことを言った。

 私がコルネリアにこれから彼女が辿る国外追放という未来を思い出させてやると、さらに偉そうなことまで口にした。


 おまけに、レオンハルトが「コルネリアの婚約者は自分だ」と言い出した。私を威嚇する姿はまるで番犬。

 コルネリアを信用させようと必死すぎて情けないわ。


 とにかく、コルネリアにははっきりと己の立場を理解させなくてはならない。

 いや、6年間も死んでいた王女など、今度こそ本当に消してやるべきか……。

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