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13 彼女から離れて(レオンハルト)

 コルネリアがオリビア嬢とともに庭園に向かってからしばらく。おそらく始まるだろうと踏んで、私も他の者たちに断って執務室を出た。

 行き先は騎士団の詰所だ。


 案の定、騎士団はバタバタしていた。


「レオンハルト様、いよいよですね」


 どこか楽しそうに声をかけてきたのは、私の剣術の師とも言える副団長だ。年齢を聞いたことはないが、私より一回りは上だろう。


「フロリアン殿下はもういますか?」


「団長と応接室に」


 私は頷きつつ更衣室に入り、そこに用意してあった騎士団の制服に手早く着替えた。


「やはり似合いますね。あなたならいつでも入団を歓迎いたしますよ」


 副団長が目を細めて笑った。


 フロリアン殿下は彼らが歓迎できない者たちに、勝手に騎士団の制服を纏わせた。

 そんなことをしたら自負心の強い騎士たちがどう思うのか、フロリアン殿下は想像力に欠けるらしい。


「もう少しだけ辛抱してください」


「わかっております」


 ふいに足音が近づいてきて、大きな音を立てて扉が開いた。


「王太子殿下が捕らわれました」


 そう叫びながら飛び込んできたのは、コルネリアの護衛を務めていた若い騎士だった。


 ほぼ同時に、詰所にいたほとんどの騎士たちが外へと出て行く物音も届いた。フロリアン殿下が動き出したのだ。


 私はそれは気にせず言った。


「詳しい状況を話してくれ」


 彼の語った内容はほぼ予想どおりだったが、コルネリアが殴られたと聞き、彼女の信頼を無惨に裏切ったオリビア嬢に殺意が湧いた。


「あの女……」


「申し訳ありません」


 若い騎士が怯えるように言った。

 命を奪われることはないので王太子殿下に何か起きても手を出すなと命じていたのだから、彼らの失態ではない。


「いや、ご苦労だった。あとは団長に従え」


「はい。失礼いたします」


 若い騎士は一礼して駆け去った。


「あなたの大切な王太子殿下は我々が必ずお守りするゆえ、早く行かれよ」


 胸を張って請け負う副団長に、私は深く頭を下げた。


「どうかよろしくお願いいたします」


 頭を上げてから副団長の顔を一瞬だけ見据え、私も詰所を後にした。騎士たちとは逆の方向へ。


 騎士団の厩に行けば我が家の馬が2頭繫がれており、その近くでヨハネスが待ち構えていた。


 私は王家直轄領まで単騎で身軽に行くつもりだったのだが、ヨハネスが供をすると強引に決められた。

 この幼馴染でもある2つ歳上の侍従は、私に対して遠慮がなくてとにかく口喧しい。だからこそ、父はヨハネスを連れて行けと言うのだろうが。


 ともかく馬に鞍をつけ、私はヨハネスとともに王宮を発った。




 気は急くものの、馬に休憩を取らせぬわけにはいかず、そのたび私は溜息を吐きながら馬を降りた。


「王太子殿下のために準備は整えてこられたのでしょう。ここで少しくらい先を急いだところで大して変わりませんよ」


「わかっている」


 それでも、王宮に残してきたコルネリアを想うと苛立った。


 結局のところ、コルネリアの運命を握っているのは国王陛下だ。陛下にコルネリアを正統な王太子と認めさせられるかどうか。

 宰相である父がこの非常時に王宮を離れることはできない。下手な人物に任せる気にもならず、必然的に陛下のもとに赴くのは私の役割になった。


 コルネリアにはまだ何も伝えていない。

 彼女が知れば事が起こる前に止めようとするだろうし、自らコルネリアだと告白して王太子の座をマティアス殿下に譲ってしまう可能性もある。それでは駄目なのだ。

 これを機に、オリビア嬢のような者たちをきっちり排除して、コルネリアとして王太子に立つ覚悟を決めてもらわねばならない。




 王領にある離宮に到着したのは日が変わってからだった。


 当然門の中には入れないので、門番に明朝の陛下との面会を頼み、近くの川岸で野宿をすることにした。

 コルネリアはひとり地下牢にいるかもしれないと思えば、野宿など一向に構わなかった。

 オリビア嬢ならそのくらい平気でやりかねないし、コルネリアは黙ってそれを受け入れるに決まっている。


 ヨハネスが用意した簡素な食事を済ませて早々に横になったが、眠気はまったく感じなかった。

 陛下との間で交わすことになるであろう会話を予想していると、さらに目が冴えてしまった。


 少しくらい寝ようと目を閉じると、自然とコルネリアの顔が思い浮かんだ。

 私はそのままつらつらとコルネリアのことを考え続けた。6年前の、この6年間の、そしてこれからの彼女を。

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