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プロローグ
その森には、白い狐がいた。
森の中の闇によく映える、白銀の狐。
辺りを見据える深緑の瞳は氷のようだ。
「こんばんは。こんなところでお散歩ですか?」
狐の瞳はどこまでも深く、俺を捉えている。
そんな彼に俺は答えた。
「獣を狩りに来たんだ。一匹の白銀の狐なんだけど、何か知らないかな?」
皮肉めいた笑みを浮かべる俺に、狐は楽しそうに微笑み答える。
「…教えてあげてもいいですけど、そのかわり、僕の暇潰しに付き合ってくださいませんか?」
狐は自身の腰に差した緋い刀に手をかけた。
柄も鞘も血のように深い緋い刀は、彼の妖艶さを引き立てている。
それは新月の晩の出来事だった。