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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なりすまし

作者: セレソン28

 午前中の得意先回りが予定より早めに終わったため、佐々木はいつもの公園で時間をつぶすことにした。大時計の前のベンチが運よくあいていたので、そこに座る。昼のミーティングには戻らないといけないから、一目で時間がわかってちょうどいいのである。

 うーんと背伸びをしながら見上げると、澄み渡った青空を大型ロケットが次々飛んで行くのが見えた。佐々木もカネさえあったら、一度は宇宙旅行に行きたいものだと思ったが、夢のまた夢だ。

 そのまま深呼吸をし、ぼんやり大時計を眺めていたのだが、突然、佐々木は目の前が真っ暗になるのを感じた。日射病という言葉が脳裏のうりに浮かんだが、すぐに意識が遠のいた。


 …………。


 だが、意識を失ったのはほんの一瞬だったらしい。すぐに視野は普通に戻り、体調にも特に変わったところはないようである。おかしな言い方だが、座ったままで立ちくらみしたのだろう。

(これは早めに会社に戻った方がいいかもしれないな)

 そう思って、ふと大時計を見て佐々木は驚いた。すでにミーティングの時間になっているではないか。気を失ったというより、実際にはぐっすり眠っていたようだ。

 佐々木はあわてて会社に戻ったが、社員通用口から入ったところで、いきなりガードマンに止められてしまった。

「身分証を提示してください」

 見るといつもの係員ではなく、初めて見る顔だ。新人らしい。

「ああ、ご苦労様。おれは営業二課の佐々木だ。これからよろしく頼むよ」

 だが、そのガードマンは融通ゆうずうかないタイプのようだ。

「身分証を提示してください」

 面倒だが、しかたない。佐々木はポケットから身分証を出そうとして、ハッとした。身分証どころか、財布も手帳もケータイも何もないのだ。

「あれっ、おかしいなあ」

 おそらく公園で眠った時に盗られたのだろうが、正直にそう言えば、サボったことがバレてしまう。

「ええと、ちょっと、どこかに忘れてきたらしい。急ぐので通してもらえないかな」

 新人ガードマンの顔がますます厳しくなってきた。

「身分証の提示がなければ、お通しできません。それに、記録では、営業二課の佐々木さんはすでに帰社されています。あなたは何者ですか?」

「ええっ、そんなはずはない。それは何かの間違いだ。お願いだから、入れてくれよ」

「あまりしつこいようだと、警察に通報しますよ。帰ってください」

 佐々木はガードマンの剣幕けんまくに押し切られ、通用口から表通りまで出てしまった。

(どうしよう)

 ケータイも小銭もないから、誰かに助けを求めることもできない。

(そうか。やましいことは何もないのだから、いっそ警察を呼んでもらえばよかったな)

 どちらにせよ、財布などを取り戻さなければいけないので、交番に行くことにした。歩いて行ける距離のところにあったはずである。

 交番に行くと、若い警官が一人座っていた。中に入るなり、佐々木はあせって今までの状況をまくし立てたが、途中で警官にさえぎられた。

「記録を取らないといけませんので、ちょっと待ってもらえませんか。奥から調書ちょうしょを持ってきますから、その間お茶でも飲んでいてください」

「すみません」

 ちょうどしゃべり過ぎてのどかわいたので、佐々木は警官が出してくれたぬるいお茶を飲んだ。

 待っている間、何気なく壁を見ていると、緊急手配のポスターが目に入った。


【星間手配犯情報:ドッペル星人。巧みな変身と記憶コピー能力で地球人になりすますおそれあり】


(あ、こいつだ、間違いない。こいつがおれになりすまして会社にいるんだ)

 戻って来た警官にそれを告げようとした時、警官が拳銃を佐々木に向けた。

「抵抗すれば、容赦ようしゃなくつ」

「ちょ、ちょっと、待ってくれ。どういうことだ」

「おまえの言った会社に問合せた。営業二課の佐々木という男は、今、仲間とランチを食ってるそうだ」

「違う違う。そいつはドッペル星人だ。おれになりすましているんだよ」

 だが、警官はニヤニヤと笑っている。

(しまった。おそらく、この警官もドッペル星人なのだ。どうしよう。とにかく、この場は言うことを聞いて、スキをみて逃げるしかない)

 佐々木は両手を挙げた。

「頼む。殺さないでくれ」

「抵抗しなければ、殺したりしないさ。強制送還そうかんはされるがな。おまえはまだ気付いていないようだが、さっき飲ませたお茶には、変身阻害そがい剤を入れてあったのさ。もちろん、人間には無害なものだがね。それにしても、記憶のコピーが完全すぎたようだな。まだわからないのか。これで自分の姿を見るがいい」

 警官が差し出した手鏡には、人間とは似ても似つかない生物が映っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い意味で予想を裏切るラストがいいなと思いました。 現実でこんなことがあったら怖いですね。
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