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ニアイコール・タイム  作者: 子無狐
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02 - 二回目 / 夢を裏切ることはできるのか

 ――そして、なぜだ。

 目覚めた瞬間に、驚愕する。その視界が見せる景色に。

「……うそ、だろ?」

 事故現場でも、病院でも、地獄でもなく、ただ自分の部屋の光景が広がっている。

 白い天井を眺めながら、僕は呆然と呟く。

「あなたは、もう、死ぬことはないわ」

「ぁ……っ!?」

 声のした方へ、ゆっくりと視線を向ける。

 そこには、朝食の準備をしているはずの、姉と同じ女性の姿があった。

「インプットしたデータから再生される、ちょっとだけ違う、あの日のあなた」

 時間は、まだ早い。着ていた寝間着も、着替えていない。部屋の扉も開けていない。階下にも、降りていない。――なのに、姉はそこにいる。あの朝には、まだ、会っていないはずなのに。

 なら、これは別の日なのか。あの白い光のおかげで、違う日に来れたのか。

「だって、それは仕方ない。同じだけなら、VRデータやビデオファイルの再生だけで済むのだから」

 ――しかし、僕は、気づいていた。これが、あの日と同じ朝の始まりだと。

「わたしは、夢を見たいの。あの日のあなたの、でもあなたがしなかった、なのにあなたでしかない選択の日々を」

 それはもう、別の日なのだと、叫びたかった。だが、記憶が、感触が、奇妙に心にまとわりつく。

 ――似て非なる、同じ時間の繰り返し。何度目かわからない、姉の、重ならない言葉。

「だから、永遠にこの揺りかごの中で、わたしと一緒に過ごしましょう?」

 いつの間にか、ベッドに近寄って来ていた姉。

 差し伸べられた手が、そっと、僕の頬へと添えられる。

 昨日と同じ、薄気味の悪い手。同じように、背筋にはいよる、言いようのない寒気。

 暖かく、艶があり、大切なものに触れるような繊細さなのに。

 ――子供の頃、憧れだった、美しい姉の姿のはずなのに。

(でもそれが、拘束の糸、だって気づいて)

 それが今も、続いていて。逃れられないと、知った僕は。

 ぱしっ、と、その手を払いのけ。

「……えっ?」

 布団を足で蹴り上げ。

「――僕は、いやだ」

 拒否する言葉と視線を、呆けた顔をする姉に向けて、叩きつけた。

 だから。このまま、こんな似て非なる一方的な愛情の檻が、続くというのなら。

(終わりに、する)

 眼を見開く姉を、横目に見ながら駆け抜けて。


 ――窓枠のガラスを、その全身で突き破った。


 全身に走る、切り傷の痛み。肉が叫ぶ熱さ。

 あの白い閃光と似ながら、違う痛みが身体へ走った後に。

「……っ!」

 脳と視界を粉々にするほどの衝撃が、瞬く間に全身へとかけめぐる。

 白いアスファルトが、紅く染まる。断片的な情報として、それが、入ってくるけれど。

 それ以上に、破り捨てられた紙のようにちぎれる視界が、全てを曖昧にしていく。

(でも、これで)

 駆けめぐる痛みと、解放された安心感。

 考える意識を、それらに奪われながら。


 ――この悪夢が終わることに、安堵していた。

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