1/6
00 - 零 / 夢に迷い込んだのはいつなのか
――手に入らないのなら。
離れるのなら、いっそ、壊れてしまえば。
そう、考えた時も、あったけれど。
「ご臨終です」
対面した、冷たい躯。棺に横たわる、なんとか姿を保った、愛しい姿。
――これは、夢。出来の悪い、イヤに粘つく、よくできた悪い夢なんだわ。
なのに、途切れることがない。覚めろ、醒めろ、冷めろ。何度も念じるのに、身体の重さが途切れることはない。
夢なのに。頬をつねっても痛い、死者の冷たさを感じる、薄気味の悪い夢なのに。
覚めないのは、あまりにもリアリティがありすぎるからか。
この時ばかり帰ってきた父と母、悲しみに参列する知人達、そして……躯となった彼に寄り添う、涙を見せる女。
――全てが、悪い、夢ならば。
喪服には似合わない高揚感に、わたしは、薄く微笑む。
「……おはよう、って、言えばいいのよね」
わたしが、そう呼びかければ。
――もう一度、応えてくれる。
あの日と同じ、違う時間の中で。