未来の異世界から飛ばされて来た、最強な2人 ~しかたがないからのんびり暮らそう~
ここは遠い未来の異世界。とある大陸。
気候の変動は凄まじく、朝は氷点下50度の氷の世界、日が昇ると昼は60度の灼熱の熱さ、夕方には強酸性の雨が降り、夜は秒速60mの強風が吹く、そしてまた凍り付いた朝を迎える。
その異世界にも耐えられ、生きている魔物がいる。その過酷な世界でも、それでも弱肉強食はある。
体長20mの竜のような魔物、体長30mの蛇のような魔物、
体長15mの巨人のような魔物、体長20mの双頭の狼のような魔物
体長40mの鰐のような魔物、体長20mの蟻のような魔物
他にも、亀のような魔物や鼠のような魔物もいる。
荒れた気候の中を生き抜くために、どの魔物も巨大だった。
そして今、生き残るために灼熱の中で、竜と巨人と鰐が三つ巴の戦いをしている。
均衡は崩れ、鰐が押され始めると竜と巨人は鰐に集中して攻撃する。鰐が倒されると戦いは終わり、倒された鰐の半分は竜が引き千切り、もう半分は巨人が住処に持って帰る。そしてまた別の場所で新たな争いが起きようとしている所を、その真ん中を男が一人、二輪駆動の乗り物で通り過ぎる。
魔物に比べたら、とても小さい身長180センチ程の男が。
すると魔物達はピクリとも動かない。にらみ合ったまま身動き一つしない。いや、恐怖で動けない。そして、その男が通り過ぎると、何事も無かったように争いが始まった。
その男は灼熱の熱さも感じずに爽快に走っている。二輪駆動がしばらく走って行くと、高く切り立った岩壁が見えてきた。その岩壁の際に金属で出来たドーム状の建物があり、扉が自動で開きそこに入って行くと、バタン、と閉まる。
その建物の中は、温度も一定で快適な空間で家になっている。
中に入った男は二輪駆動から降りて、奥にあるもう一つの扉を開けると、中から女性の声が聞こえてきて、
「おかえり、ミツヒ。どうだった?」
「ああ、ハネカ、ただいま。まあまあな収穫かな」
と。無限ボックスに手を入れて食料を出す。
その男は身長180センチの黒髪で黒い瞳、引き締まった筋肉で、整った顔立ち。
迎えに出た女は、身長160センチで、紫色の艶やかな髪が肩まで伸びて、スタイルも良く赤い瞳の美しい女性。食料を見た女性は、
「うん、これだけあればまたしばらくは大丈夫ね」
「しかし、この辺の食料の調達が厳しくなってきたから、そろそろ引っ越すか?」
「ダメよ、ミツヒ。この場所が一番快適なんだから」
「まあ、そうだけど」
俺は、ミツヒ、19歳。この荒れた世界で暮らしている。そして同居しているハネカ、18歳。俺の相棒だ。
「何よ、相棒って。恋人でしょ、こ、い、び、と。ミツヒ、早く手を出しなさいよ」
そうは言っているが、実際は同居しているだけかな。ねだられて迫って来るから、キスぐらいはするけどね。
そしてハネカは強い、その上魔法も使えるいい味方だよ。
俺は魔法が苦手で使えない。その代り、剣技と武器がある。その武器は金属と魔石で作った銃で、弾も魔石を錬成して作ってあり、時間があれば作成していたから無限ボックスに嫌ってほど入っている。魔法は苦手だが魔力量は膨大に持ってるから、銃を打つ時にその魔力を弾に乗せて打つとそれに乗じた破壊力になるんだ。
外の魔物も昔は、よく襲って来たけど何度もこの銃でバラバラにしたら、バカじゃないみたいで最近になって俺には無視するみたいに触れないようになったよ。銃の破壊力は、グッ、と魔力を込めて1発撃つと、体長20mの竜が粉々になるくらいかな。
魔力の込めかたで、爆破型、貫通型、捕縛型、そして、殺傷能力が無いくらいに当てる事もできる。ただ、この銃は魔力が膨大にある俺にしか使えない。
ハネカも何発か打てたけど、魔力を吸い取られる量が加減できずに、ダダ漏れになって枯渇するからダメだってさ。
他にも武器は何種類かあるけど、それはまた次の期会に。
こんな異常な世界だけど、俺もハネカも普通に暮らしている。体にコーティングがあるというのか、耐性っていうのかな、暑さも酸の雨も問題ないね。
この世界は人口も少なく、町はあるけど、はるかに遠い場所だから、ここ数年は行ってないな。ここで暮らしているのは切り立った岩壁が、氷や風を避け、そして昼間は日陰になっているからそれだけでも他の場所よりも快適だからね。
今住んでいる家はドーム型になっているが、実は球体で見えない部分が地中に潜っているんだ。部屋はもちろん、広い空間、リビング、風呂、キッチンと一通りあって一部が無限倉庫になっているから魔石とか大量に保管してある。この家が俺の財産で一番高い買い物だった。そしてさっき俺が乗っていた二輪駆動は魔石の力で動いている、この世界ではポピュラーな乗り物でこれが無いと生きていけない。動力である魔石の魔力の枯渇はほとんどないけど、万が一切れたら、魔石を交換すればすぐに動くよ。
なんでハネカと一緒に暮らしているか。それは1年ほど前に魔物と戦っているハネカを見かけて、あまり人とは会う期会が少ない世界なんで、やばかったら助けてやろうかなと思いながら観戦していたら、その必要は無かったね、ハネカは全くもって強かったよ。攻撃魔法のアイスランスやファイヤランスを連射して、仕上げはヘルフレイムで焼却して終わり。一方的な蹂躙だったね。後々になって良く考えたら女性が一人で平然と大きな魔物と戦っている事態がおかしかったんだけどさ。
そして、俺は俺で別の魔物が襲って来たんで倒していたら、今度はハネカが俺を観察していたらしく、俺に声を掛けて来た。
そのあとはちょっとした挨拶して、お互いに、まあまあ強いなら、足を引っ張らないなら、と、意気投合して一緒に生活するようになったんだ。
と、いうより、宿なしで野宿組だったハネカが、俺がタイプで家持ちが決め手で、強引に俺のドームに転がり込んできたってのが真実だけどね。
「そんなの、今さらいいじゃない。私はミツヒが大好きなんだからさ、ウフフ」
数日後
今日は、その遠い町まで数年ぶりに売買に行く日なんで、片道10日間程の予定をして、二輪駆動車で灼熱の中を熱さも気にならずに、軽快に爽快に二人乗りで走っている。そんな俺は、
「なあ、ハネカ。2人で出かけるときにいつも思うけど、自分のに乗ればいいんじゃないか?」
後ろで横乗りになって俺の体に手を回しているハネカは、
「ダメよ、恋人は2人で乗らないとダメなのよ、ウフフ。それにこうしてミツヒにくっ付いていられるからいいの」
「運転しづらいし、それに俺がめんどくさいよ」
「またまたぁ、いっつもそう言いながら、毎回乗せてくれるでしょ、私が好きなくせにぃ」
気温60度の灼熱の世界で、二輪駆動に乗りながら話す事じゃないだろう。そういいながら走らせていると、急に空高くに歪んだ黒い空間が穴が空くように現れた。走りながら俺は、
「ハネカ、あれなんだ?」
「知らないわ、でも、何かいい予感はしないわね」
「俺も同感だ。まずいな、戻ろう」
Uターンして、急いでドームに戻って、中に入ると、遠くから腹に響くような地鳴りが聞こえ、ドームが揺れ始める。
ドームの中からは外の状況は見えないが、地殻に異変が起きているようだ。
そして、耳を塞ぎたくなる程の爆発音が聞こえる。
ドームの中は棚や物が倒れ、立っていられないくらい揺れた。そして、ドーム全体が空中に放り出されたように、無重力になって体が浮くと、
「うおっ、何が起こっているんだ、ハネカ大丈夫か?」
「分からないけど、大変なことが起こっているのは確かだわ」
「何かにつかまれ、って、こんな時に俺に抱きつくなよ」
「だって、つかまれって言ったのはミツヒでしょ、私はいつでもミツヒと一緒がいいの」
「こんな時に、まったく呑気だな」
その直後、またドーム全体がと轟音と共に揺れた。しばらくすると音も無くなってドームの揺れが止まり、重力も回復した。
俺達はドーム内を点検して家の中に問題ないことを確認した後に外に出る。するとそこには、俺達の住んでいた世界ではなく、見たことが無い綺麗な世界に変わっていた。
全ての景色が初めて見るものなんで後から分かった事だけど、青空が広がり、木々があり、草が生え澄み渡った空気が美味しく感じられる世界が広がっていた。
俺は辺りを見回して、
「ここはどこだ? どこかに飛ばされたのか?」
すると、俺の腕にしっかり抱きついていたハネカが、
「これは草木って言うのよ、草木があるってことは、私たちの暮らしていた世界から10万年前の世界よ」
「すると俺達はさっきの爆発か何かの影響で昔に飛ばされたか転移したって事か」
「そうみたいね、ここは昔で言うと、森、って言ったかしら」
「ジタバタしてもしかたがないから、周囲を調べてみようか。その前に」
俺は、地上に姿を現して転がっている巨大な球を、スイッチを押して一度手に乗るほどの球体に小さくして地面に埋め、もう一度大きくさせると以前のようなドーム状の形が出来上がった。
とりあえず周囲からと、森の中を歩いて見て回ると、奥から体長3m程の茶褐色のごつい体をした牛のような人? が棍棒を持って2人、いや2体? 現れた。
「おい、ハネカ、あれなんだ? 住んでいる人か?」
「あれは人じゃないわ。魔物よ」
「マジ? あれが? 小さいな」
「昔の魔物は大きくても、体長7m位までだったらしいのよ」
「へぇ、さっきから思っていたけどハネカって、似合わず結構物知りなんだな」
「何よ、似合わずって、失礼ね。私、これでも考古学の勉強したんだもん」
「さすがだね、で、あの魔物って強いのかな」
と、ハネカと話をしていたら、その魔物が棍棒で襲ってきた。しかし、俺もハネカも魔物の攻撃をさらりと避けて、
「これマジでやってるのか? 遅すぎだよこいつ等、戦いって、もっと速いスピードと瞬発力がないとダメじゃないのか?」
「そうみたいね。ミツヒ戦って見たら? 私見てるからさ」
「なんだ、ハネカはやらないのか? まあいいや、やってみるよ」
1体のミノタウロスに銃を向けて打つと、はじけ飛んだ。もう1体は、俺が近寄って強めに殴ってみたら、はじけ飛んだ。
「よえー、弱すぎ。ああ、わかった、ハネカ。この魔物は最弱なんだよ。他には強い魔物が沢山いるんだよ」
「ええ、弱いのは分かったけど、ねえミツヒ、これからどうするの?」
「うーん、元の世界に戻れそうもないなら、この場所で暮らすしかないかな」
「ほんと? 私は構わないわよ、ミツヒといられればどこだっていいわ」
「住んで落ち着いたら、少し遠くを見に足を延ばしてみてもいいな」
「じゃあ、私はミツヒの子供をたくさん産まないとね、ウフフ」
「それは無いだろ、ハネカ。それに俺と一緒になる約束もしてないんだから」
「私はいつでもいいわよ。ミツヒー、すぐにでも私の胸に飛び込んできてぇ」
「何言ってんだよ、まだこの世界が何処なのかもわかっていないんだから」
「いいじゃない、別に。ウフフ、楽しくなりそうだわ」
「はぁ、全く呑気だなハネカは」
その後、周囲には多くの魔物がいたが、最弱な魔物ばかりで安全だと知り、しばらくここで生活を始めたよ。
ハネカが考古学を勉強してたんで助かったね。持っていた昔の古書を持ち出して調べたら、川と言う水が流れる所では魚が獲れ、ボア、ラビットという動物は食べられる。草木に生える果物まで細かく書かれていたよ。それと、倒した魔物はミノタウロスとも書かれていた。それと他の魔物の事もね。
ハネカのお陰で、この周囲にはそれらがふんだんにあって暮らしていくには十分だった。それに食料もまだあるから問題なかったしね。そしたらハネカがドヤ顔で、
「ミツヒー、私がいて良かったでしょ、ご褒美にチューしてよ、早くぅ」
とせがまれたけどさ。え? したのかって? ああ、してあげたよ。しっかりね。
実はせがまれたときにはしないと大変なんだ。しないとキレて、躊躇なく本気で攻撃してくるからたまったものじゃないからさ。好きか嫌いか? そう言われれば好きだよ、俺もタイプだしさ、でも今はまだそういう時期じゃないよ。それに、この先もしかしたらハネカに好きな人が出来るかもしれないからさ。
「そんな事は、絶対にないもーん。私はミツヒだけぇ。強くてかっこいいミツヒだけぇ」
「ああ、わかったから、いちいち抱きつかなくても」
「エヘヘ、だーい好き。チュー」
こんなハネカだけど、俺以外の奴にはとても厳しく冷酷、時には残忍だから怖いよ…………なんでかな。
その後
ハネカに最大の周囲感知魔法を掛けて貰ったら、魔物は多かったが、人の気配は全くなかった。でも森の中での生活はとても快適で、魔物も弱く、毒や麻痺なんかの攻撃してくる魔物も弱弱しく問題なかった。周囲には、ギガンテス、ケルベロス、ゴーレム、それにワイバーンっていう魔物が多かったね。倒すと魔石が出たんで、弱弱しい魔石だけど一応拾っておいた。さらに嬉しいことは、獲れた食料がやたら美味い。とてもいい世界に転移したもんだよ。
◇◇◇
この世界での快適な、森の中の暮らしに落ち着いた頃。なにやら近くで騒いでいる声が聞こえてきたから行ってみると、その先で初めて人に遭遇したよ。そこには剣の武器を持った十数人の人が、ミノタウロスと戦っていた。多勢で最弱のミノタウロスだからすぐに倒して終わりかなと思ったら大間違いで、戦っている人達も、イラッ、とするほど弱く、ジリ貧で負けそうだったんで助けに行こうかなと思っていたら、俺から見れば偶然の魔法攻撃が決まって、なんとか逆転辛勝したってところかな。でも歓喜の喜びようで騒いでいたよ。そして俺は、騒ぎが落ち着いた頃にその人達に近寄り声を掛け、
「こんちは、俺はミツヒ」
すると、俺に気づいた1人が驚いたように振り向き、
「な、なんだお前は! ここで何をしている!」
俺は、手で頭をかきながら、
「この近くで暮らしている者だけど、君達は何してるんだい?」
「この森で暮らしている? 嘘をつけ! この魔の樹海で暮らすなど出来るものか!」
「いや、本当だよ。最近…………引っ越してきたんだ」
すると、みんなそろって後ずさりし始めて、
「に、逃げろ! 危険だ、何か危ないぞ! 魔族と関係があるのかもしれん!」
十数人の人達は慌てて逃げて行ったよ。逃げ足もあまりにも遅いから、回り込んで立ち塞がる事も出来たけど、めんどくさいしさ。まあ、気にしないで、また来てくれることを願おう。
その様子をハネカも見て出てきて、
「ミツヒ、今のは人でしょ? ここに来て初めてね、森の外に町でもあるのかしら」
「良くわからないけど怖がられたみたいだよ。それにここは森じゃなく樹海って言ってたよ」
「ふーん、私たちにしてみれば森も樹海?も同じことよ」
「また来てくれれば、いろいろと聞けるんだけどな」
「別にいいじゃない、ここは快適だし、ミツヒと一緒だし。私はこのままでも十分よ」
「ま、気が向いたら、散策するかな」
「そうね、それよりもお腹が減ったわ。食事にしようよ、ミツヒー」
「ああ、家に帰ってボアのステーキでも食べよう」
俺とハネカの、快適な日々が過ぎていく。
そして…………。