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お話の構成上以下を二章にしましたが
時系列的には二章が一章より前の出来事の話です
ややこしくて申し訳ありません
四季の国で春を司る女王が眠りに落ち、終わらない冬に国王が途方にくれている。
その噂を耳にしたレラシウは、しばらく前に自分の家へと転がり込んで来た友人を振り向きました。
「なあ、これ、シキヒの家のことだよな?お前、こんなとこで油売ってて良いのか?」
レラシウに問い掛けられたシキヒは、ふてくされたようにそっぽを向きます。
「知らん」
「知らんって……と言うかお前、そんな態度を取って可愛い歳でもないだろう」
なあ、四季の国の魔法使いさん。
「あんな国の面倒を見るのはもううんざりだ」
レラシウの言葉にくしゃりと顔をしかめ、シキヒは吐き捨てるように言いました。
そう、シキヒこそ、四季の国から消えた魔法使いなのです。そしてレラシウは、偉大なる賢者さま。
ふたりとも千年以上も生きていますが、その外見は年若い青年にしか見えません。彼らのように神から特別な役目を与えられたひとは、歳を取らなくなってしまうのです。彼らは役目を辞するそのときまで、ずうっと同じ外見です。
春の女王も、そのはずなのに、今はどうしてか子供の姿になってしまっています。
頑ななシキヒを見つめて、レラシウはそっと問いかけます。
今まではシキヒにも事情があってのことだろうと問い詰めませんでしたが、こうまで問題が深刻になってしまっては、さすがに放って置けません。
「うんざりしたからって、放り出して良いわけじゃないだろう?せめて事情を話してくれ、納得出来る理由なら、無理に戻れとは言わないから」
「……春の女王が目覚めないのは、自業自得だ。僕がなにかしたわけじゃない」
「お前の役目から行けば、“なにもしない”ことも十分問題だと思うぞ?」
レラシウの指摘を鼻で笑い飛ばして、シキヒは肩をすくめました。
「僕はちゃんと警告した。監視者としての役目は果たしたのだから、あとは警告を受けた者の責任だ。警告に耳を傾けないやつの尻ぬぐいまで、僕がしてやる義理はない」
取り付く島もなく不機嫌そうに言うシキヒの態度に、事情をくわしく知らないレラシウでも、これはまずいのではと気付きました。
シキヒは法と秩序の番人。本来ならば誰よりも理性的で、決まりに忠実なはずの存在です。そのシキヒがこれほど勝手な動きを取れると言うことは、四季の国の歪みの証明にほかなりません。
神に役目を与えられたはずのシキヒが、その役目を投げ出すほどのなにか。ざわりと心臓が粟立つような心地を覚えながら、レラシウはシキヒに詳しい話を求めます。
「それで?どんな因果で四季の国は危険に晒されて、お前が警告するまでになったんだ?」
「死の、否定」
低くうなるように、シキヒは言いました。レラシウが視線だけで、どう言う意味かと問います。
「あの国は、死を軽んじ過ぎた。国王や魔女、冬以外の三人の女王を含めて、国民全員がだ。まるで誕生がすべての始まりで、無から有が生まれているかのように、誕生を、そしてそれを司る春の女王だけを、もてはやした」
「それは……だが、」
「いきものが死を畏れるのは仕方のないことだ。死にたくないと思う。そんなのごく自然なことだろう。でも、生まれた以上は、死を受け入れる以外にはない。永遠なんて、世界を腐らせるだけだ」
苦々しく顔をゆがめて、シキヒはどんと床にこぶしを当てました。
「生を生む力の源はなんだ?命の源はなんだ?霞でも食べて生きているとでも言うのか?違うだろう。刻一刻と多くの命を消費しながら、死を憎む。死がなければ、生きることすら出来ないくせに、死を軽んじる。死を受け入れなければどうなる?現状が答えだ」
まるで世界に絶望しきったかのような、暗く、蒙い目で、シキヒでがどこでもないどこかを見つめます。
「水瓶から水を汲み続けたらどうなる?たとえどれほど巨大な瓶だったとしても、水を足さなければいつかは尽きる。自ら汲まずとも、雨を受け入れれば勝手に水は溜まるものを、雨を憎んで雨よけを付ければ、水は減るばかりだ。水は命。瓶は春。雨は死。あの国は、あの国の誕生は、生み出す命を使い尽くしたんだよ」
滅べば良い。あんな国。
国を守るべき存在が口にした、国を見限る言葉。ことの重大さに返す言葉も失って、レラシウは深々と息を吐きました。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
元々、今の二章を一章として考えていました
どちらが先が良いか迷って現状の並びにしましたが
そのせいでわかりにくくなっていたらごめんなさい
そして
どうでも良いこだわりではあるのですが
作者のなかでシキヒの一人称“僕”のアクセントは
雨ではなく飴、撲殺の撲と同じ発音で再生されております
続きも読んで頂けると嬉しいです