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眠れる女王と常冬の国  作者: 調彩雨
第一章 解を求める者
3/8

1-2

 

 

 

「や!久しぶり」


 扉からぴょこんと顔を出した人物を見留めて、魔女は目を見開きました。


「夏の女王!?どうしてここに」

「あたしだけじゃないよー?」


 ぴょんっと部屋に入って来た夏の女王に続いて、もうひとり、女性が姿を現します。


「秋の女王まで、まさかなにかあったのですか?」

「あらあら、せっかちさんだこと。まずはご挨拶でしょう?久しぶりねぇ、魔女」

「あっ、ごめんなさい。お久しぶりです」


 ぺこりと頭を下げた魔女を、微笑んだ秋の女王が見下ろします。


「それで、おふたりはどうしてここに?」


 まさかまたなにか問題が、と顔を暗くする魔女の頭を、秋の女王がなだめるようになでます。


「心配しなくても、わっちに問題はないわぁ。夏にもね。問題だらけなのは、あなたと国王でしょう?」

「国の一大事になにもしないで城にこもってるのもどうよ?って、出て来たんだよー。まー、今さらっちゃ今さらだけどねー」


 にっと明るく笑う夏の女王に、魔女はぽかんと口を開け、


「あ、ありがとう、ございます」


 べそり、と顔をゆがめました。


「わたし、もう、どうしたら良いのか……」


 べそべそと泣く魔女の背中をなでながら、ふたりの女王は寝台に目を向けます。


「可愛くなっちゃってまー」


 幼い姿になった春の女王を見下ろして、夏の女王が髪を掻き上げました。


「冬が怒らないからって、あんまり迷惑掛けんなよなー」


 眠る春の女王のほっぺたを、うりうりといじめます。そんな夏の女王を苦笑してながめながら、秋の女王が魔女に問いました。


「冬は、どんなようすかしら?」


 泣きながら顔を上げた魔女に、秋の女王は、わっちらは行けないから、と眉を下げます。


 冬の女王が入っているときの季節の塔に入れるのは、魔女だけです。あとは、交代の一瞬、春の女王が入れるのみで、国王やほかの女王たちですら、季節の塔に入ることは出来ません。

 女王たちはいつも、ひとりぼっちで時間を回し続けているのです。


「こんなこと、言ってはいけないとわかっているのだけれど、正直なところ、倒れたのが春で良かったと、思っているのよぉ」

「え……」


 どう言うことかと目でうながす魔女に、秋の女王は夏の女王を指さしました。


「たとえばもしも倒れたのがわっちだったら、夏が二年も耐えられたと思うかしら?きっと半年もたずに、投げ出すか壊れるか、とにかく駄目になっていたと思うわぁ。春も保って一年でしょうねぇ。わっちだって、一年保つがどうか……。倒れたのが春で、塔に残されたのが冬だったから、辛うじて今まで保っているのよ」

「だねー。あたしだったら、まず交代に来ない時点で怒って秋の城に殴り込んでたかも。ほんっと、冬って気が長いと言うか、優しいと言うか」

「責任感が強くてこころが広いのよぉ、誰かと違ってぇ」

「なんだとぅ」


 聞き捨てならんと秋の女王に詰め寄る夏の女王。秋の女王は余裕そうに微笑んで夏の女王の額をつつき、夏の女王は、いーっと歯を剥きました。


 国が滅びるかもと言うときにも関わらず、そんなふざけたようすを見せられて、魔法は思わず声を上げて笑ってしまいます。


「笑ったなー!」


 ぱっと振り向いた夏の女王が、魔女を捕まえ、うりうりと横腹を揉みました。


「ちょっ、やめっ、くすぐった、ははっ」


 魔女は身をねじって、夏の女王から逃れました。秋の女王がほっとしたように、くすりと笑います。


「少しは、気分が明るくなったかしらぁ?」

「あ……」

「駄目よぉ?困っているからって暗い顔ばっかりしていたら、良い考えも浮かばなくなっちゃうのだから」


 最後に声を上げて笑ったのは、いつだっただろうか。魔女は指摘されて初めて、自分が追い詰められていたことに気付きました。


「まぁ、笑っている場合じゃないってのは、あるでしょうけれど。でも、あなたが倒れたら冬が飢え死にしてしまうわぁ」

「そうだよ。困ったんなら頼って良いんだからさー」


 うりゃっと魔女の両頬をつまんで、夏の女王が秋の女王に同意します。


「と言っても、あたしらに出来ることなんて、たかが知れてるんだけどなー」

「そうねぇ。冬と代わってあげることも、国外へ魔法使いを探しに行くことも出来ないもの。せいぜい、頭をひねって解決策を考えたり、あなたや国王の相談に乗ったりするくらい」

「魔法使い?」


 どうして今魔法使いが?


 首を傾げた魔女に、あらぁ?とつぶやいた秋の女王が答えます。


「魔法使いがいなくなった次の年に、春が倒れたでしょう?だから、もしかしたら魔法使いなら、なにか知っているかもって、思ったのだけどぉ……」


 はっとした魔女が、次の瞬間、がっくりとうなだれます。追い詰められた魔女は、そんな簡単なことにすら、思い至れなかったのです。


「……わたしのこと、殴って貰っても良いですか?」

「落ち込むよりさきに、いなくなる前の魔法使いがなにか言っていなかったか、国王とよくよく確認したらどうかしらぁ?」


 膝を抱えて落ち込む魔女の背をなでて、秋の女王はそう提案しました。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


一人称“わっち”は廓詞なのですが

会話時に誰が話しているかわかりやすくするために使わせて頂きました

不快に感じられた方がいらっしゃったら申し訳ありません


続きも読んで頂けると嬉しいです

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