8話「変態自己厨は第二の孤立者と邂逅する」
「それでは、今からパーティーを組んでもらう」
学園での生活二日目。
担任の男(……いい加減名前覚えなきゃな)は教室に入ってくるなり、パーティーについての説明をした。
パーティーというのはゲームでお馴染のモンスターと戦う時に組む数人のチームのことだ。
この学園ではクラスの人間同士で4人以内のパーティーを組んで、一部の実技演習を行うらしい。
ちなみに、討伐者学園の生徒は入学時点で通常の討伐者と同様と扱われるため、放課後も好きなようにモンスターと戦ってレベル上げに励むことができる。
そんな時も学園で決めたパーティーで臨むことが多い。
もっとも、放課後については学園の強制力はなく、パーティーやクラスが違う人間とレベル上げに向かってもいいらしいのだが。
話が少し逸れたが、今はそのパーティー決めを行っているわけだ。
パーティーはお互いの命を預けるため、信頼できる人間を自分で選ぶべきだとのことで、生徒が自分で決めることができる。
4人以内というだけで、ぴったり4人である必要はないのだが、あちこちで4人組のパーティーばかりが決まっていく。
まあ、4人が一番安定して戦闘に臨めると言われているので、当然の結果なのだが。
しかし、このクラスの人数は29人。
4人パーティーばかりで固まっていくと、必然的に一人余るわけで。
「あの、先生……。俺、余ったんですけど、どうすればいいですかね?」
俺は控えめに手を上げて質問する。
次の瞬間、あちこちから聞こえてくる失笑。
……本当、気分悪いな。
「それなら一人でやるしかないだろうなぁ」
あらかじめ予期していた結果なのだろう。
担任はニマニマしながらそう言う。
まあ、いいけど。
元々俺はパーティーを組むつもりなんてない。
ひたすらソロで戦っていこうと考えていたからだ。
理由は、俺は人を信用できないから。
他人に命を預けることなんて不可能なのだ。
「それでは、次に施設案内に移る。二年生の諸君、入って来たまえ」
担任がそう言うと、教室に次々と二年生の先輩が入ってくる。
その数は8人。
「みんな知っての通り、この都市には討伐者が使用する様々な施設がある。無論、この学園にもだ。今日はパーティーに一人ずつ先輩についてもらい、都市と学園の案内をしてもらうことになる」
そう言うと、先輩方は各パーティーの元に向かっていき、自己紹介を始める。 どうやら皆さん、俺達同様Eクラスのようだ。
「……先生。俺は誰に案内してもらえばいいんでしょう?」
クラスに入ってきた先輩は8人。
このクラスのパーティーは8組+俺一人。
ようは、またしても俺だけ余るわけだ。
「おやおや、ロンリネス。複数人でないとパーティーとは言わないのだぞ?」
ようは、一人で回れってことか。
教師ぐるみで生徒をいじめるとか最悪の学校だな。
とはいえ、この世界は日本とは違い、いじめとか差別とかが普通に容認されているため、仕方ないことではあるのだが。
「それでは、これよりパーティーでの行動に移ってくれ」
担任が指示すると、パーティーと先輩一人の計5人のグループが、次々と教室から出ていく。
……俺も行くか。
どこかのパーティーについていけば何とかなるだろう。
そう思って教室を出ると、すでに誰の姿も見えなかった。
何らかのスキルを使って一瞬でどこかに移動したのだろう。
「……はぁ」
用意周到すぎるだろ。
俺は深くため息をついた。
◇◇◇
一人ぼっちで学園の廊下を歩く。
どこに行こうにも場所が分からない。
リラには、こちらから連絡することはできないため、リラに案内してもらうことも叶わないだろう。
そもそも、学園内に彼女の組織(?)の人間がいないことから、彼女が学園や都市に入れるのかも怪しいところだ。
……あいつらはマジで何者なんだよ
とにかく、完全に詰んだ状況だった。
学園内に恐らく味方はいない。
とりあえず学外に出て、都市の人に色々と聞いてみるか。
もっとも、日本人と違って異世界人が親切とは限らないため、危険な手段ではあったが。
それでも、何の知識もなしに、それなりに大きな都市を徘徊するよりかはマシだろう。
そう思った時、
「……あら?あなたは新入生の子じゃないかしら?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは昨日見かけた女生徒。
生徒会副会長の黒髪ロングの先輩だった。
「あなた達はたしか今、施設案内を受けているはずなのだけれど……。一人で何をしているのかしら?」
先輩は困ったように俺に説明を求めてくる。
物静かな声音で、表情は乏しい。
まるでアニメに出てくる無表情キャラのような人だ。
「えっとですね……」
どう説明したものか。
俺の存在は学校の上層部、少なくても教師達と生徒会くらいには伝えられているものかと思っていたのだが。
とりあえず、俺は現在の状況を包み隠さず話した。
「……そう。それは災難だったわね」
「いえ、俺が弱いのがいけないんです」
例えばそれなりの偏差値の進学校に不良が一人入ってきたら当然迫害されるだろうし。
真面目に討伐者を目指している人間からしたら、俺はさぞ目障りなことだろう。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「何でしょう?」
「あなたがレベル1なのは、モンスターに全く勝てないから?それともモンスターと戦ったことがないからなのかしら?」
「後者ですね」
そう言うと、先輩は不信そうに俺を見る。
表情は相変わらず変わらないのだが、何となくそんな気配を醸し出していた。
だがそれも一瞬のことで、やがて先輩は
「そう。……まあ、この学園には様々な事情を持つ人がいるものね」
とだけ言った。
そして、
「私も孤立していることには変わらないわけだし」
と自嘲気味に続ける。
「どういうことですか?」
目の前の先輩はお淑やかで美人で、それに生徒会副会長ということは実力も相当のものだ。
人気者ということならともかく、孤立なんて考えられないものだが。
「あなたのその制服の色、学校側から指定されたのでしょう?実は私もなの」
先輩の服の色は俺みたいなダークグレーとは違い、純粋な黒だ。
俺の場合は弱者を強調するためだったが、黒ならば何が強調されているのか。
少なくても俺には彼女の美しさと強かさが強調されているように思えるが。
「人々が黒を始めとした暗い色を嫌うのは知っているでしょう?」
「ええ……まあ」
実際は初耳だが、一般常識のようなので話を合わせる。
「私はこの学園で異端と呼ばれているわ」
「異端……ですか?」
「言葉で言っても分からないわよね。……見てて。――着装」
短い呪文を唱えると、先輩の背中に鞘付きの剣が現れる。
装備を一瞬で装着する魔法を使ったのだ。
先輩は背中に括り付けある鞘から一本の片手剣を引き抜く。
それを構えると、彼女は素振りを始めた。
「――はあッ!!」
何連撃にも渡る剣撃。
さながら舞うように放たれるその剣技は、剣舞と呼ぶに相応しい。
刃は闇色の光を纏っていて、その動きは人間が出せる速さを易々と超える。
高レベルのスキルなのだろうか。
しかし、洗練されつつも完璧ではないそれは、人の手によって鍛えられもののようにも思える。
俺は魅了された。
綺麗だ、と心の底から思った。
合計10連撃。
最後に上段斬りを放ったところで、爆風を生み出すと共に彼女の剣技は終了した。
先輩はふぅと一息つくと剣を鞘に納めた。
「実はこれ、スキルではないのよ」
「……やっぱりですか……」
この世界におけるスキルは必殺技のようなものだ。
アビリティの熟練度が一定数に達すると発現する。
例えば、『片手剣』アビリティの熟練度を上げると、剣技のスキルが発現する。
スキルは発動者の魔力を消費して発動することができる。
発動時は、身体が自身の意志とは関係なく勝手に動き、技を放つ。
例えば、剣技スキルならば、身体が自動的に剣技を放つのだ。
そのため、技の精度に人間の技術は関係なく、完璧な動きで技が放たれる。
しかし、先程の先輩の剣技には多少の歪さが残っていた。
だからもしやスキルでないのでは、と思ったわけだ。
「……でも、それなら何故剣が光ったんです?」
スキルを発動すると、武具は光を纏う。
逆に言えば、スキルを使っていない時に武具が光ることはない。
「それは秘密よ」
どうやら教えてくれないらしい。
まあ、当然か。
折角編み出した技を他人に盗まれたくないもんな。
「……あなたにまで、私のようになって欲しくないから」
だが、先輩の言ったことは俺の予想とはだいぶ違った。
「スキルは身体が自動で完璧な技を放つことから、神のご加護なんて言われていることは知っているわよね?だから、スキルを使わずにスキル並……いえ、スキル以上の力を放つ私は忌み嫌われているの。あなたは、強くさえなれば何とかなるわ。でも、もしこの技を使えるようになったら……」
第二の異端になってしまう、ということだろう。
優しい人だなと思うべきところなのだろうが、ブラフだなと感じた。
本当は技を盗まれたくないだけだろうと。
人を、人の善意を信じることのできない俺は、そう考えることしかできない。
だからせめて、
「なるほど。……とりあえず、俺は綺麗だと思いましたよ、あなたの剣技」
俺が魅了された剣技を称賛することにした。
これは俺が素直に感じた感想だ。
すると先輩は一瞬瞳を大きく見開いた後、
「……そう。ありがとう」
ぎこちない笑みでそう言った。
……なんだ、そんな表情もできるんだ。
「自己紹介がまだだったわね。私はクローネ=ヴィンガルド。剣技を褒めてくれたお礼に施設案内は私がしてあげるわ」
「助かります。俺はレイヤ=ロンリネスです」
お互い自己紹介を終えると、クローネさんに学園と都市を案内してもらった。
次回から、主人公の成長チートが活躍します!!
……多分。