7話「変態自己厨はマザコン疑惑をかけられる」
「……ん?」
「どうしたんですか?怖気づいちゃいましたかー?」
「いや、ずっと怖気づいてはいるんだが……。そうじゃなくてさ。これってどこから脱がせばいいんだ?」
「頭に付いてるカチューシャからでいいんじゃないですか?」
まあ、普通に考えればそうか。
でもそれって、最初から頭を触るということなわけで。
ハードル高いよなぁ。
「何ですか?下着とカチューシャだけの状態の方が興奮するんですか?」
リラはニヤニヤしながら問うてくる。
「いや、ちげえよ!!」
俺は勢いに任せてカチューシャを外す。
その際に彼女の髪に軽く手は触れてしまった。
……こいつの髪の毛、こんなにサラサラなのか。
俺がそんなことにドギマギしていると、突然手に持っていたはずのカチューシャがフッと消えた。
「なっ!?……俺の手には服破壊能力ならぬ服消失能力が宿っているのか?」
つまりこの手でメイド服のワンピース部分だけ触れれば、リラは裸エプロン状態になるってのか……?
いや、流石に下着は着ているか。
「いえ、私の転移能力で移動させただけですよ。地面に置くわけにもいきませんし」
「……へぇ」
転移能力の便利さに感心する。
俺も欲しいな。
いや、異常学習を使えば習得できるのか?
今度聞いてみよう。
「それじゃあ次はエプロンを脱がしてください」
エプロンか。
これは後ろの紐を解けば簡単に外れるので難易度は低い。
さっさと外してしまおうと思った――が。
ここらでリラの余裕を少し崩したい。
「……よし」
俺はごくりと息を飲むと、行動を開始する。
「えっと、エプロンはそこまで大変じゃないと思うんですが……ってきゃあ!?」
俺はリラのスカートを思い切りめくった。
ハロー、ガーターベルト!!
というか、リラさんって案外可愛い声で驚くんですね。
おじさんテンション上がってきました。
「……な、な、なにするんですか!?」
「いや、ちゃんとガーターベルト穿いてるかなーって」
「そりゃあ穿いてますよ!メイド服なんですから!」
リラは顔を真っ赤にして抗議してくる。
どうやらパンツを見られたのが相当恥ずかしかったようだ。
「お前って羞恥心とかあったんだな」
「ありますよ!?」
「じゃあ何で脱がせてとか言い出したんだよ」
「レイヤさんが昨日同様、途中で気絶すると思ったからですよ!!」
はっはっは、俺を甘くみたな。
まあ、こちらも顔が真っ赤で今にも意識が途切れそうなんだけど。
「……それに、下着を見られるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかったんです。レイヤさんに見られたからでしょうか……」
リラが小さい声でなにやらごにょごにょ言っている。
「ん、何か言ったか?」
「いや、絶対聞こえていたでしょう!!あなたはラノベの主人公ですか!!」
「あぁ……そうかもしんない」
「否定しろや!!」
リラは感情が荒ぶるあまり、敬語が乱れている。
おい、陰金無礼キャラが崩れてるぞ。
ちなみに俺は中学校の頃はモテていた。
確かに、その時あたりから耳が遠くなった気がするのだ。
そういう意味では、俺はラノベ主人公ではないけれど、難聴スキル持ちではあるかもしれない。
「さて、もうやめようぜ?今回は俺の勝ちってことで、もう終わりにしようぜ」
勝負をしていたつもりはないが、着替えプレイはもうやめるべきだろう。
俺もリラも恥ずかしい、誰も得をしないのだから。
「……続けます」
「えっ?」
「さあ!!さっさとエプロンとワンピースを脱がせてください!!」
「えぇ!?」
どうやらリラは自棄になっているらしい。
逃げようにも、彼女に転移してもらわないことには、寮に戻れない。
「……分かったよ」
俺とリラのチキンレースは再開された。
◇◇◇
その後、俺がワンピースを脱がせようとしたところで気絶したのは言わずもがな。
リラの転移魔法で寮に戻り、今度こそ電気を消してベッドに横になったのは良いのだが……。
「……どうしてこうなった」
「どうかしました?明日も早いようですし、さっさと寝ましょう」
そう、ベッドで横になっているのは俺だけじゃない。
なぜかリラも一緒に寝ているのだ。
なんでも、先程の着替えプレイでは性奴隷としての役割は不十分だったとのことだ。
……だから性奴隷は解消と言っただろうに。
その辺は彼女にも譲れないところがあるのだろう。
「私がこの学園の人間に見つかる心配はありませんよ。私は転移スキルだけでなく、潜伏スキルも使えるので」
こいつ、有能過ぎるだろ。
もうリラが俺の代わりでいいんじゃないかと思えてくる。
まあ、それができないから俺が召喚されたんだけど。
「いや、そういう問題じゃねえんだよ……」
隣に女の子がいたらドキドキして寝れねえじゃねえか。
しかも、気絶するほどの刺激はないし。
「レイヤさん。あなたのメンタルは自分で思っているほど強くはないですよ」
突然、リラは真面目な口調でそう言う。
まただ。
彼女は度々、突然真剣な様子になる。
……ふざけているようで、実はすげえ真面目なんだよな、こいつ。
「今日、あなたは大勢の人から見下されたんでしょう。今までも自己厨と呼ばれ嫌われていたのですから、自分はどう思われようと何も感じないだなんて勘違いしてるんでしょうが……」
リラはそう言うと、ぎゅっと俺のことを抱きしめる。
「人の裏面を知っただけで怯えて捻くれた人が、人の悪意に強いわけがないんですよ?」
リラは俺に対して優しく微笑んだ。
……って顔が近い!?
それに全身が密着しているし、何やらいい匂いもしてくる。
「おい、ちょ……おま!?」
「ずっと人肌が恋しかったんでしょう?」
「……ッ!?」
「人を拒絶しても、やっぱり孤独は嫌だった。違いますか?」
「いや……そんなことは……」
「誰かに甘えたいけど、同時に誰も信用することができない。そんな矛盾を抱えていたんじゃないですか?」
「…………」
それじゃあ、俺はまるでマザコンみたいんじゃないかと反論したかったが、できない。
図星だったのだ。
「私は裏切りませんよ?」
「……いかにも裏切りそうなセリフだな」
「あなたは私達のために戦い、私はあなたを癒す。あなたの好きなギブアンドテイクです」
きっと、そこに愛なんてものは存在しない。
彼女はあくまで目的のために俺を癒してくれるだけだ。
でもだからこそ、信用できる。
冷たいようで安心できる関係。
そんな奇妙なものが彼女とは築けそうだった。
「それじゃあ、今日はもうお休みになってください」
リラは俺の頭を撫でながら、そう言ってくる。
「ああ。おやすみ……ママ……」
「あの、レイヤさん。それでは完全にあなたがマザコンキャラになってしまうんですが……」
もうなんでもいいよ。
とにかく今日は疲れた。
リラに抱きしめられながら、俺は眠りについた。
◇◇◇
俺はこの日、久しぶりに良い夢を見た。
内容はリラと赤ちゃんプレイをするという恥ずかしいものだったが。
……人間って現実で経験してなくても、合体する夢を見れるんだな。
しかも途中からティナちゃんまで乱入するカオスっぷりだった。
何はともあれ。
俺は数年ぶりに穏やかな気持ちで朝を迎えることができた。
次回から学園に戻ります。
そういえば主人公、全然チートしてないな……。