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6話「変態自己厨はメイドさんにご奉仕タイム」

 「……はぁ、鬱だ……」


 放課後、俺は寮の一室でベッドの上に寝転がっていた。

 ちなみにグラスに負わされた怪我は保健室の先生によって治癒された。


 この学園は全寮制ということで、俺を含めた新入生は今日から寮で寝泊まりするのだ。

 

 なんと贅沢なことに一人一部屋が割り当てられている。

 机と椅子に棚、そしてベッドだけの狭い部屋だが、それでもプライベートスペースがあるのはありがたい……のだが。


 娯楽がないのだ、この世界には。

 先程起こった嫌なことを取り合えず忘れるために現実逃避したいのだが、アニメも漫画もゲームもない。

 完全に暇だ。


 レベル上げに繰り出すにはまだ情報が足りないしなぁ……。


 この学園には図書館があるらしく、そこで情報収集をしたいのだが新入生にはまだ使用が許されていない。


 もう寝るか。

 机の上に置いてある時計を見ると時刻は夜の9時(ちなみに時間の単位も日本と同じらしい)。

 

 今までは深夜2時とかまで起きているのが当たり前だったが、これからは規則正しい生活を送るべきだろう。

 

 そう思い、天井の明かりを消そうとベッドから起き上がる。

 この世界では科学の代わりに魔法で技術が発達していて、電球などといった道具もわりと普通にある。

 天井の電球は部屋の入口の横にある小さな魔法陣に手をかざすことでオンオフが可能だ。

 

 しかし、魔法陣に手が触れる直前。

 突如視界いっぱいに眩い光が広がり、一瞬の浮遊感が身体を襲う。


 この感覚は……。


 光が収まるとそこには俺の予想通りリラの姿があった。

 ただし、メイド服姿の。

   

 「お帰りなさいませ、ご主人様♪」


 「……どうした?」


 ノリノリでそう言う彼女に俺は呆然と返すことしかできない。


 「どうしたって……レイヤさんを慰めようと思ったからですよ」


 「俺を慰める?」


 「はい。散々痛い目にあってへこんでいると思いまして」


 「あぁ……なるほど」


 彼女なりに俺のことを思っていてくれたらしい。

 まあ、最後の頼みの俺が潰れたら困るもんな。

 体張るなぁ……。


 しかし、フリフリとしたメイド喫茶で見かけるなんちゃってメイド服ではなく、ロングスカートの由緒正しいタイプか。


 分かってるな、こいつ。


 「まあ、後は一日一回は現状報告をして頂こうと思いまして」


 うん、そっちがメインだな。

 まあ、いいけど。


 「報告することは特にないな」


 「そうですか」


 リラの様子から、俺がボコボコにされたことは察しているだろうし。

 特に変わった様子もなかったのでいいだろう。


 「そんじゃ、俺を寮に戻してくれるか?今は寮外に出れない時間だし、いつまでも部屋が無人じゃ怪しまれる」


 「えぇ?いいんですか?」

 

 早く寮に戻ろうとする俺に対しリラはニヤニヤしながらそう言ってくる。


 「いいって?」


 「目の前にこんなに可愛いメイドさんがいるんですよ?しかもあなたの性奴隷の」


 「いや、あれは取り消しって言ったじゃねえか」


 そう、俺はリラを性奴隷にするのを取り消した。

 血迷った勢いで要求してしまったが、やはり無理なのだ。

 童貞が女の子に性的なことをお願いするなんて。

 なんたって胸を揉んだだけで失神してしまうくらいなのだから。


 「いえいえ、そういうわけにはいきません。あなたにメリットを提供しなければ。信念を曲げるのはやめたのでしょう?」

 

 リラは困っている俺を見て楽しそうな様子だ。

 本当いい性格してるよな……こいつ。


 「メリットなら……ある。お前らを助けられれば俺は過去のトラウマを克服できるかもしれない。それで十分だ」

 

 俺の中に巣食うトラウマ。

 これさえ何とかなってしまえば報酬としては十分すぎる。

 これは俺に一生付きまとってくるものだと思っていたのだから。


 とはいえ、実はたとえ彼女達を助けることができたとしても、トラウマを解消できるとは思っていなかったりもする。

 

 結局はティナに無償で助けると言ってしまったのを引きずっているだけなのかもしれない。 


 「それでは役割不足ですよ」


 突然、リラは真面目な口調になって言う。


 彼女のふざけている時と真剣になった時の落差は激しい。

 どちらが本当の彼女なのだろうか。

 いや、どちらも彼女が演じているキャラなのかもしれない。

 そんなどうでもいい思考が一瞬頭をよぎる。


 「役割?何だそれ」


 「我々からの報酬はあなたの信念を曲げないためのメリットであると同時に、あなたのモチベーションを保つ、ご褒美のようなものでなければいけません。そうでないとあなたが窮地に陥ったときにあっさりと心が折れてしまう。だから、後ろ向きな願いであるトラウマの解消では報酬としては役割不足なのですよ」


 「……なるほど、な」


 中々色々考えているらしい。

 当然か、彼女達にとって大事な問題なのだから。


 「――ということで、私の着替えを手伝ってください」


 「……は?」


 リラの突然のおかしな提案に間抜けな返事を返してしまう。

 この子、頭おかしくなっちゃったのかしら?


 「いやはや、本来ならメイド姿の私がレイヤさんにご奉仕するべきなんですけどねー。でもあなたは私に性奴隷であること、奉仕することを拒否した。であるならば、逆にレイヤさんが私に奉仕をすればいいじゃない?と思った次第ですよ。どうです?これはこれで興奮するでしょ?」


 「……お前、馬鹿じゃねえの?」


 俺は思わず率直にそう言う。

 この人マジで何言ってんの……。


 「俺はそんなこと頼んじゃいねえよ。分かったらさっさと寮に転移させてくれ」


 「待ってくださいレイヤさん。あなたが頼んでいるんじゃないんです。私が頼んでいるんですよ?着替えを手伝って下さいと。こんな可愛い女の子のお願いを断るんですか?」


 リラはキメ顔でそう言う。


 「いやいや、お前が美少女なのは認めるけどさ。その頼みを受けるメリットが俺にはないだろ?だから断る」

 

 俺は矢継ぎ早にまくしたてる。


 そうだそうだ、俺は基本的に自己厨なのだ。

 だから彼女の頼みを聞く必要なんて全くない。

 ティナとの件が例外なだけで俺が改心したわけではないのだ。

 

 …ふう、危ない。

 この信念がなかったら、また鼻血を噴射するはめになるところだったぜ。


 「何を言っているんですか?メリットならあります。こんな可愛い子を脱がせられるなんて興奮するでしょう?それが何よりのメリットです」


 「いや待て、興奮なんてしない。生憎、俺のことを好きでもない女の子に無理矢理エロいことして興奮するほど変な性癖は持っていないんだ」


 へえ、案外誠実なんですねとリラは笑う。

 うるせえよ。

 しかし、まあこれで取り合えずは逃れられたかな。


 そう思った矢先、リラはしてやったりという風にニタァと笑う。


 「誰が嫌がってるんですか?私は楽に着替えを済ませたいだけで、そのためにあなたに脱がされることに抵抗はありませんよ?その際に興奮するのもご自由にといった感じです」


 「よし、やろう」


 俺はそう言うとメイド服を脱がせるべく、リラに近づく。

 この行為を通して俺のモチベーションが高まったと思わせれば彼女も満足だろう。

 

 決して俺が段々興奮してリラを脱がせたくなってきたとかではない。

 そんなんじゃないんだからね!?


 「それじゃ……ぬ、脱がすぞ?」


 「お願いしまーす。あ、また着ることもあるかもしれないので、鼻血で汚さないで下さいね?」

 

 リラは相変わらず俺をからかうの忘れない。 

 まあ今はそんなことより。


 ……今から俺は男になる。

 

 俺は覚悟を決めた。



エロ少な目とは何だったのか……。

今後もこういうノリが多くなるかも?

その辺は未定です。

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