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5話「変態自己厨は蔑みの視線を浴びる」


 俺は自分のことをソロ充だと思ってきた。

 自分のためだけに生きる。

 周りから自己厨と呼ばれ忌み嫌われていた俺は常に一人だった。

 だけどそれは効率的に生きているだけだと思っていた。

 その結果生活は充実しているし、一人の方が気楽だと思ってきた。


 そして俺は異常な学習能力のお蔭で成績はトップクラス。

 孤高なエリートという立場が気に入っていた。


 ――だから、今の状況は不愉快だ。


 一人だという点は昔と変わらない。

 違うのは周りの視線だ。

 

 教室中から蔑みの視線が集中する。

 あちこちから俺を馬鹿にする声が聞こえてくる。


 全クラスメイトに見下されている。


 原因は、先程行われた自己紹介にあった。


 担任(神経質そうな男だった。もう鬱すぎて吐きそう)から出されたお題は名前とレベルの二つだけ。


 生徒会長の話からしてこのEクラスは一番の落ちこぼれクラス。

 いくら俺のレベルが1でも目立つことはないだろうと高を括っていた。


 だが結果は違った。

 クラスメイトのレベルは全員が5以上。

 一番高い男のレベルが9だった。


 リラに聞いた話によると、新入生は学園に入学する前に軽く修練を積むらしい。

 この世界でのレベルは、命あるものを殺して、その生命力を奪うことによって上がっていくらしい。

 しかし動物や植物は生命力が弱く、レベル上げをするためにはモンスターを倒すのが一般的らしい。

 

 そのため無理のない程度にモンスターと戦って、入学前に出来るだけレベルを上げるのだ。


 ここで金や才能があるものはかなり上までレベルを上げることが出来る。

 この世界におけるレベル上げは、何も直接モンスターを倒す必要はなく、モンスターと戦う集団、パーティーに少しでも貢献していればいい。

 これによって回復魔法や支援魔法を使う人間も問題なくレベル上げを行うことが可能なのだ。

 しかしこの言ってしまえばRPGまんまのシステムは、パワーレベリングが出来るということを意味している。

 これを利用して金持ちは強い戦士を雇い、自分はモンスターに弱っちい一撃を与えただけで、後は雇った戦士に強力なモンスターを倒してもらい、莫大な経験値を得るのである。

 ちなみに普通はモンスターとコツコツ戦ってレベルを上げていく。

 弱いモンスターでも倒せば報酬が貰えるため、地道に装備を強くしていくのである。

 ここで才能がある人間は順調にレベルを上げていくのだ。


 そんなわけで、金持ちと天才は上層のAかBクラス、それ以外の人間も大抵はCかDに収まる。


 Eクラスにいる人間はとことん才能のない落ちこぼれなのだ。


 それでもレベル5より下の人間はいない。


 そんなわけだから俺が自己紹介でレベル1であると言った瞬間、クラスは爆笑に包まれた。


 そして休み時間の現在、クラス中から見下されているわけである。

 きっと落ちこぼれのEクラスで自分は最底辺だと思っていた矢先、それより遥かに下の人間が現れて優越感にでも浸っているのだろう。

 

 「おいおいロンリネスくーん。よくそんなんで学園に入れたなぁ?」


 俺が座っている席の前に、ガラの悪い男の三人組が現れる。

 俺に声をかけてきたのはその中心、リーダーと思われる緑髪の男だった。

 リラの透き通るようなエメラルドグリーンと違い、黒に近い濁った緑。


 ……なんつーか、ザ・脇役って感じの奴だな。 


 ロンリネスというのは俺のこの世界においての苗字であるわけだが、英語で孤独という意味もあってかあだ名のようにしか聞こえない。

 リラのやつ、もっとマシな苗字つけろよな……。

 本人に直接クレームを言ったが、返ってきたのは


 「苗字や名前もアビリティと同様、その人の特徴からできるんですよ」


 という一言だった。

 つまり俺が孤独だからこんな苗字になったのである。

 聞かされた時は軽くへこんだ。


 「何か言えよ?裏口入学なんだろ?」


 「いやいやファート。そんな金があったらレベルは上がるっての。まぐれで入学試験に受かっちゃったんだろうよ」


 緑髪の両隣の子分と思われし男二人がそう言う。

 声を出した順にデブな男とガリな男である。


 テンプレな噛ませ犬三人組で吹きだしそうだ。


 ちなみに、レベル5までなら誰でもなれるわけではない。

 永遠にレベル1から上がれない者だって少なくないのだ。

 そんな人間がEクラスにいない理由が入学試験である。


 ここで問われるのはレベルや才能ではなく戦闘適正。

 モンスターの恐怖に立ち向かえるか、痛みに耐えられるかなど。

 これに合格する人間は最低でも独自でレベル5になれる程度の才能を備えているというだけで、レベル5以下は学園に入学できないというわけではない。


 ちなみに俺は入学試験は受けていないし戦闘適正も恐らくないため、デブの言うことはあながち間違ってはいない。


 「おい、無視すんじゃねえよコラ!!」


 緑髪はそう言って俺の机を蹴ってくる。


 ……はぁ、面倒だな。


 俺の持つアビリティ、異常学習にはレベルアップ必要経験値の減少という項目がある。

 これによって人の何倍もの速さでレベルが上がる俺は、正直このクラスの人間なんてすぐに超える。

 だから挑発されても何も感じないわけだ。


 ここは適当にやり過ごそう。


 「……入学初日から問題を起こしたいのか?」


 俺は冷たく言う。


 これで奴らも退散するだろう。

 そう考えた俺が甘かった。


 「はぁ?てめえみたいな底辺に何かしたところで問題になるかっての」


 緑髪は平然とそう言い、デブとガリも同調する。

 

 出たよ、頭の悪いやつの自分に都合の良い謎理論。

 そんな風に思ってたのだが、どうやらそれは俺の勘違いのようで。


 クラス中からの何言ってんだコイツ?と言った視線は緑髪ではなく俺に注がれていた。


 「少し痛い目見ればその生意気な態度も改善するよなぁ」


 緑髪はニヤリと笑うと、右拳を強く握り構える。


 だが残念だが、俺は喧嘩が強い。

 異常な学習能力はどんなことに対しても効果を発揮する。

 そのため俺は小・中学時代に幾度となく喧嘩を繰り返した俺は、それなりの実力を手に入れた。

 格闘技を使ってくる卑怯な相手もいたため、柔道と合気道の技もそれなりに覚えた。


 緑髪のレベルは9。

 このクラスでは一番上だ。

 対して俺のレベルは1。

 

 ……だけどレベルの差なんて技術量で埋めてやる。


 俺は緑髪のパンチを受け流そうと構えた。



 ◇◇◇



 ……なんて思っていた時期が俺にもありました。

 俺は現在床に倒れていて、身体のあちこちから血が出ている。

 惨敗だった。


 どうやらこの世界でのレベル差は絶対らしい。


 とはいえ、初日から暴力沙汰だ。

 緑髪の男とそれに紛れて俺に暴行をしたデブとガリは処分を受けるだろう。


 ガラッと教室の前側の扉が開いて担任が入ってくる。


 「さあそれでは――む?ロンリネス君はどうしたんだ?」


 担任は血まみれの俺を見ると、そう言う。


 「生意気だったんで軽くこらしめただけッスよ」


 対して緑髪は笑いながらそう言う。

 こいつ、アホか。

 自分から罪を告白してどうする。


 しかし担任の反応は、


 「そうかそうか。ま、死なない程度にしとくんだぞ、グラス君」


 といった軽いものだった。


 ああ、そうか。

 これがこの学校で言う実力主義ということなのか。


 強さこそが絶対で、強者は弱者に何をしてもいい。

 

 ――はぁ?てめえみたいな底辺に何かしたところで問題になるかっての


 あの緑髪の言葉こそがこの学園での常識だったのだ。


 きっとEクラスというのは、他の全クラスからゴミのように見下される対象で、CやDクラスの人間はEクラスに降格することを恐れて必死に強くなろうとする。


 そういうシステムだったのだろう。


 しかしそれは同時にEクラスの人間に深い劣等感を与え、彼らの成長を阻害するものでもあった。


 そこで投入されたのが俺ということだ。


 Eクラスより更に落ちこぼれ。

 劣等生の中の最底辺。


 Eクラスでも俺達はまだマシだ。

 そうやって自信を持たせることで彼らの成長を促進させる。


 俺が入学試験なしで特例でこの学園に入れたのは、そういうことなのだろう。

 きっと指定されたダークグレーの制服も、弱さ、無様さを際立たせるものなのだ。


 そう冷静に分析する一方で。

 心の奥底では憎しみの心が芽生えていた。


 俺を痛めつけたグラス。

 そして俺を見下し侮辱したクラスメイトと担任。


 ……てめえら、全員覚えてろよ。


 いつか行われるであろう実践式の授業。

 そこでこのクラス一の実力者のグラスと一対一で戦い、圧倒的力量差で勝利を収める。

 そうやって全員の安っぽいプライドをへし折ってやる。


 俺はそう心に決めた。

 


しばらく時間があるので、できるだけ多く投稿していこうと思います

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