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0話「変態自己厨は幼女に騙される」

2/2に全文丸ごと書き直しました。

 「……助けて、怜君……」


 幼馴染の少女が涙目で訴えてくる。


 「……え、ぅぁ……」


 そんな彼女を前にして、僕は狼狽えることしかできない。

 ここで一歩踏み込めば、彼女を救えるのかもしれないのに。

 その距離はほんの少しのはずなのに。

 僕は動くことができない。


 やがて。


 「……ごめんっ」


 僕はその場から逃げ出した。

 勇気を出すことが出来ずに……。


 次の瞬間、いきなり目の前が暗くなり、


 「……ッ!?」


 目を開けると、そこは見慣れた自室の天井だった。 


 「……夢か」


 ベッドの枕元にある時計を見ると時刻は6時。

 ただでさえ憂鬱な月曜日に悪夢を見てしまったようだ。

 

 とはいえ、学生の身である以上、学校に行くのが義務だ。


 「……はぁ」


 俺、雪ヶ谷怜(ゆきがやれい)は大きくため息をつくと、ベッドからのそのそと起き上がった。



 ◇◇◇



 高校での俺は嫌われ者だ。

 その理由は明白。

 今から数か月前、入学したばかりの頃である。



 「ねえねえ雪ヶ谷君!!これからクラスのみんなで親睦を深めるためにカラオケに行くことになったんだけど、雪ヶ谷君も行くよね?」

 

 「断る。俺は暇じゃないんだ」



 「なあ雪ヶ谷。次の授業の教科書忘れちまったんだけど……一緒に見せてくれないか?」


 「嫌だ。授業に集中しづらくなる」 


 

 「あれ?雪ヶ谷君、帰っちゃ駄目だよ。今日は掃除当番なんだから」


 「サボってもペナルティのない仕事なんて真面目にやる方がアホだ」



 「おーい、雪ヶ谷!!今日は体育祭のダンス発表のためにクラス全員で残って練習だぞ?」


 「体育祭なんて成績に影響しないだろ」



 とまあ、こんな感じで人との接触を避け続け、割り振られた仕事をサボり続けたのが原因だ。


 今では自分勝手すぎて周りに迷惑をかけることから、自己中とネットスラングの○○厨を合わせて『自己厨』なんて呼ばれている。 


 そんなわけで、俺は学校ではいつも一人。

 放課後になった今も、教室が弛緩した雰囲気に包まれて賑やかになる中、真っ先に教室から出た。


 「……あ、あのっ!!」


 校門から出たところで、待ち伏せられていたかのように声をかけられる。

 声質が高く、どこか幼さを感じる声だ。

 校門前でペンやノートなどを配る塾の宣伝かと思ったが、どうやら違うらしい。

 

 俺は気になって声がした方へ振り向く。


 すると、そこにいたのは一人の少女だった。

 身長は俺の鳩尾あたりまでで、小学生であろうと思われる。

 金色の髪をツインテールにしていて、瞳は綺麗なブルー。

 顔立ちが不自然なくらいに整っていて、まるで人形のようだ。

 金髪碧眼の美少女、というのが相応しいだろうか。

 

 この子の美しさを一言で表現するならば、思わず監禁しそうになるくらいの美少女といったところだろうか。


 おっと、あくまで監禁しそうになっただけだからな?

 本気で監禁しようと考えているわけじゃないからな?


 そんな少女は緊張した様子でこちらを見ている。

 しばらく無言の膠着状態が続いたが、やがて少女は勇気を出して言葉をつづけた。


 「あの、お話したいことがるんですが……」


 「断る。俺は小学生の相手をするほど暇じゃないんだ。他を当たれ」


 「即答ですか!?」


 すぐさま拒否した俺に少女は動揺する。

 

 俺は自分に対して二つのルールを定めている。


 できるだけ人とは関わらない。

 自分のメリットにならないことはしない。


 このルールに基づいて行動した結果、『自己厨』と呼ばれるようになったのだ。


 今回もそのルールに従って行動したまでだ。

 別にこれ以上少女といるとロリコン犯罪者になりそうとか危惧してるわけじゃないんだからね!?


 そんな言い訳とは裏腹に、速足で少女から逃げるようにその場を去る。


 「わわっ!?待ってください!!」


 対して少女は走って追いかける。

 

 「はぁはぁ……他はいないんです。あなたじゃないと駄目なんです……」


 少女は息を荒くしながら、聞きようによっては勘違いしそうなことを言ってくる。


 「はぁはぁ……知るか、諦めろ……」


 対して俺も息を荒くしている。

 少女と違って走っているわけでもないのに。

 つまり、ただ興奮しているだけだった。

 ……俺、もう駄目かもしれない。


 危機感が増していき、俺はとうとう全力疾走で逃げ出した。


 「あぅ……待って、お兄ちゃん!!」


 こけた。

 石や段差があるわけでもない普通の地面で俺は思い切り転んだ。


 直後に少女が俺に追いつく。


 「あ、あの……大丈夫ですか?」


 少女は心配そうに問うてくる。

 

 「あぁ……平気だ……」


 少なくても怪我とかはしていない。

 精神面では全く大丈夫じゃなかったが。


 「ところで、何でお兄ちゃん?」


 俺は起き上がりながら、不思議に思っていたことを聞いてみる。


 「いんたーねっとで男の人は小さい子にそう呼ばれると喜ぶと知りました」


 少女はしたり顔でそう言う。

 どんなサイト見てんだよ、この子……。


 「参ったよ、話を聞こう。君、名前は?」


 「私はティナ=ルービナスです」


 ティナ=ルービナス。

 少なくても日本人ではないな。

 まあ、金髪碧眼の時点で察してはいたが。


 しかし、そのわりには日本語が流暢だ。


 「よろしく、ティナちゃん。俺は雪ヶ谷怜。親しみを込めてお兄ちゃんって呼んでくれ」


 対して俺は満面の笑みで危ないことを口走る。


 もういいや、ロリコンで。

 ティナたんマジ天使。


 可愛い彼女と一緒にいるだけで幸せでメリットなのだから、自分にメリットのないことはしないというルールは守れている。


 そんな風に自分に言い訳をする。


 「それじゃ、立ち話もなんだし場所を移そうか?」


 「あの、その前に……」

 

 ティナちゃんはそう言って指さす。

 その先には、重そうな荷物を持ったおばあさんが大変そうに歩いていた。


 「手伝いましょう」


 「嫌だよ、時間の無駄だ」


 俺は拒否する。

 そのおばあさんを助けても俺にメリットは生じない。

 

 「駄目です……早くしてください!!」


 そんな俺をティナちゃんは強引に引っ張る。

 どうやら自分のことじゃない方が強情らしい。

 

 俺は呆然としてされるがままに、おばあさんの元へと向かわされた。

 決してティナちゃんに触られたことに興奮してされるがままになっていたわけじゃない。

 まあ、それもあるけど。

 ……あるのか。

 


 ◇◇◇ 



 「はぁ……君さ、馬鹿なのか?もし俺が途中で付き合いきれないと言ってて帰ったらどうするつもりだったんだよ」


 「うぅ……ごめんなさい」


 結局あの後、おばあさんの家まで荷物を運んで終わりかと思いきや、その後もティナちゃんは道に迷った女性や怪我をした子供、探し物をしていた少年など、次々に困っている人を見つけては助けようと言い出した。

 それらを全て処理している内に、気付けば夕方である。


 俺とティナちゃんは公園のベンチに座っていた。


 途中で見捨てることだって出来た。

 むしろ俺はそうしようとしたのだ。

 

 だけど、出来なかった。

 それはもちろん可愛い彼女ともっと一緒にいたかったというのもないことはないが、それより。


 彼女が昔の俺と似ていることが大きかった。


 「もうやめろ、あんなこと」


 気づけば、そう口にしていた。


 「あんなことしたって君を苦しめることにしかならない。都合の良い奴だと思われて利用されるだけだ。その歳じゃあ分からないかもしれないけど、人間ってのは悪い奴ばっかりなんだ」


 俺は吐き出すように続ける。

  

 大体、俺だって君に欲情している悪い奴だし。

 とはさすがに言えなかったが。

 

 昔の俺は愚かだった。 

 自分の周りは良い人ばかりだと愉快な勘違いをしていた。

 口癖は『困ったときはお互いさま』、困っている人を助ければいつか必ず恩を返してくれると、自分にメリットが返ってくると信じていた。


 結果は彼女に言った通り、都合の良い奴と利用されただけだが。


 そのことから俺は人間はみんな悪だと断じた。

 利己的で悪辣な悍ましい化け物だと。


 俺が自身に二つのルールを課したのはそのあとすぐだ。

 

 「そんなの……知ってますよ。でも良い人だって少しはいます」


 「そうかもしれないけどさ……。でもメリットは返ってこない。誰かが幸せなら満足なんて気持ちは、自分を追い詰めるだけだぞ」


 「そんな大層なものじゃないですよ……でも、ほら」


 ティナちゃんは謙遜するように苦笑いしたあと、手に持ったジュースの缶を見せてくる。

 

 それは最初に助けたお婆さんがお礼と言って俺とティナちゃんに一本ずつ渡してくれたものだった。


 「メリット、あったでしょ?」


 ティナちゃんは今度は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


 そんな彼女に、俺は言葉を失う。


 ああ、そうか。

 この子は俺に似ているわけじゃない。


 確かに、『困ったときはお互いさま』という信念は同じなのだろうが。

 俺は人間の悪に恐怖し、信念を曲げた。

 しかし彼女はそれを知ったあとも、自身の信念を信じ続けたのだ。


 彼女は俺と違って、強い。


 「それで、話ってなんなんだ?」

 

 「その、お兄ちゃんに助けて欲しいことがあるんです」


 「助ける?何からだよ」


 「それは……言えません」


 依頼の内容が言えない。

 胡散臭さい話だ。

 俺のことを騙そうとしているようにしか思えない。


 それでも、俺は。


 「いいよ、助けてやる」


 今だけは人を、ティナちゃんを信じてみようと思った。

 悪ではない人もいることを信じてみようと思った。

 

 「えっ?いいんですか……?」


 「おう」


 「それでメリットは……」


 「いらない」


 今は二つのルールを捨てる。

 人に恐怖し、自身を守るためにつくったルールを。


 「え、でも……」

 

 「ん?ティナちゃんがエッチなご奉仕でもしてくれるの?」


 「えぇ!?お兄ちゃんが……してほしいなら……」


 「いや、冗談だから。そんな深刻そうな顔をするな……」


 どんだけ重大な依頼なんだよ。

 ちょっと安請け合いしたことに後悔しそうだ。

 まあ、しないけど。


 「そうですか……」


 きっと今から彼女は先程見せたような満面の笑みでお礼を言ってくれるのだろう。

 メリットなんてものは、それだけで十分だ。

 三回はヌける。

 ……もう、俺は駄目かもしれない。 


 しかし、そんな俺の期待に反して。


 「――ごめんなさい」


 ティナちゃんは悲痛そうな表情で俺に謝罪した。

 

 「……えっ?」


 直後、信じられないことが起きる。


 彼女が右手を俺に向かってかざし、そこから真っ黒な何かが飛び出して俺の腹部を貫通する。


 「ぐはッ……!?」


 腹部に走る、かつて経験したことがない程の激痛。

 俺は耐えきれず、ベンチから転がり落ちる。

 地面に腹部から溢れた血が広がっていく。


 何だよ、俺は騙されたってことなのか?


 俺は痛みで朦朧とした意識の中、なんとかティナちゃんの方を見る。


 「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 彼女は涙を溢れさせながら、ひたすらに謝罪を繰り返していた。

 俺が死ぬことで彼女は助かるのだろうか?


 はは……どうせ死ぬならエッチなご奉仕をしてもらってからの方が良かったかもな。


 まあいいや、パンツ見れたし。

 ベンチに座っているティナちゃんを、地面に倒れている俺は見上げる形になり、ミニスカートだったため彼女のパンツが見えてしまったのだ。


 ……なんで、紐パンなんだよ。

 それもネットで見たのだろうか。


 「お願いします……私達を助けて!!」


 ティナは激情に任せて叫ぶ。

 おいおい、俺は死にそうだっていうのにどうやって助けるんだよ。


 そんな風に思ったのを最後に、俺の意識は完全に途絶えた。



はい、結局異世界ものです!!

キーワードとかでファンタジー、異世界を強調しているので大丈夫かと思いますが、恋愛ものと勘違いしてしまった人はごめんなさい……。

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