第七十五話 新年最初の模擬戦
「なぁ、どうせなら秋人君たちも戦ってみないか?」
さて、どうしたものか。
「せっかくだし戦ってみようよ。2人で勝てるかは分からないけど足引っ張らないようにするから。」
「と、いうことなんで始めましょうか。」
周りでは「新年早々いいものが見れるぞ」というような声が聞こえる。
「松本さん、大丈夫だよ。絶対に勝つ。」
「うんっ!」
「さて、準備はいいか?もう始めるぞ。」
瀬田さんの言葉で戦闘は開始する。
「冥府の鎖・縛、常闇の衣、羅刹の闘気、吸収」
九郎を吸収しオーラの翼が発生する。
「剣の讃美歌、鉄壁の練習曲、奇跡のアリア」
「クズノハは適当に補助を頼む。」
クズノハが任せとけとでも言うようにきゅっと短く鳴く。
背後ですごい爆音が鳴る。
「松本さん、大丈夫?」
そう言ってヒールを飛ばす。
「あっれ~?今の耐えたんだね。てっきり落ちてくれるかと思ったんだけどなぁ。」
「まさか、あの程度じゃ全然平気ですよ。」
確かにhpの3分の1程度しか減っていなかった。にぃなさん相手にあれはあり得ないことだ。エンジェリックハート、松本さんの持つスキルの中でも極めて強力なものだ。被ダメージ7分の1、移動速度7倍だったろうか。ちなみに移動速度上昇とすばやさ上昇は微妙に違う。移動速度上昇は速度のみを上げるがすばやさ上昇は動体視力、反応速度なども上昇させなおかつ自分のスピードに感覚が付いて行きやすいのだ。
つまりは移動速度上昇だと自分のスピードに慣れていない状態なのだ。もちろんステータス上昇でもその度合いが大きいと少し違和感は感じるが。
「もう冴凪さんの攻撃は当たりませんよ。」
「へぇ、それは面白いね。」
松本さんは自由に飛び回りながらにぃなさんを攻撃する。その精度は恐ろしいもので高速で移動しているにも関わらず全ての攻撃が当たっている。逆ににぃなさんの攻撃は一切当たっていない。
「ショックブレード!」
瀬田さんは斧で相殺するが威力を殺しきれるわけもなく吹っ飛ぶ。
「いい攻撃だな。こっちも負けてねぇぞぉぉぉぉぉ!!」
確かに。一撃一撃が重たくてゾクゾクする。
全力をぶつけ合い、命を削り合う。この感じは本当に最高だ。いつまでたっても飽きないだろう。
「百連鎚」
あ、しまった。最初の1発を食らってしまった。これはもう避けきれんか。
「漆黒障壁」
避けきれないならばそれ以外の手で攻撃を中断させるまでだ。
「修羅解放っ!!」
これは少々まずいか?百連鎚によって俺は第三形態に移行していた。
「うおおおおおおおお!!!!」
なんだこのスピードは。まるで追い縋れないじゃないか。ここまで絶望的なものだとは。それにこのパワー。相殺できないでもないがスピードのせいでそれができない。常闇の衣でダメージは減っているがどこまでもつか。1分間くらいはなんとかして耐えなきゃな。意地ってやつだ。
そんなことを考えても回復魔法の詠唱すらできないのだ。どうしようもないだろう。まだ10秒も経っていない。hpは尽き、最終形態へ。そのまま殴られ続ける。
どうしたことだろうか、瀬田さんの体が何かに吹き飛ばされた。
松本さんの矢だ。傾城の一矢だろう。瀬田さんが松本さん目掛けて突っ込んでいく。
その斧が松本さんの体を引き裂き辺りに血が飛び散る。
「幻術ですよ。」
瀬田さんの左側に松本さん。クズノハの夢現か。そして真上から傾城の一矢が再び瀬田さんを襲う。
「いつのまに激励の幻想曲を・・・。」
「なるほど、クズノハの凪唄だね。」
凪唄とは一定範囲内の音が外に漏れないようにするスキルだ。
「雷神の裁き」
回避のしようがない超高速の攻撃でトドメをさす。
「ありがとう。松本さんがいなかったら絶対勝てなかったよ。」
「役に立てて良かった。」
俺ももっと強くならないとな。