第六十五話 試練 side天野悟
俺こと天野悟は試練の会場に来ていた。どうやって岩の上の門に行ったかというと春川に連れて行ってもらったのだ。
「どうも、あなたの試練を受け持つことになったアウエルといいます。未熟者ですが宜しくお願いいたします。」
少年の姿をした天使、アウエルが俺の目の前にいた。栗色のさらさらとした髪の毛からは穏やかなアウエルの性格が伝わってくる。
「あなたの試練はこのうさぎを満足させる料理を作ることです。かなりの美食家なので気をつけてください。」
「へぇい!俺はアクッレスっていうんだ、よろしくな!お前に俺の満足する料理が作れるかな?」
「ふふっ、俺のサブ職業のレベルは83だぞ?」
「じゃあ楽しみにしとくぜぇ。」
さて、何を作ろうか。今ある食材は鮭や鮪、牛豚鶏肉に各種調味料などなど。日常の料理で使うような食材はほとんど揃っている。さすがに伊勢海老なんて・・・あった、類似したモンスターだが。高級食材のような味わいのアイテムだって腐るほど持っている。
食材に腐るなんて表現はだめだと思うがな。ここは下手に慣れないフランス料理なんて作ろうとか考えずに日常料理を作るのがいいだろう。
うーん、うーん・・・ここはチキンライスだな。普段よく作ってるし。
まずは材料のピーマンと玉ねぎをみじん切りに、鶏肉を1cm角に切る。フライパンにバターとサラダ油を入れ鶏肉、玉ねぎ、ピーマンの順に炒めていく。バターはちょっと多めかなと思うくらいいれる。これにご飯を加えて炒める。
ここに調味料を加えて最後にパセリを盛り付ける。
「さぁ、これでどうだ?」
「俺はパセリが好きじゃねぇんだぜ!だが、チキンライス自体はうまいな・・・。」
「じゃあ試験は・・・」
「ああ、不合格だ。」
「なんでだっ?!」
「そりゃそうだろ。相手が食べたくないもんを入れてる時点で合格にはできねぇよ。まぁ俺は好き嫌い少ないし次でいけるんじゃねぇの?」
ふむ・・・パセリが苦手か。今残ってる材料は・・・なるほどなるほどいいものが作れそうだ。
よし、作り終わったぞ。これならきっと満足だろう。
「ほれ、これならどうだ。」
「素晴らしい匂いだ。これはひつまぶしだな。味も申し分ないし、1杯で3度おいしいってのもいい。合格だ。」
やっぱり料理の面白さも検討してみてよかったな。ひつまぶしはまずはそのまま食べ、次に薬味とわさびを付けて食べる。そして最後にお茶漬けにして食べるというのが普通だと思う。ちなみに俺は最後も薬味とわさびをいれる派だ。お茶漬けにというが実際はほとんどが出汁をかけると思う。お茶をかけることもあるようだが俺は遭遇したことがない。
「ではスキルを目覚めさせますね。」
少しおどおどした口調でアウエルが言ってきた。
【超短縮】調理の過程を省略するスキル。少しだけ質が落ちるので発酵などの時間がかかることに使うのがオススメ
まさかの使用法まで教えてくれる親切設計。試してみたところ一瞬でフルコースが作れた。味は・・・落ちてはいたが調理スキルの補正もあってか店で食べるよりもおいしかった。
発酵という過程を短縮できるならと思い色々と試してみたら切る、煮る、焼く、炙る、凍らせるなど調理が絡んでいれば何でもできた。こういう風に一部だけ短縮して作った料理はあまり味が落ちていなかった。
しかしさっきのチキンライスで言えば「材料を切る」、「炒める」という過程をそれぞれ超短縮すると「チキンライスを作る」ということを超短縮したのと同じ味になった。当然の結果ではあるが。
これ爆弾製作にも応用できないかなー。できないだろうな。調理の過程だし。
ハッ!「3分間できっちり調理してやるぜ。」みたいなノリで超短縮使って敵を倒すことは可能なんだろうか。
アウエルに聞いてみるとモンスターをちょこっと出してくれたので超短縮を使ってみた。普通に倒せてしまった。ただし自分が倒せないモンスターは無理だ。でもやっぱり1対多で本来苦戦するような場面でさえも省略できてしまうんだから恐ろしいスキルだと思う。