第六十四話 試練 side篠原誠一
勇者さん久しぶりに活躍
あー、みんな登っていっちまったな。これどうやっていけばいいんだ?
使えそうなスキル、なし。まじかよ。天の羽衣とか飛べそうなネーミングなくせに実際は飛ぶことはできない。
アイテムで何かいいのなかったか?バウンドスクエアか、使えそうなの見つけたな。
バウンドスクエアは地面に設置することでトランポリンのように跳ねることのできるアイテムだという。ただしその跳躍はファンタジー級だ。3分くらいは消えないようなのでたどり着くまで何回か試してもいいだろう。
一回目、失敗。普通に高さが足りなかった。二回目、失敗。高さは十分だったのに距離が足りなかった。三回目、ずっこけた。
なかなかに難しくて17回目にしてようやく門の前に行くことができた。やっと、試練を受けられる。腕がなるぜ。
「おう、お前さんの試練を受け持つ天使ミカエルだ。好きなタイミングで始めちまっていいぞ。」
ミカエルってあの大天使だよな。なんでこんな中年親父みたいなんだろう。まぁかっこいいおっさんて感じではあるんだがなぁ。美男若しくは美女を期待していた。嗚呼現実とは無情なのだなと、俺は思った。
「いやー、天使ミカエルがこんな外見だ、なんてっ!意外だ、なっ!!」
こんなの「こ」の時に斬りかかりそこから打ち合い始めた。
「ふんっ、外見なんてどうでもいいじゃねぇか。俺は俺さ。」
「こんな馬鹿力だったのも驚きなんだが?」
「勇者って割に弱点が多そうなのが俺には意外だな。」
「なんだとっ?!」
「それにお前は勇者の名を語るにゃぁ、まだ勇ましさが足りねぇぜ。」
勇ましさが足りないだ?俺は自分で勇者を名乗りたかったわけではないんだが。
「まぁ自分で宣言したわけでもねぇのに理不尽だって思うよな。でも今のお前は腰抜けだろ。」
「腰抜け?何を見てそんなことを言ってる。」
「ほら、お前今、俺の攻撃を『後ろに』避けただろ?」
「攻撃をアホみたいに食らうのは勇ましいんじゃなくて蛮勇だろ。」
「別に受けろとは言ってねぇよ。剣で弾くとかあんだろ?勇者は逃げたらいけないんだよ。」
「実力で劣るやつ相手に逃げるのはありじゃないのか?」
「無しだ。まぁ言葉遊びだって思われるかもしれないがな勇者は逃げるんじゃなくて向き合うんだ。一旦戦闘を避けてそこからそいつに遭遇しないことを祈るやつは逃げ。そいつを倒すことを目指すのが向き合ってるってことだ。」
「あぁ、そういう意味か。それなら俺も」
「できてねぇだろ。自分より明らかに強い大魔王との戦闘を避け続けてるだろ。その割に自分を磨こうともしてねぇよな。」
「確かにそういう所もあるかもな。それは認める。だが攻撃を避けるなっていうが全部ガードするなんて無茶だぞ。」
「避けんなとは言ってねぇよ。後ろに避けんなっつってんだ。前に避けろ。後ろに避けるのは時間の無駄だ。もう一回距離を詰める時間が必要になるんだったら食らっちまえ。」
なるほど一理あるな。最後の食らっちまえには賛同できねぇが。
会話をしつつも戦闘は継続していた。俺は必死に、ミカエルは悠々と。
「ん、まぁ合格でいいんじゃねぇの?そこまでできれば十分だ。」
「は?まだ倒してないじゃねぇか。」
「いや別に倒せとは言ってないだろ。神は『試練は天使との対決』っつったんだ。」
「なんか納得いかん。」
「俺は天使の中でも3番目に強いんだぞ。」
「1番じゃないのかよ。」
「ああ、1・2番は神のお付きのリリィとセレンてやつらだ。あいつらは負けたみたいだけどなぁ。大魔王の嫁と聖騎士君にな。」
「迅もあれで異常な強さなんだよな・・・。」
「まぁあいつらにだって追い付けるさ。さてお前の新たな力を目覚めさせよう。」
これが俺の固有能力だ。
【全能】幸運値以外のステータスを最も高いステータスの数値に揃える。