閑話 熱いバレンタイン
これは数年前、澪と秋人が恋人どうしだったころの話である。
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昼休みのことだった。この俺石田秋人は3人の女子に囲まれていた。今日は2/14である。つまりイベントとして女子が男子にチョコを渡すというものがある。
「いや、俺は遠慮しとくから。友チョコとかってことで女子にあげちゃいなよ?」
「そんな遠慮しなくていいよー。ほらほら、もらってよ!いっつもお世話になってるからお礼だよ。」
そんなに世話になってたとか言われるようなことをした覚えはあんまないけど。
「いやいや、ほら、俺には澪がいるから。」
「彼女さん想いなのもいいけど友達付き合いとかもちゃんとしないとだめだよ?澪ちゃんだって義理チョコにとやかく言うような性格じゃないでしょ。」
言うような性格なんだよ、などと言うわけにも行かず受けとってしまう。
先に食べて証拠隠滅するか?いや、あいつなら匂いでばれるか。そもそも女子と喋ってたことを匂いで判別した超人だ。ここはチョコもらったことをすぐに報告しチョコをどうするか判断を仰ぐのがベストだろう。
チョコを机の引き出しに入れて同級生の花田迅の席に行く。
「よぉ、迅。お前の席すごいことなってるな。」
迅の席には16個ほどのチョコの包みが置いてあった。明らかに本命だろうというような丁寧な包装をされたものもある。
「お前だって3個だろ?それにどうせあとで間宮にチョコもらうんだろ?彼女持ちのお前には負けるって。おっ!間宮じゃん。」
「花田君、今の話本当?あっくんがチョコもらったって。」
「うん、本当だよ。彼女として彼氏が3個もチョコもらうなんて誇らしいんじゃないか?間宮なら彼女の座を奪われる不安感なんてないだろうし。」
全く余計なことをベラベラと・・・。
「まぁ誇らしいわね。でも、ちょっとだけ妬いちゃうかも。」
そういいつつこっちにウインクしてきた。これやばいやつだ。
「3人とも委員会とかでちょっと仕事手伝ったりした人なんだよ。」
「そうだあっくん、今日ひまならうちに来てほしいなー。ちょっとチョコ忘れてきちゃって。一生懸命作ったんだけど。」
断るなんて選択肢俺にはない。
「あぁ、いつ行けばいい?」
「帰りにすぐがいいなぁ。」
「分かった。じゃあ一緒行くか。」
「やった!」
そして放課後。
「やった~、あっくんと一緒に帰れるなんて嬉しいなぁ。」
「いつも一緒に帰ってるでしょ?」
「もぅ、一緒に私の家に帰れるから嬉しいんだよ。」
「そっか。そういえばこんなことはあんまりなかったな。」
「何時くらいまでいれる?」
「7時にはうちに帰ればいいかな。」
「じゃあ2時間は一緒にいれるねー。」
澪の家に着き、中に入る。
「相変わらずきれいな家だよな。」
「さて、チョコをもらったってどういうことなのかな?それにあっくんじゃなくて花田君が教えてくれるなんておかしいよね?ね!」
あぁ、始まるぞ。
「さっきも言ったけど委員会とかで一緒だっただけだからな?」
「じゃあ何で早く教えてくれなかったの!?」
「え、いやそれは・・・ごめん。」
「ほら、座っててよ。チョコ用意するからね。」
にっこりと微笑んで俺を見てくる。もう大丈夫なのか?
チョコの匂いが漂ってくる。え、今作ってんの?作ったって言ってなかったか。
「あっくん、他の女の子からチョコもらって隠してるようなあっくんにはこのチョコをあげるよ。」
明らかにおかしい。ボウルに入ったドロッドロのチョコだ。それをヘラですくって俺の口に入れようとしてくる。
「ほらぁ、チョコおいしいでしょ?ね?あんなやつらが作ったのより私のチョコの方がおいしいにきまってるんだから!」
声が普段より少し高くなって掠れている。
口に入らなかった分が顔にかかる。
「熱っ!」
その言葉で澪が心配そうな顔をしてこっちを見てくる。今にも泣きそうだ。
「ごめんね・・・あっくんが他の女の子からチョコをもらったと思うとイライラしちゃって。」
「俺なら大丈夫だから心配しなくていいよ。それよりチョコ、美味しかった。」
そう言って俺は澪を抱きしめる。
「そうだ、チョコ用意してたんだ。食べる?」
「あぁ、食べるよ。」
「はい、持ってきたよ。」
澪が持ってきたチョコは我が彼女ながら見事としか言い様がなかった。
「ねぇ、もうちょっとぎゅってしてて。」
「ん、わかった。」
結局6時半までそうしていただろうか。
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澪「っていう、話があったのよ」
遥「澪さん怖っ!」
迅「いやー、俺の言葉でこんな風になってたんだな。すまん。」
神「アキト君結構甘かったんだね・・・。」
松「バレンタインかぁ・・・。」
秋「うん、これはまた見事な黒歴史だな。」