第三十九話 初めての吸血
出発まであと7分だ。準備も終わったしそろそろ行こうか。
「あ、お兄ちゃん血ぃ飲ませて~。」
「いいぞー。ここ4日くらい吸血してなかったよな。」
「最近は吸血なしでも敵を普通に倒せるようになってきたから。」
「ダンジョンではどんな敵が出てくるか分からんから飲んでおくってとこか。」
「そうそう、いっただっきまーす。」
ちゅーちゅーと美味しそうに遥が俺の血を飲む。別に首筋じゃなくてもいいと思うが遥曰く「これが礼儀なの!」とのことだ。
「なぁ、気になってたけど血ってうまいのか?」
「うん、甘い感じがして美味しいよ。サブ職業が吸血鬼だとそういう風に感じるんだろうね。」
ふぅん、そういうものか。
「あのさ、お兄ちゃんは血飲まなくていいの?」
「そろそろ吸血衝動きてるんじゃない?」
俺は黙り込んでしまう。図星だった。が、言い出しにくかったので今まで言ってなかったのだ。
「やっぱりねー。みんな優しいから飲ませてくれると思うよ。」
「いや、でもうちのパーティーって九郎と俺以外女じゃん?なんか女の人に血を飲ませてくれなんていいにくいし。」
「じゃあ私のを!」
「なんで澪がいるんだよ。お前は最後の手段だと思ってる。」
「にゃんすけ君、私もいいよ。でも痛くしないでね?」
牙で噛み付くんだから痛いと思うんだが。
「あー、私もいいよー。いっつも血をもらってるしお返し。」
うーん・・・松本さんは反応なし。俯いてるぞ・・・。こいつらはなんでこんなやつに簡単に血を飲んでいいなんて言えるんだろうかとか思ってる?!
「あの・・・石田君。」
「ん、松本さんどうしたの?」
「その、私の血で良ければいくらでも飲んでいいよ。」
「うーん・・・みんないいって言ってくれるのか。どうすればいいんだろう。」
「お兄ちゃんが一番飲みたいと思う人からもらっちゃえばいいんだよ。私はもうお兄ちゃん以外からは飲みたくないね。」
「そんなこと言われると逆に選びにくいだろ。」
「よし、候補者同士で指差して一番差された指が多かった人がお兄ちゃんに血を与えるということでどうだろうか。」
「それいいねー。さすがは遥ちゃんだよー。じゃあカウント3で行くよー。」
「「「「3」」」」
「「「「2」」」」
「「「「1」」」」
松本さんは遥を、遥は松本さんを、にぃなさんも松本さんを、澪はにぃなさんを指差している。と、いうことは松本さんか。
「美月お姉さんおめでと。」
そういえば遥は松本さんのことを最近美月お姉さんと呼んでいる。
「うん、松本さんでよかったね。」
「そのわりには澪ちゃんは私を指差してたじゃん?」
「いやー、あっくんが冷泉さんの血を飲むところみたいなーって。」
「そんな好奇心かよ。」
「ほらほら、時間もないしもう飲んじゃえ!」
「えーっと、じゃあいただきます。」
「・・・うん、いいよ。」
冷静に考えてみると首筋じゃなくてもいいんだよな。なのになぜか首筋に噛み付いていた。
「んっ!」
「あ、ごめん痛かった?」
「んーん、いいよ続けて。」
「じゃ、じゃあ行くよ。」
今度はできるだけ痛くないように血を吸う。最初の吸血だからかかなり時間がかかった。それにしても遥の言った通り甘かったな。
「よし、これでちゃんと動けるな。」
「さぁさぁ行こうか~。」
初めての吸血を済ませてダンジョン攻略へ向かうことになった。