第三十一話 来訪者
石田君がいなくなってから数週間、私は誰とも組むことなく1人で行動していた。花田君や神様とは今でも良く話している。いつか石田君が戻ってきてくれたらその時こそは絶対に着いていく。だから今誰かと組んでいたらその時は迷惑をかけることになるだろう。あぁ、早く石田君に会いたい。顔を見たい、声を聞きたい、肌に触れたい。私は彼が好きなんだと思う。今まで誰かを好きになったことなんてなかったから最初この気持ちに気付いたときはどうしていいかわからずパニックになった。でも、今はこの感情にはっきりと向き合える。
「松本会長、外に魔族を名乗る男が来ています。どうしましょうか。」
佐々木君が私に報告してくる。それにしても魔族なんて初めてだ。魔族が現れたなんて話すら聞いたことがない。
「なんて言ってるの?」
「竜狩りを出せと。」
竜狩り・・・石田君のことだ。今ここにいないことを知らないのだろう。
「分かった。私が会うよ。石田君の仲間だった私が話すのが一番いいと思うんだ。」
「しかし、それは。万が一のことがあったらどうするんです。」
「そんなことになったら佐々木君がなんとかすればいいでしょ。じゃあ行ってくるから。」
そう言い残してその場を離れた。魔族は正門のところにいた。どうやら親切にも待っていてくれたようだ。
「竜狩りはどうした。」
「竜狩りはここにはいない。少し前に学校を出ていったのよ。私は竜狩りの元パーティーメンバー。何か用があるのなら伝えることはできる。」
「元パーティーメンバーか、悪くはないな。君に危険が迫れば奴は助けに駆け付けるのではないか?」
「それはどういう意味なの。私に危険が迫ったなんて多分伝わらないと思うけれど。」
それでも助けに来てくれたらいいなと私は思う。
「君と奴の共通の友人が伝えてくれるだろう。君たちは離れていても連絡を取る手段を持っているのではないか?・・・もう時間は残されていないんだ。手段を選んでいる暇はない。」
時間がない?何の話だ。石田君に会ってどうするつもりなんだろう。
「石田君に危害を加えるつもりなら私がここであなたを殺す。」
「ほう、それができると?単純な実力の差からしても無理だが君は見た目が自分たちと大差ない俺を殺せるのか。」
前に石田君に私には人を殺してほしくないと言われたことがある。でも石田君のためなら・・・。
「私は絶対にここであなたを殺す。できないわけがない。」
「そうか、まぁ眠ってくれ。」
私の視界から魔族の男は消え私の目の前は真っ暗になった。
目が覚めると私はベッドの中にいた。部屋の鍵は締まっていない。とりあえず外に出てみることにした。
「目覚めたか。部屋まで連れてきたのはうちのメイドたちだから安心しろ。」
「で、あなたは石田君をどうするつもりなの?」
「俺は病にかかっていてな。もうこの命も長くはないのだ。だから最期は強者と戦って散りたい。そこで知ったのが竜狩りだった。あの時学校に竜狩りがいれば素直に事情を話して戦ってもらうつもりだったがいなかったため君を人質にとるなんて方法で奴を誘き寄せることにした。君は客人として扱う。決して不自由はないと思う。何かあったら遠慮せずに言ってくれ。ただ今は誰にもこの事実を言わないでほしい。」
「あなたのしたいことは分かった。でも誰にも言うなってどういうこと。」
「なんとなく・・・だな。それを知られると納得のいく戦いができない気がするんだ。」
死を目前にして勘が鋭くなっているのかな。
ちなみに私のいた部屋はとても快適だった。ベッドもふかふかで眠り心地も最高、ご飯もおいしく生活には全く困らなかった。こんな生活もいいなと思ってしまう。だって石田君が迎えに来てくれるんだから。